13 世界を変える小さな同盟――思えばここから色々始まったんだなぁ
「事実を言っただけ――ああ、いや、失礼だったな。
視線を向けた事と公共の場で口にする事ではなかった点は謝罪しよう」
思わず赤面して動揺する私・
「だが不埒な考えはしていない事だけは強調しておこう」
「……ほ、ホントに?」
「……不埒じゃあない」
「…………じゃあ、
「――――――――――――そこはノーコメントで」
「そ、そう、うん」
えーと、めちゃ気になるけど、不埒じゃないならまぁ……うん、気になるけど。
そうして何とも言えない空気になったのを、堅砂くんは咳払いで整えた。
「ごほん。さておき、本題に戻ると……俺が君を見定めていたのは、意外と現実的な所だ。
君はクラスの中で、おそらく二番目に現実の状況が見えている。
一番は勿論俺だが」
でしょうね。うん。
一番はそうだろうなぁ、そう言うだろうなぁと思ってました。
「現状はおそろしく俺達に都合が良い。正直良過ぎる位に。
昼間はあのスカードとやらにそのぐらいの待遇で良いとは言ったが、実際そうなっているからこそ、正直薄気味悪い。
君もそう思っているんじゃないか?
だからこそ、現実的に早急にこの世界で生きる手段を模索して、冒険者を選んだんじゃないのか?」
「あの、その、堅砂くん、薄気味悪いは言い過ぎだと思うよ?」
「そうか?」
「うんまぁ……ただ、ね。
すごく良くしてもらってるからこそ、なんていうか、何か――上手く言えないけど、何かがちゃんと噛み合ってないかな、とは私も感じてる、うん」
ラルや神官さん達が私達に向けてくれる善意は間違いのないと思う。
真っ直ぐで、世界の為にもやっているんだって意思が、真剣さが確かにある。
そして、それと同じくらいに他の世界に迷惑を掛けて――私達に申し訳ないと思っている……そんな優しさも間違いなく。
だからこそ、私は現状にそこまで深い疑念を抱いてはないんだよね。
ラル達が言っている事には、きっと嘘はないし。
だけど、彼女達が思っている事がどこまで真実なのかは分からない、とは考えちゃうなぁ。
そうだとしたら何故なのか、もしそうだったらどうすべきか、とかまでは考えられないのが、私の賢くない頭の限界なんだけど。
あと、ただ純粋にたくさん善意をもらい過ぎている事に、いいのかなぁとも思ってるんだよね。
「だ、だからかな。
レートヴァ教の皆さんは間違いなく良い人たちだけど――ここまでしてもらう価値が、本当に私達にあるんだろうか、とは思ってる。
だから少しでも早く自立すべきなんじゃないかな、って思って冒険者になるべきだと思ったの。
昼間師匠に話したあれこれ含めた感じで、うん。
ラル達を信じ切れてないみたいで、そう考えるの、あんまり好きじゃないけど」
ラルや神官さん達の真摯さを、私は疑いたくなかった。
そう考えて思わず表情が渋くなる私に、堅砂くんは言った。
「それはそれ、これはこれだろう。八重垣が気に病む事はないと思う。
まぁともあれだ」
私を気遣ってくれたのだろう言葉にお礼を言おうとしたのだが、その隙も無く彼は言葉を続けていった。
「話を元に戻すが、つまるところ、現状はクラスの連中が考えているほど楽観的じゃない。
だからこそ、それをなんとなくでも感じている君と手を組んでおきたいんだ。
危機感のない連中にもっと焦るべきだと言ったところで、馬の耳に念仏――意味がない。
精々場の空気を悪くして、クラスの意思統一を遠ざけるだけだ。
俺の言葉だと尚更にな」
「そ、そう思うなら、普段からもっと優しい言葉遣いにすればいいのに」
ふへへ、と思わず苦笑しつつ告げると、堅砂くんは渋面を形作った。
「今の笑い方は若干どうかと思うぞ。周囲に良く思われたいなら気を付けた方がいい」
「うっ、すみません……努力します」
「と、いうように。
俺は嘘を吐くのは好きじゃない。優しくしたくもないのに優しくはできないよ。
現状結構我慢してる方だしな。
ともかく、俺が言いたいのは、連中が危機意識を抱くまでは、危機意識を持っている人間で打開策や準備を確実かつスムーズに進めておきたい、そういう事だ。
そうして動く俺達の真剣さが僅かでも伝われば、連中の考えも変化を見込めるかもしれないしな。
だからこそ、今それを中途半端な心持で引っ掻き回されたくないんだ」
「み、皆にちゃんと説明出来ないかな? しっかり話せば納得してくれるんじゃ――」
「じゃあ、八重垣が危機感を持つように説得できるのか? そう出来るなら俺としてもありがたいが」
「――はい、ごめんなさい、それは無理です。
私のような陰キャじゃ絶対に。勘弁してください――平に平にご容赦をっ!」
「いや、道の往来で土下座しなくていいから……」
確かにそう言われるとどうしようもない。私では皆への説得力が足りなさすぎる。
守尋くんみたいなカリスマ性のあるヒトだったらどうにかなるんだろうけど……生憎そうはいかないのが人生なのです。
「君が陰キャかどうかはともかく、クラス全員を納得させるのは難しいだろ?
それに危機感を持たせたら持たせたで今度は精神的に追い詰められる人間も出ないとは限らない。
――というか、現状俺も含めて元の世界に帰りたい、という意識が薄すぎる気もするんだが……特殊な状況に浮足立っているんだろうが」
「うーん、えと、堅砂くんの言いたい事、大体は分かったよ」
現状、クラス全体での意見の完全一致は限りなく難しい、それは多分間違いないだろうね。
危機感については、確かに私含めて全員もう少しは持った方がいいとは思うけど、あえて声高に叫ぶリスクがあるのも事実。
今は共通認識を持つヒトたちだけで、出来る事を進めておくべきというのも納得できた。
人数が少ない方が試し易い事もあるのだろうし。
私は特にそっちの方が都合良いしね!(陰キャ的主張)
ただ、相方が私でいいのだろうか――いや、改めてわざわざ言う事じゃないか。
きっと堅砂くんも吟味の上で誘ってくれたんだろうし。
正直本当にいいのかなぁとは思うんだけどね――それでも私なんかを頼ってくれたことが嬉しかったので。
「だ、だから――えと、私で良かったら、手を組んでくれますか?」
だから私は、私が私である事を申し訳なく思いながらも、堅砂くんの厚意と深い思慮に甘んじて手を差し出した。
堅砂くんは、そんな私の手と顔をじっと見据えて――少し間を開けてから、同じように手を差し出し、握り返してくれた。
「勘違いしないでほしい。これは俺が頼んだ事だ。だが、よろしく頼む」
「う、うん、よろしくね」
「具体的な事は、後で【
結構話し込んで遅くなってしまったからな」
「わかっ……んん?」
「? どうかしたか?」
「その、えと、うん――最初から全部
あ、ごめんね、きっと私の素人考えだね」
「――――――不覚」
「いや、そんな、どうしようもない失敗した、みたいな顔しなくていいからね、うん」
ともあれ、私はこうして堅砂くんと手を組む事となった。
その際、私だけに生じる不安というか懸念材料がちょっと思い浮かんでいたんだけど――寮で待ち構えていた事態が、そんな思考を全て吹っ飛ばすこととなった。
「え? ど、どうかしたの――?」
私達二人が寮に帰ると、その庭先でクラスメートたちが集まって、皆一様に沈んだ表情を浮かべている。
そんな状況の中心にいた守尋くん、その背後には小さな女の子が隠れるように、不安げな面持ちでしがみついていた。
身体全身、衣服全体が汚れてしまっている、その女の子。
彼女がここにいる事が、何かしらの事態に繋がっている事は想像が出来た。
ただ、その事態が想像を悪い意味で越えている事を、私達はすぐに知る事となった。
うーん、色々起こるなぁ……流石(?)異世界ですね、ええ。
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