#01-1-07 申し訳ないが引き受けてくれないだろうか?

 7つの世界より集まった「迷宮主ダンジョンマスター」たちで魔王を討伐する。


 ……何のゲームだこれ。

 どこかのソシャゲにでもありそうな設定だな。

 なんてどうでもいいことを考えていたけれど。


 話す真田さんは大真面目だ。


「その魔王の名は『全てを喰らい滅ぼす獣』フィルルナーシュ。『迷宮ダンジョン』の奥底に潜み、『迷宮ダンジョン』や世界そのものを喰らい無に帰してしまうことから魔王と認定された」


 とりあえず相槌をうってるけど、ふーんって感じだ。

 世界を滅ぼす魔王とか言われても何を想像したらいいのやら。


「やっぱり魔王とか言われてもピンとこないよね」


 そんな僕の様子を察したのか、歌鳴さんが困ったような微笑みを浮かべていた。


「それについては……はい、すみません。歌鳴さんの言う通りです……」

「こればっかりはしょうがないさ。私だって実際に対峙したことがなければ魔王なんて与太話だと思うだろう」

「え? 真田さん、魔王と対峙したって……?」

「昔ちょっと色々と巻き込まれて、ね。ま、それは今はどうでもいい」


 いや、普通の人は色々と巻き込まれたからと言って魔王と対峙したりはしないと思うんですけど?

 ちょっと興味がわいたので突っ込んで聞いてみようかとも思ったんだけど、真田さんって結構威圧感あって怖いんだよなあ。


 その後、父親の死についての様々な手続きについて説明があった。

 基本、歌鳴さんがサポートしてくれるらしく、任せておけば大丈夫なようだ。

 世界の外の迷宮ダンジョンで死んで、死体も残っていないあの父親の死の処理は意外と面倒らしい。


 そう言えばこれ、あの親父の葬式とかどうすればいいんだろう?

 歌鳴さんは「気にしなくても大丈夫よ」としか言ってくれなかったんだけど。


「手続きの方は大丈夫そうかな?」

「はい。いざとなったら歌鳴さん……じゃなくて、春日さんに頼りますので」

「そうしてくれ。それで、君に私たちからお願いしたいことがある」


 お願い?

 何だろう?


「魔王フィルルナーシュ討伐計画、1回目は失敗に終わった。しかし、すぐに2回目の計画の開始が決定されている。それに伴い、計画に参加する後任の『迷宮主ダンジョンマスター』の指名が必要でね」


 そうか。

 魔王討伐パーティが全滅したけれど、魔王は放置できない。

 だから2回目の討伐パーティを送り込む計画が既に動いているわけだ。


「君を後任の『迷宮主ダンジョンマスター』に指名したい。いや、君しか指名できないんだ。申し訳ないが引き受けてくれないだろうか?」


 馬鹿なのかな?



      ◇◆◇◆◇◆◇◆




 僕はただのどこにでもいる一般男子高校生だ。

 どうも父親は異世界にも名を知られた英雄らしいが、そんなことは関係ない。

 迷宮ダンジョン迷宮主ダンジョンマスターにも縁がない、ただの高校生なのである。


 どうしてそんな僕が世界を代表して魔王討伐に行けると思うのだろうか。


 だから僕は言った。


「……冗談ですよね?」

「いや。残念ながら本気なんだ」


 何で本気なんだよ。

 外務省の偉い人なんでしょ真田さん!?

 常識をわきまえて!?


「あー、希望君が信じられないのはよくわかるわ」

「歌鳴さん」


 よかった。

 歌鳴さんはその辺の常識的なことはちゃんとわかってくれていそう。


「でも、ちゃんと理由があるのよ」

「歌鳴さんもそっち側ですかっ!?」

「えっ」


 表に出さないようにしていた心の声がつい出てしまった。


「ま、まあ、とりあえず、ね。そうなるに至った理由はちゃんと説明するわ。それを聞けば希望君なら、理解できるはずだから」

「はぁ、そうですか。よろしくお願いします」


 ふと横を見ると、テュセルが必死に笑うのを噛み殺している。

 今の僕のやり取りや様子が何かがツボに入ったようだけど、どこか面白い要素あったろうか?


「まず、この世界は迷宮ダンジョンに関しては発展途上なの」

「そうなんですか……って、あ、いや。そうですね」


 一瞬、疑問に思ったけれどよく考えたらその通りだ。


 そもそもこの世界で迷宮ダンジョンという存在が認知されたのも15。そして、迷宮主ダンジョンマスターの存在とか異世界との関連とか、そういう情報はまったくと言っていいほど広まっていない。

 広まっているのはお客様用に造られたらしい遊戯施設としての疑似迷宮インスタンスダンジョンだけ、という状況だ。


 これで迷宮ダンジョン先進国だ、なんて絶対ありえないだろう。


「だから実力のある迷宮主ダンジョンマスターもまったくいない状態なの。唯一例外だったのが希望君のお父さんの悠史さんで。だからとてもじゃないけれど他の世界に納得してもらえるだけの後任を指名できる状態じゃないのよ」

「その事情は何となく理解できますけど。でも、それを言ったら僕なんかそもそも迷宮主ダンジョンマスターですらないんですけど?」

「後任として納得してもらうには実力以外のもう1つの要素があるわ。現実社会でも政治家とか社長とかでこの要素は問われることが多いのだけれど」


 政治家や社長に多い、実力以外で後任として認められる要素……って。


 あ、もしかして。


「……それ、僕が『息子』だから、てことですか……?」

「そう、『血縁』。それが認められるもう1つの要素。特に直仔であればなお良いわ。そういう意味では希望君はばっちりこの条件を満たしてくれるの」


 やっぱりか。

 多分、今の僕は不機嫌そうな顔をしてるんだろうな。


「希望君は嫌かもしれないけれど『あの英雄シバの血を引く後継ぎ』となれば、例え駆け出しの迷宮主ダンジョンマスターであっても格としては後任として相応しい存在と見なせる、見てもらえるのよ」


 某国民的ロールプレイングゲームでは1レベルの貧弱な勇者が国のトップの国王の命令で魔王を倒す旅にでるけど。


 過去の偉大な勇者の子孫。

 魔王を倒した勇者の血を引く王家の王子。

 国一番の戦士の子供。


 こういう背景の持ち主たちである。

 まさしく今の僕と同じと言っていいだろう。


 なるほど、そういう血統的背景があるからこそ1レベルで旅立っても国王も街の人たちも納得するんだな。


 僕は大きくため息をついた。


「確かに理解はできました。で、これって……僕、断れるんですか? やっぱり断れないですよね? 断ると世界が滅んだりしそうですし」

「いやそれは……あー、ごほんっ。ふむ。希望君はなぜ、そう思ったんだい?」


 僕の質問に真田さんが言葉に詰まる。

 わざとらしい咳払いで誤魔化すと逆に僕に質問を返した。


「いえ、テュセルがそう言っていたので」


 またお前か、という目で真田さんがテュセルを睨みつけていた。

 テュセルはあらぬ方向へ視線をそらしながら口笛を吹く真似をしている。


「……それについては色々と込み入った事情があってね。説明しようとするとかなり時間がかかってしまう。そうなると……ふむ」


 真田さんが腕時計を見る。

 つられて部屋の壁に掛けられた時計を見た。

 手続きの説明が結構時間がかかったせいか、もうすぐ授業も終わって昼休みになりそうな時間だ。


「ちょっと込み入った話をするにはタイミングが悪いね。じゃあ、折角だから一緒に昼食でもどうだい? 親交を深めてもいいし、食事をしながら続きの話をしてもいいし」

「え、いいんですか!?」


 ラッキー。

 朝、弁当作れなかったから昼食奢ってもらえるのは助かる。


 あ、午後からの授業はどうしようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る