12 何処から手を付けるべきか分からなくなる事あるよね――って、私と組みたいってどゆこと?

 その後、私・八重垣やえがき紫苑しおんはスカードさん……いや、スカード師匠と今後について話し合った。

 結果、これからほぼ毎日特訓に付き合っていただける事となった。

 都合が悪い日などは事前に伝えて休暇とするが、それ以外は朝からこちらの都合の良い時間までみっちり鍛え上げてくれるとの事、助かります。


 私としては願ったり叶ったりだけど――師匠の私的な時間が無くなるんじゃないです?


「気にするな。どうせ今は大口の依頼もなくて暇してた所だからな。

 それに夜になったら帰るんだろ? 俺の時間はそれで十分さ。

 ああ、そうそう。

 指南の代金について、お前さんは心配しなくていい」


 なんでも私達異世界人がこの世界で生きる為の知識や技術を学ぶ資金については、レートヴァ教により各種機関に既に打診、支払われているらしい。

 そう言えば、この街近辺であれば、ちょっと問い合わせれば即座に教会が対応してくれるってラルが言ってたっけ。

 私達個人にひとまず渡された準備金といい、いかに私達が期待されているのかが窺い知れるなぁ……。


「まぁ、全世界に信者がいるんだ、世界の為に使うお金は潤沢ってことさ」

「――うう、なんだか、すごく申し訳ないというか、いいのかなって気持ちになりますね……

 あ、後で返してほしいとか言われませんか?!

 それで陥る借金地獄?! そして何処かに売られて……あ、あわわわわ――」

「君、結構破廉恥な妄想好きなのか?」


 ついつい色々な事を思い浮かべてしまう私に、クラスメートの堅砂かたすなくんの冷静なツッコミが入る。


「ひょえっ!? いやいやいや!

 最悪の事態を想定するとつい浮かんじゃうだけ……だと思いたいなぁ――」

「何故そこが希望的観測気味になるんだ……

 というか、別にその辺りを気に病む必要はないだろう、八重垣。

 元々俺達はこっちの世界の都合で強制召喚されたんだ。

 最終的には戻れるという話もどこまで本当かもわからない以上、それなりに対応してもらうのは当然の権利だろう」

「実に偉そうだが、実際そいつの言うとおりだと思うぞ?

 少なくともこの世界で暴れ回るような事でもしない限りは、お前さんたちは猶予期間中は【お客様】だからな」

「う、うーん、でも、当然の権利とまで言い切るのは、私的にはちょっと抵抗ありますです、はい――」

「まぁそう思うんなら、お前さんはお前さんの思うやりたい事を貫けばいい。

 この世界の為に何かを積み重ねてくれるんなら、レートヴァ教的には十二分だろ。

 あ、俺には、お前さんが冒険者として一人前になったら酒でも奢ってくれ」

「――わ、わ、分かりました。その時は是非奢らせてください」


 その約束と、明日の朝からの練習を確認して、私達は師匠の家を後にした。


 続けて向かったのは、街の中にある魔術師の為の相互互助組織・魔術師協会が管理している図書館。

 そこには『魔』――すなわちマナや魔力、魔術などに関する様々な本が保管されている。


 図書館はある程度の街であれば一つは確実に存在しており、

 地方によって蔵書に偏りがあるらしいが、基本的かつ有名な書籍であればどの街の図書館でも大体ちゃんと揃えているらしい。

 登録すれば貸し出しや閲覧は魔術師でなくとも気軽に行えるので、街の人々の利用もそれなりにあるんだって。


 あと、魔術の実践用の簡易スペースもあって、申請して料金を支払う事で調べながらの魔術実験も行えるという。


 そうして入った図書館は外観よりも遥かに広く、大きな施設であった。

 魔術で空間の調整がされているとの事で、堅砂くんも「俺達の世界にもあればいいのにな、この技術」と感嘆の言葉を漏らしていた。


 うん、実際めちゃ便利なので、可能なら習得したいなぁこれ。

 私の部屋、正義の味方的グッズで狭くなってるし――私達の世界に持ち帰りたいです、はい。


 さておき、私達は司書さんに頼んで、魔術の初歩を学べる本の場所を教えてもらった。

 堅砂くんもそれがお目当てだったらしく、今日ここを訪れる事は最初から予定していたとの事だ。


「俺達はこの世界の住人よりも魔力が抜きんでて高い――

 ならそれを活用する術を身に付けるのが、この世界で生きる為に一番確実だ」


 さもありなんです。

 基礎体力その他も鍛えるべきだけど、明確に有効活用できる部分が最初から分かっているなら、そこを使わない手はないよね。

 

「まぁちょっと考えれば馬鹿でも辿り着く答だろう。うちのクラスの連中でもな」


 でも、ちょっと圧が強い言葉はどうかなぁと思うよ、うん。

 同級生で、今日はたくさん助けてもらったけど、こういう所はちょっと心配になってしまう。

 

 ともあれ、そうして向かった先には先客がいた。

 私達のクラスの委員長である河久かわひさくんや彼と親しい副委員長や各クラス委員の面々である。

 堅砂くんが言っていたとおりに皆考えた末にここに行きついたのだろう。


 彼らは、冒険者登録した守尋もりひろくんや寺虎てらこくん達の魔物退治に少し付き合って、見学していたとの事だった。

 守尋もりひろくん達は選んだ『贈り物』が戦うのに向いた能力ばかりで、そのお陰で苦も無く街の周辺の魔物達――主にゴブリンやスライムだったらしい――を倒してのけていたらしい。

 その上、回復の能力を得ていた守尋くんの幼馴染の伊馬いまさんや神官さん達も控えていたので、当座の心配はないだろうと判断、元々の予定だった図書館に赴いたんだって。


「一応、変な事はしないようにって釘だけは最後に刺しといたんだけどね……やっぱり一緒に行動するべきだったかな」


 心配そうな表情の河久かわひさくん――私も心配性なので、彼の気持ちはすごくよく分かりますとも。

 とは言え、神官さん達もいるし、守尋くん達は何か悪い事をするような人たちじゃないし大丈夫だろう。

 ――寺虎くんグループは少し……うん、少し心配だけど。


 そんな河久くん達が先んじて読んでいた本や、まだ棚に残っていた初歩の本を私達は読み回していった。


 ちなみに私達は、交わす会話含めて、元々使っていた言語の知識をこの世界の……この国が一般的に使っている言葉に置換しているような状態らしい。

 それゆえに今までラル達と話す事に支障は生まれず、この時も本を問題なく読む事・理解する事が出来た。


 そんな私達が触れる魔術の言語は、元の世界での『未知の外国語』という扱いになってるみたい。

 日常的な言葉がそのまま使えれば便利だったのだが、そもそも魔法が私達にとって未知のものなので当然と言えば当然なんだろうね。


 なので、私達が最初に触れたのは、子供向けの魔術についての学習本からとなった。

 ――ちなみに挿絵が結構かわいかったです。癒されました。

 

 私が読んだ内容としては、要約すると魔力を使用する際の大別と、簡単な魔術についてだった。


 正直に言います。

 何をどう、どこから手を付けていくべきか、頭がこんがらがって、訳が分からなくなりました。


 所謂プログラムっぽい感じなので、子供向けでも私の頭だと難しいなぁ。


 私としては、ぼんやりとある程度先んじて身に付けたい魔法やら魔術やらがあったんだけど、

 それをどうイメージすればとか、どういう分類で、何をしたら発動できるのかとかのとっかかりが今一つ掴めませんでした。 


 皆も同じだったようで誰もが終始難しい顔をしてましたね、うん。

 ――ただ一人、堅砂くんを除いては。 


 結局、今日の所は重要な事をある程度メモした辺りで閉館時間となり、退散となった。


 日も暮れかけていたのでそろそろ寮に戻ろうか、と皆揃って歩き出した最中。


『八重垣、少し話がある』


 そんな声が脳内に響いたので、私は河久くん達にちょっと見ておきたい場所があるから先に帰ってほしいと陰キャ特有のおっかなびっくりで告げて、すぐ近くの公園へと足を運んだ。

  

 入り口から少し進んだところにベンチがあったので、腰かけて待つ。

 すると、一分ほどで彼が……【思考通話テレパシートーク】で私を呼び出した堅砂くんがやってきた。


「――安心した」

「な、何がでしょう?」

「さっき声を掛けた時点で、俺に何の用事かを普通に声に出して問い掛けやしないかと心配だった」


 いや、流石にあんな声のかけ方すれば、普通には話せない事を話したいんだろうなぁ、くらいは分かるつもりだよ。

 ……うん、多分、頭が冴えてる時は(疑心暗鬼)。


「あ、あはは――そ、それで、何の話かな?」


 余計な事は会えて口にせず、立ち上がりつつ誤魔化し気味に笑った後、私は問うた。

 すると、堅砂くんは真剣な顔で、


「時間が惜しいから単刀直入に言う。八重垣、俺と手を組まないか?」


 そんな事を提案してきたのだが。


(――堅砂くん的には単刀直入かもだけど、私には違うんだけど……? どういうこと――?)

 

 私は彼の意図するところがさっぱり分からず、頭の中に疑問符を浮かべる事しかできなかった。


「え、えと、堅砂かたすなくん、ごめん」


 なので私は堅砂くんに戸惑いながら小さく挙手した。

 今日一日で結構話したからか、堅砂くんにはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、緊張が緩んで、話しやすくなってる気がします。

 ふふふふ、ホント話したよね、これはもう親友レベル……はい、すみません、調子に乗りました(精神的土下座)。


 ともあれ、表面上は普通(?)に伝えると、堅砂くんは怪訝な表情を浮かべて、微かに首を傾げた。


「俺とは組みたくない、という事か?」

「あ、いやいやいや! そういう事じゃなくてね?!

 組むって事が――その意味がよく分からなくて。

 だって、私達はクラス全員で組んでる――協力し合ってるような、状態じゃない?

 そ、その上で私達個人が手を組む事の意味があるのかなって思って」

「なるほど、君はそう考えている訳か。

 確かにその考えであれば意味が分からないと思うのも当然だ。

 だが俺の考えは違う。

 俺は、今の所クラス全員の意思が統一できているとは思っていない。

 ゆえに君が思うように協力し合っているとも思っていない」

「え? だって一応皆足並みは揃ってるんじゃ――」

「そう見えているだけだ。

 百歩譲って、同じ方向は向いているとしよう。

 だが、その最終的な目的地は統一できていない。

 それどころか、これからの日々への危機感すら個々でバラバラだ。

 もしちゃんと協力できているのなら、今日他人の行動を見物に行くだけ、なんて無駄な選択をするはずがない」

「え?」


 堅砂くんの言葉に、私は思わずまじまじと彼の顔を見てしまった。

 私は助けてもらった立場なので、自分から口にするの憚られるのだが、今日の彼の行動は私の――。


「もしかして俺の今日の行動も同じだと思っているなら違うぞ。断じて違うぞ。ましてやストーカーじゃない」


 私の視線に気づいてか、堅砂くんはちょっと慌てた様子で否定した。


「俺の行動予定と重なる所もあったからだが、一番の理由は、君を見定める為だ」

「え? え? わ、私を!?」


 思わぬ発言にちょっとびっくり。


「か、堅砂くんが見定めるようなところあるかな?!

 私頭が良いわけじゃないから先の見通しとかがあるわけじゃないよ!?」

「ああ、それは重々理解している」


 そこを言い切られると内心ちょっと複雑なんですが――まぁ事実なので怒る事じゃないけど。

 なんせ私ステータスの知力、クラスの中でも低い方なので!(ドヤァ)


「じゃ、じゃあ――はっ!? ま、ままま、まさか、私の胸とかです?!」

「そこ見定めてどうにかなるような事あるか?

 確かに、君の胸部は相当に豊満だろうが」

「そ、そそそ、そういう事平然と言うのどうかなぁ?!」


 ちらりと一瞥されて、思わず胸を隠すようにしてしまう私でした。

 いや、はい、自意識過剰なのは――私に価値がないのは私が一番分かっておりますぜ、ええ――重々分かっておりますが、浮かんでしまったのでつい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る