#01-1-03 教育してあげよう。
言わずもがな、僕もラノベは読む方だ。
だから「異世界転生」だってよく知っている。
コミカライズ、アニメ化なんかでラノベ以外にも広がっているし、そういう意味ではもうメジャーなジャンルと言える。
けれど。
異世界なんて存在は創作の中だけだと思い込んでいた。
よく考えたら
「じゃあ、あの
「行ける。でもそんなに簡単な話じゃないけどね」
「簡単じゃない、て?」
「そうだね。まず自分の所属する世界とは別の世界に入る場合、その存在は世界から『
何か怖いこと言われたぞ。
異世界が存在すると知ってちょっとわくわくしたけど、やっぱりラノベみたいに簡単に転生したり転移したりとかはないんだな。
「それと……あ、ノゾミ、しゃがんで」
「え?」
言われるままに僕はしゃがみこむ。
頭の上を何かが高速で通過した。
「なっ……って、何だあれっ!?」
いつの間に背後に迫って来たのは。
黒い人型の影が歩いているようなバケモノだった。
背の高さは僕やテュセルよりもだいぶ高く、3メートルくらいはありそうだ。
腕が異様に長く真っ黒な姿で、まるで影が起き上がって歩いてきているような姿。
顔の部分で赤い光が2つ、目のように輝いている。
「『
テュセルが一歩前に歩み出た。
ちょうど僕と影の化け物の間に立って僕を背後に庇うような状態になる。
「
僕の方へ振り返り、テュセルがにっこりと微笑む。
「ノゾミは下がってて。ボクの実力を見せてあげよう」
◇◆◇◆◇◆◇◆
彼女に向かって長い腕を振り上げて拳を振り下ろす。
それに対してテュセルは武器になるようなものは持っていない。
あるのは握りが飾りになっているステッキだけだ。
とてもじゃないけどあんなバケモノを相手にするための武器にはならないだろう。
しかも。
テュセルはその攻撃に対してまったく動こうともしない。
「!!」
思わず目をつぶった。
絶対にテュセルが叩き潰された、と思ったからだ。
「あ、そう言えばブーツ脱いでたままだった」
のんびりとした緊張感のないテュセルの言葉。
それで目を開けてみると。
地面に叩きつけられた拳の上に。
優雅な所作でテュセルが立っていた。
いや、初めに僕の部屋に現れた時のように少しだけ宙に浮いているから拳の上に立っている、というのは間違いか。
当然、
それに対してテュセルは小さく後ろにジャンプして回避する。
そこを狙っていたとばかりに
「え?」
攻撃はテュセルには命中していない。
いや、今度は目を閉じずにしっかり見ていたが。
今、腕がテュセルの体をすり抜けた?
見間違いか、と思ったけどそうでもないらしい。
「元『
テュセルが手持ちのステッキの握りの部分を掴むと。
右に捻って回した。
カチッという音がする。
「教育してあげよう」
そのまま一気にステッキの中身を抜き放つ。
細身の刀身が
「仕込み杖!?」
くそ、ちょっとカッコイイと思ってしまった。
美少女、ゴスロリドレス、武器は仕込み杖とかどんだけ属性を盛ってるんだ。
こんなキャラがアニメとかに出てきたら「やりすぎwwww」て言ってしまう自信があるぞ。
ただ抜いた剣はステッキの中に隠されていただけあってひどく細い。
あんなのであのバケモノに対抗できるのか?
「……ええっ?」
思わず驚きで声が出た。
何故って、テュセルの剣が軽々と。
自分に殴りかかってきた
剣が凄いのか。
剣技が凄いのか。
両方なのか。
どれが正しいのかはわからないけど、とにかく凄い。
腕を落とされた痛みによる悲鳴だ。
「五月蠅いよ」
そのままテュセルが
あんな今にも折れそうな細身の剣で。
どうやったらいとも簡単にバケモノを斬れるのかはわからないけれど。
テュセルが剣をステッキに戻した時には。
「……ま、こんな所だけど……あ」
何事もなかったように僕の方を振り返ったテュセルだったけど。
急に不機嫌そうに懐から懐中時計を取り出して蓋を開けて中身を見た。
「……時間切れ、だね」
「え?」
「異世界に簡単に行けない最後の理由。本物の
それって、つまり。
さっきテュセルが斬り刻んだのは元人間、てことか。
というか、テュセルの言葉によれば。
ここに長時間いれば僕もあんな風になってしまう、てことか……?
「ボクは大丈夫だけどね。でもノゾミはまだ無理。だから、今日はこの辺にしておこうか。
テュセルが手をかざすと。
何もない所に両開きの扉が現れた。
僕がここまで来ることになった「
テュセルに手を引かれて「
僕は元の自分の家のリビングに戻って来たのだった。
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