【峰】〜頼子の煙の様な修羅場、暗雲立ち込めた未来

『た、ただいまー!どうしたの?ちょっと早く終わって帰れちゃ…カズちゃん!?』


 分かっていた。

 カズちゃんが普段からは考えられない動きをしている。

 私の聖域…自宅…そこで異常が起きている時点で…バレたんだろう。

 何処までバレてるか…なんて関係無い…

 胸の苦しみだけで死んでしまいそう…


『何処!?和樹さん!何処!?お風呂!?』


 私は混乱して和樹さんを探し回る。

 カズちゃんとは言えなかった。だってもう対等じゃないから。


 そしてパソコンの画面、机の上には興信所?

 

【山里頼子さんは、真っ黒です。それはもうズズ黒ですね、もう何年も前に、前も後ろも黒ずんでます 熊塩興信所】


 もう何年も、黒ずむ程しているという事!?

 この興信所は私の何を知っているっていうの?

 でも…興信所を使っているという事は…もう昔の事も…そしてパソコンを見ると…


【やぁサレ男君、皮を被ったソ◯ン雑魚君 頼子は俺のビッグマグナムにメロメロさ 泣きながらこの写真で一人で楽しみ給え このフリーター野郎…】


 カズちゃんへの長文の誹謗中傷とともに付いている画像…私の…

 興信所の調査結果の様な紙には、シミが付いていた。

 多分、これは涙かな…ごめんなさい…悲しんでくれている…いや、知らなかったんだから当たり前だけど…でも、憎むより先に悲しみが来ていた事に安堵する自分が嫌だった。


 立ってられない、崩れる様に座り込んだ。

 頭の中に、ありきたりな【ごめんなさい】が繰り返される。


 自分のやった事に吐き気がして、吐くのを我慢して力を入れると、下半身から…ごぽぉっと何かか出た…何かじゃないよ、知ってるくせに!


 汚い!身体中がなにか虫を這いずるような、アソコの中に気持ち悪い物がウネッている様な感覚に襲われお風呂場に行った。


 洋服も脱がずシャワーを股の下、気持ち悪いウネッている部分に当てて泣き叫んだ。


 赤ちゃんが欲しかった、和樹さんとの赤ちゃん。

 その赤ちゃんが育つ部屋、その大事な所に穢らわしいモノを…

 私は嘔吐しながら中を掻き出すように洗った。


『赤ちゃん出来ちゃう!赤ちゃん出来ちゃうよぉッ!和樹以外の赤ちゃんは嫌!出てってよおおおお!!!』


 お風呂場から出て次にしたのは電話だった。

 私が悪いのは分かる。だけどケンゴ君も…

 

『アンタ何考えてんのよっ!こんなの約束と違うッ!和樹さんを巻き込まないのでって言ったじゃない!メールよ!


『メールって何の事だい?知らないよ?それより戻ってこないの?』


『知らない!?ふざけないでよっ!』


『それより汁◯優待たせちゃってさ、早く…』


『なに言ってんのよ!戻る理由ないでしょ!アンタがこっちに来なさいよ!一緒に罪を償いなさいよ!』


 私は心のままにケンゴに罵声を浴びせたが…約束…なんかしてないんだ…今でもまだ、どっかで人のせいに、罪から逃げようとしている。


 電話を切って思う。未だに出てこない和樹さん。

 この眼の前にいない状況が怖い…こんなの私じゃないのに…馬鹿の私が出てきてしまう!イヤ!イヤぁ!!出てきてぇ!和樹さん!


 どんなに懇願しても出てきてくれない…でも、多分見ていると思う。

 だから…私は…命をかけることにした。

 もし…悲しみで和樹さんが死ぬなら後を追うから…結果同じだろうと包丁を手首に当てると…


 電話がかかってきた!?急いで出る!


『和樹さっ!?あ!?』プーップーッ


 切られた!?何がしたいのかわからない!?

 繰り返すうちに、ずっと聞きたかった声がした…けれでも聞くのが怖い、そんな声が言った。


『そこを動くな』


『は、はい…従います…従ったら話を…聞いて頂けるんですね?』


 私は必死に細い糸を辿る…


『頼子、黙れよ、それよりそこで裸になれ』


『え?和樹さん?』


 ドキッとした自分が怖い…


『なにか?』


『いえ!はい!やります!』

 

 私は絶望した…和樹さんの対応にではない。


 電話で声を聞いた時、嬉しかった。

 私は絶対にこの人と一緒にいたい。側で罪を…罪を償わなければならない。


 罪を償わなければ、イケないのに、そっちにイッたらイケないのに、命令サレて、裸になっている時、ツーっと太ももを伝うものがあった。

 駄目だ、そっちに逝ってはイケない。

 本物のカイゼル髭の先っぽはそんなに固くない。髭の先端は今の私の身体のように硬く、刺激を欲しがらない。

 頭が…頭が…おかしくなる…


 和樹先輩との営みはどちらかと言えば大人しかったと思う。私が緊張するからだ。

 こんな事をしたら嫌われるとか、こんな反応したら引かれるとか…映画学校時代の様にならないようにした。

 もし、和樹先輩に昔みたいな事を望んでいたら何か違ったのかな…

 

 けれど、今、命令されて…裸になってこんな事に歓びを覚えている自分に絶望した…

 罪を償う気がまるで無いではないか?

 だけど分かる事は…愛人でも何でも良い…もう一度…会いたい…会いたいよぉ…和樹先輩…


 私は気持ちの限り弁明、釈明しようとしたが、言っている言葉が、まるで欲しがっている様にしか聞こえない発言をした。


『かずくぅん…どこにいるのぉ…綺麗にしたんですぅ…だからぁ…みてくださぃぃ…』


『え?じゃあベランダの方に…』


 あさましくベランダに向かって、一番見せてはイケないのに所を見せつける。

 そして欲しがっている身体を向ける…

 

『ンッ!♥クゥッ!?♥ンンンッッ♥』


 私はもうイってはイけないのに行く所に逝ってしまった…将来の夢はお嫁さん…とは対局の所に…


 その時、カラコンをしているが実際は視力2.5近くある目が捉えた…ベランダの方向…裏山…竹林の更に向こう、およそ200メートルぐらい先で…何かが光った…


『ベランダ!?…キャッ!』


 人間、本当の危機になると凄まじい行動力を発揮するもので…私は近くにあった小麦粉をぶち撒けて、テーブルの影に隠れた。

 そして玄関に移動し、マラソン用に買ったスニーカーに履き替え、玄関を出て全力で裏山の光った場所へ走った。

 


 裸とか関係無い、多分、最後のチャンスだ。

 もし間違えれば、これから先、走る事もないだろう。ずっと走る事はやってきた。

 私に残ってるものはこれしかない。

 だから…命をかけて…和樹さんの…所まで…


『うおおおおおおおお!?』


 驚いている和樹さんが見えた。

 望遠鏡でずっと見てたんだ…私の事。全部…見られてたんだ…良かった…

 悦んでいる場合では無いのに悦びが襲う、どういうつもりで後悔しているとか、ごめんなさいとか言っているのか…そして…


 掴んだッッッ!


 逃げようとする和樹さん、抑え込む私。

 そのまま押し倒して謝る。


『ハァハァ…和樹さん…ハァハァハァ…ごめんなさい…ハァハァ…逃げないで…聞いて…話を…』


 今までに見たこと無い、真っ黒い目で見られる。

 自分のやってきた事を正当化する気はないが…今、身体を、捧げればどうなるのだろう?

 きっと…カイゼルやケンゴどころじゃない事に…

 この汚れた身体を…和樹さんが…


『ゴクッ♥』 ジジー


 ズボンのチャックに手を伸ばし中を…


『いやいや、やめろ!馬鹿かお前は!?』


『あ!?ごめんなさい!!違うの!これは!』


『わかったわかった、とりあえず家に帰ろう』


 上着を私にかけてくれて、2人で家に帰った…そこから…私は全てを話した。


 映画学校かで弾けて、帰ってきて狂って、今に至る。


 嘘はつかないように、だけどどうしても主観が入った。

 言い訳もした、都合良く説明した部分もあった。


 和樹さんはずっとスマホを弄りながら聞いてた。

 私からは『聞いてますか?』とは言える訳無い…でも黙ると…『聞いてるよ、続けて…』と言われる。


 反応が無いのが怖い、いや、たまに何かを堪える様な顔をしている。

 ごめんなさい、和樹さん、ごめんなさい。


 ケンゴの話をしている途中で『その男、呼べたら呼んで』と、いきなり言われた。

 私はメールでケンゴに住所を伝えて、来ないと警察に訴える事を言った。


 そして…話し終わった時に…和樹さんがいきなりキレた。


『言ってる意味が全然分からないし!?元カレに愛してるって言ってたクセに俺に今でも愛してるってよ!そういうのが一番信用出来ねぇんだよクソがっ!謝る、愛してる以外にやる事があんだろがよ!それ連呼されるとシュ…が悪い見てぇ…じゃなくて!テメエはとう…じゃない、元カレと元カレの精子と一緒にテメェも◯ねよッ!とう…さっさと◯ねカスがッ!ハァハァ…続き楽しみにしています…あ、コメ欄が閉じてる…しょうがないからクマシオのクソ小説に誹謗中傷しよう』


『ごめんなさい!ごめんなさい!ピル飲んでも出来る時は出来ます!迂闊でした!本当にごめんなさい!』


 何の話?いや、私の事だろう…


『バレてから愛人やら言うなや!だったら最初から愛人やれやボケカスッ!同じ、やってる事は同じだかんな!?愛人になったらWin Winって何も反省してねぇじゃねえか!しかもお前、それで良しとしてるじゃねぇか!?お前は無敵か!?無敵と言えば!?成◯遙かてめぇは!だから間違えんだよ!この無敵女!お前はもう半年以上無敵だよっ!でも、自分のタイミングもあるでしょうから、また再開するのを待ってますね!このままだと1年間無敵ですが!先生にコメントして良いのか悩むな、とりあえずクマシオを罵倒しよう…え?クマシオ応援されてる!?』


『何だよカイゼル髭って!ふざ、ふざけんなよププ…笑わせんな!講師とお前…えーっと…どれだっけな…そうだ!お前の…はぁ!?テメェ何が【散華の母でございま〜す】じゃねえんだよ!サ◯エのつもりか!?◯すぞコノヤロウ!』


 私はひたすら謝り続けた…言っている意味が分からないけど、私の不貞に関する事だと言うのは感じた。

 怒らなかった和樹さんがこんなにも怒ってる…今回は本当なんだ…

 そして急に落ち着いたトーンで和樹さんが私に言った。


『ハァハァ…まぁ良いや…でもさぁ、別に浮気するならそっちに行けば良くない?俺、別に正社員じゃねーし、特別何か秀でてないし、暗くはないけど明るい未来かっつーとなぁ』


 試されてる気がした…


『許して下さい…私は絶対『ピンポーン』


 私が…話している途中にインターホンが鳴らされた…和樹さんが玄関に行く…


『おぅ…テメェがケンゴか…まぁ入れよ…………うぉあ!?ザ◯メン三銃士!?』


 何の話をしているのか分からないが何やら男性と話をしている…扉が開いて、ケンゴが入ってきた。


『頼子?これはどういう…『アンタとはもう絶対関わらない、絶対許さないから…』


『え、…あ…』


 コイツが頭の悪い事をしなければ…いつかバレるとは言えもっと…全力で睨みつけていると…和樹さんが戻ってきた。


『続きだけどさ、2人揃ったし確認したいんだけど?俺としては好きあってる者同士付き合えば良いじゃんと思う訳。もう一回同じ事されても困るし、結婚手前まで行ってたからさ、色々ムカついてるけど…』

 

『君が…頼子の彼氏のヒモか!?頼子とは別れてくれ、僕と頼子は運命の『だまぁれえええ!!!』


 私は一喝した、コイツには喋らせない…余計な事しか…


『頼子、聞いてくれ!これは罠だ!だっておかしいだろう!?最初からこの彼は別れるつもりなんだ!アドレスだって間男ドットコムだし、興信所の調査結果だって適当だぞ!僕はこんなもの送ってない!』


『え?嘘…和樹さん…何で…』


『きっと…隠しカメラとかで僕らを撮っていたんだ!本当は別れるつもりだったんだよ!だから…僕と一緒に来てくれ!またスタジオに戻ろう!』


『和樹さん…本当…なの?』


 和樹さんはククっと少し笑った。

 

 そして私の目の前に立ち…顔を近づけ言った。


『本当か嘘かなんてどうでも良いじゃん、それより頼子さ、何でずっと、婚約…というか金ねぇから結婚指輪か、何でしてねぇの?』


 え?婚約?あれ?わたし?あれ?


『話聞いててもさ、すっぽ抜けてるよな?ずっと、ずーっと不思議に思ってたんだよ。俺はしてるよ?指じゃなくて首から下げてるけどね…お前のはほら…あそこ』


 頭の片隅…何だコレ…指さした方にある小さな箱…積み重なった私の荷物の隙間にある箱…


――これが俺の頼子への気持ち、受け取ってくれるかな?――


 何!?この記憶…なんて答えた!?霞んでる…何で!?和樹さんに…本当なら…すがる資格なんか…


――わぁ、うれしぃ…わらしぃこれほしかったのらー♥――


 答えてる記憶…何で!?忘れてた!?なんで!?


 いつから こんな なったのかな ずっと?


…それで信じてとか、愛してるとか笑わせてくれるよなぁ!?ネンゴロやった後じゃ…


 ワタシに は アイ とか ナイ ただきたナイ もうずっと 汚物 なんだ キエタ い


『オエエエエエエエエエエエエエエ!!!!』


『ぎゃああ!?顔がぁ!!くせぇ!何で!!クイズ!ミリ汚ゲロ!!!』


 私の視界が歪む、このまま死にたい…ただ…ケンゴが寄ってきて…死ぬ間際に…吐きながら…


『ケンゴォ゙あッッ!どうがぉ!!ぜんぶげぜぇッッッ!!!』


ズンッ


『グオァ!?オエエエ!?』


 全力で、私に近寄ろうとして前屈みになっているケンゴの、みぞおちを蹴り上げた…そのまま床に倒れた…



 どれくらい経ったんだろう…ぼんやり目を開ける…和樹さんとケンゴが何か話してる。


 まだ、そんなに時間が経ってないのかな。


 でも、何となく分かった…私はきっと…ケンゴとのプレイで心が壊れちゃってたんだ…それに…アルコール中毒も…せっかくこっちに来て…止めれたのになぁ

 だっておかしいんだ、記憶がさ…曖昧なんだもん

 今も…それに何だろう…色んな人の声がする。


『《ガズ》よぉ…そいつ殺してぇなら原口組に頼め、その女から金絞りてぇシオンに預けろ、両方ならウチに戻ってこいよ?歓迎するぜぇ』


『全部嫌だわ…たださぁ…新沼君?これでわかったろ?自分がどんな事してたのか?』


 テレビ電話かな…ドスの聞いた声と和樹さんの会話…


 そして女の人の声とか…聞いた事の無い声…


『そのクソ、嫁いるしね(笑)とりあえずぅ〜アタシの方で800万ねぇ?シンの所で?』


『300万だよ、だからシオンと合わせて計1200万。親族と嫁でかき集めて貰って駄目なら漁船2年、後、臓器頂きマンモス』


 何の話だろう?何が起きているんだろう?


『な、なな、何で僕が!?そんな大金を!?』


『契約書書いてないんだろ?レ◯プして配信したようなもんだからよ?こっちは大損害…デリケートに終わらせる案件何だからな?』


『そっから先はア・タ・シから〜…』


 何かお金の話や専門用語が飛び交う複雑な説明があって…


『まぁそんな感じ!良いじゃん、カズちん、その女もアタシにチョーダイ!1000万プレイヤーにしてあげりゅ〜♥嫁なんてこっちで探せばイージャン!』


『責任…ら…頼子を預かる…ねぇだろ?アイツは俺には犬………で可愛いんだよ』


 和樹さんがなにか言ったけど小さくて聞こえない…こんな私に…可愛いって言ったな…ちょっと嬉しいな…


『だからって何で僕が…そんなお金を?何でそんな目に…』


 ケンゴがブツブツ言ってる…その姿を見てパソコンをケンゴに見せながら和樹さんが言った。


『ふざけんなよテメェッ!撮影したのほぼ全部売る奴がいるかよ!シリーズはなげぇし…頼子さ、これ、誰かが何とかしねぇと死ぬからな?分かってんのか?そこんとこ?』


 私?死ぬ?画面を見る…動画サイト…DVDの販売?広何とかに似てる…え?…私?私がいっぱい…いっぱいいて…ぜんぶ…ハダカ…悪夢みたいな出来事が…売ってる?…今までの全部?…なんで?…なんで?…隠してきた…墓場まで持っていく?…全部さらけ…出して…ネットに…全部…


 和樹先輩が怒ってる…先輩…全部知ってるの?…私が…シンデル…の…


『イヤアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


『え?頼子!?起きてたん!?マジ!?』


 私の心は限界を越え、消えた



※あれ?なんか違う事になった。次回から和樹視点で短めに更新早めにします。しますから!悪いと思ってますからぁ!


 


 


 


 

 

 

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