番外編〜流出した頼子の感想戦①

「ん?んん?あれ…?あ…」


 仕事でとても疲れて眠ってしまい、気付けば朝になっていた時に近い感覚…しかし…思い出せば大声を上げたくなるような…


 あぁ…そうだ…私のはしたない姿の動画がインターネットに流れていた…

 沢山の画面で、まるで花畑で花が開くのを倍速にしたかのように私の終わりが開花していた。


 高校の時は男子がAV女優の話をしているのを見て『男子って下品だね』なんて話していた私が…


――ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!♥い゙い゙ぐぐううッ!♥――


 画面の中で獣の様に哭いていた。

 カメラに向かって、時にはカメラを掴んでアヘ…


「うぅ…ふぐっ…グス」


 和樹さんが私を抱きしめながら一緒に寝てくれている。

 私が逆の立場だったら抱きしめる事は出来るだろうか?

 …………多分出来ない…汚物を見るような目で出ていけというだろう。



 私はあの瞬間、自分は死んだと思った。


 私の人生の設計…


 陸上で全国大会まで行き、映画研究会に入り家族に頼み込んで映画の学校に行き、親に行く意味無かったと思われたくないから動画編集の仕事に就いた。

 小さな努力を積み重ね、ちょっと偉くなったからと、給料が上がったと浮かれて、和樹さんとウチの両親でちょっと良いレストランに行って親睦を深める…これから子供を産むかも知れない、産んで良かったと思えるように、普通になる為の積み重ね続ける。

 将来は子供を作り、職場に復帰して…

 順風満帆な道が見えた気がした。

 

 それが全部崩壊した。


 人生とはサクラダファミリアの如く、いつ出来るか分からないけど、不可能と言われている事を可能にしていく努力と言ったのはカイゼル髭だったか…あの髭。

 あの髭は不可能を可能にしようとして捕まった。


 結局、何を言っても私の関連動画には私の性獣フレンズ達…『あの女優のアヘが流出!?』等、獣しかいない。


 思い出す…私はあの時、鳴き叫びながら気絶した。

 泣き叫んでいた時に聞こえた、和樹さんの優しい言葉が未だに心に刺さっている。

 

「あ、そう…だ…」


 そう、昨日の地獄の中で唯一嬉しかった事…和樹さんはあまり人の事を褒めない。

 クソケンゴには歯の浮くような台詞を学生時代に沢山言われた。

 それで女優やアイドル気取り、有頂天になっていた私も私だけど…


 和樹さんが子犬みたいで可愛いと言ってくれた。

 兎の如く発情しっぱなし、興奮した猿のような顔で性欲を貪る私を、子犬の様に可愛いと言ってくれるのは…多分、今後の人生で和樹さんだけだろう。


 どうすれば許されるのか、どうすればまた愛して貰えるのだろうか?

 自問自答の末、取った行動が…





「わ、わん!クゥーン!」


 犬のフリだった。

 自分でも無理があると思った。25越えた女が犬。奴隷にでもなる気だろうか?


 それでも頭を撫でてくれてた。

 和樹さんは『成る程、そう来たか』と言っていたが、受け入れてくれるようだった。

 私は犬になると勝手に決めた日に、排泄をしてしまいいきなり涙を流した、犬にすらなりきれない。


 和樹さんは私がウンチする時なでてくる。本当はやめて欲しい…けど…心とは裏腹に顔は真っ赤になり…欲しくなってしまった。


 その日の夜、和樹さんに誘われた。

 今晩、やってみないか?と。


 私は全部見せなければ、もう嘘はつかないと決めていたので、私の狂った欲求をぶち撒けた。

 ネットに流れている時点で、もう取り返しはつかないから。

 むしろケンゴの時も、カイゼルの時も、全てを越え


 結果、和樹さんは合わせてくれたけど、酷い有り様だった…動画以上の荒れっぷり。

 



 そんな昼は犬のフリ、夜は獣の毎日を過ごしていて一週間は経っただろうか…

 正直外に出るのは嫌だ。

 皆が私の事を見ているような…噂しているような恐怖…


 そして、ここ最近は私の仕事の関係で話を付けたり、親に説明に行ったり色々忙しいらしく、和樹さんがちょくちょく家から出る。

 私の事だから一緒にいて欲しいという我が儘は言えない。


 自分の携帯は和樹さんに預けたので、出ている間に和樹さんが見ていたと言う小説をタブレットで読む。

 映画ばかりで小説は読んだ事無いが、なかなか面白い。

 ついつい犬のフリをしている事を忘れてしまうぐらい見てしまう。


 見ながら同時に思う、許す許さないは理由では無く、浮気された側の匙加減…コメントを見ていると廃人になれば良いとか絶対に許すなとか出ているが…


 そう考えると和樹さんは…今の雰囲気だと…謝って心を入れ替えれば多分許してくれるだろう…

 でも和樹さんとの夜は相変わらず昔の様に狂ってしまう…これで心を入れ替えてると言えるのだろうか?


 そんな事を考えていると、DVDがポストに投げ込まれた。

 紙に『女だけで見ろ』と言う、明らかに脅迫じみた文章が添えてあった。


 何だろう?また、私の過去からの戒めだろうか?

 でも、こういうのを一つづつ無くしていかないといつかは本当に全てを失ってしまうから。

 自分の罪を認めながらDVDを流した…







『ギャアアア!?ユルシテェ!!』


 え?け?ケンゴ!?


『当たらねぇなぁ、やっぱり格好良く二丁拳銃で撃つと当たらないな』


 パァンッパァンッパァンッ…パスッパスッパスッ


『痛いっ!いたぁい!!』


『当たるまでやるからな、ベニは甘ぇんだよいつも』


『いや、頭とかはマジで勘弁な!?大変だから、処理すんの!後当たってるからもうやめてよ』


 鎖に繋がれているのは…ケンゴ…そしてその前でモデルガンみたいなものを撃っているのは…和樹さんが会話していたテレビ電話の綺麗な人…確か、モデルだ…雑誌で見たことがある。 読者モデル的なものではなく何処かのブランドの、専属モデルの…そうだ、シオンだ…それともう一人、眼鏡の男の人がいる。


 ケンゴはモデルガンの弾が当たったのか腕から血を流している…本当にモデルガン?


『さて、コレを見ているヤ◯マン女。カズちんとナゼ?一緒にいるのかは聞かない。カズちんが嫌がるから。自分の事、知られるの嫌がるからね。カズちんは。皆そうだけど。だけどね…』


 「ヒィッ!?」


 カメラ越し…私に向けてモデルガンを構えられ、動画なのに声が出た…目が殺す気の目だからだ…


『私はお前を、知っている。そして自分が何をやったか考えろ、カズちんを侮辱するならその席を譲れ、私ならカズちんをあるべき場所に戻せる、以上。ベニが話を付けたらそこに行くからな。それまでに決めろ、もしくは消えろ、再见(バイバイ)』


 手をひらひらとやり動画が終わった。

 和樹さんの過去はよく知らない。余り話そうとしないからだ。

 いや、私が昔の事を話さないから…いつも濁すから気を使ったのかも知れない…


 ただ、和樹さんは行動を起こしてからとても早かった。付き合っていてもそういう所があった。

 自分の事を知られるのを嫌がるから、代わりに観察してた。

 和樹さんは人の想像出来ない事を先に調べて、準備して、何も無ければそれで何もしない。

 だけど、何かあると何事も無かったのように解決している。

 その事を知らなければやる気の無いただのフリーターにしか見えない…


 色々と…少し前から知ってたのかな…もしかして…


 私はたまに涙を流しながら…それでも犬のフリから動けない。

 優しい和樹さん…いつか愛想つかれて捨てられるかも知れない。

 でももう動けない、怖い、怖いよ…


 しかし時は無情で、和樹さんはずっと優しく…そのままでいてしまい…


 ピンポーン…


「カズ君いますか〜」


「カズちーん!♥会いに来た…はぁ?」


 とても綺麗な悪魔が私を断罪しに来た…


 

 

 

 


 


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