第3回 ひらすら楽して爆裂銃槍

 最近買ったばかりの大手メーカーのクリエイティブソフトでの動画編集をあくせくしながらやっていたところにトリヲの配信通知が届く。


 彼の配信はなによりも優先されるべき事柄だ。なにより、新しいネタがやってくるのである。動画編集は完全に趣味でやっていることなので納期があるわけでもない。ということなのでクリエイティブソフトを最小化して、届いた通知のURLをクリック。ブラウザが起動して、配信画面が開かれた。


『ウィィィィス。トリヲです。今日も配信やっていこうかと思いまーす。チャンネル登録、高評価お願いします』


 いつも通り、頭陀袋を被ったパン1の男が画面に映し出される。


 一体、今日はどんな武器を使って見せるのか? その武器を使ってどのような戦いを見せてくれるのか楽しみで仕方ない。今回もこちらの予想を超えた、人気配信者では見れないような配信を見せてくれるだろう。


『じゃ、さっそく今日の武器紹介です。今日使うのは、火薬庫さんの新作爆裂銃槍です』


 そう言ってトリヲが虚空から取り出したのは、己の身体と変わらないくらいの大きさの大砲に大型で幅広の刃がついた武器であった。


『やっぱし、格好いい武器って言ったら火薬庫さんは外せないよね、ということで俺がめったにやらない新作武器のレビュー配信です』


 ダンジョン探索のためには武器は必須というのは言うまでもない。ダンジョンのモンスターに対抗するための武具の制作を行っているところを工房という。火薬庫というのは主に武器を制作している工房であり、その特徴は使用者の魔力や神秘力、神聖力などを利用して変形や仕掛けが起動したり、それらの力を炸薬に変換したりと、他の工房ではまったく作っていないような異色の武器ばかり発表しているところだ。


 はっきり言ってキワモノイロモノ武器ばかり作っている工房であるが、他がまねできないような変形機構や仕掛けを搭載しているので技術力は最大手に匹敵するともいわれていて、熱狂的なファンも多い工房である。


 変態武器をこよなく愛する彼が火薬庫の愛用者であることはなんとなく予想していたが、ついにここでやってきたか。火薬庫の新作武器なら知名度はあるので、動画的にもいい感じのネタであろう。やはり、今回も見逃せないし、俺でなきゃ見逃しちゃうね。


『実は俺、火薬庫さんに武器は新作が出るたびに購入しているくらい好きなファンなんで、もし関係者の方がこれを見ていたらスポンサードお待ちしております』


 いくら火薬庫が変態技術集団だからと言って、パン1でネット配信している変態のスポンサーになるとは思えなかった。一応、企業だし。色んな意味でイメージが最悪である。


『それじゃあ、前置きはこの辺にして、そろそろ武器紹介に入っていこうかと思います。さっきも言った通り、今日は火薬庫さんの人気シリーズ武器銃槍の新作、爆裂銃槍です』


 そう言ってトリヲは取り出した爆裂銃槍を立てかける。爆裂銃槍は結構な身長があるはずの彼よりも大きい。軽く二メートルは超えているだろう。


 銃槍とは火薬庫の中でも比較的オーソドックスで、彼のような火薬庫の熱狂的なファン以外にもそれなりに使用者のいる武器だ。その名の通り、大型の銃に刃を装着したもので、刃による近接攻撃と銃撃を行える武器である。己の魔力や神秘力、神聖力を弾に変換して打ち出すため、意外にも魔法系ビルドや魔法と近接を両方行うビルドを組んでいる探索者に利用者が多い。


 今回トリヲが持ち出してきたものは、もはや小型の大砲といってもいいレベルの大きさだ。これだと、かなりの筋力や体力が必要のはずだろう。弾は魔力や神秘力、神聖力を変換して放つため、その辺のスキルもそこそこ必要のはずだ。今回もかなりピーキーな武器であることは間違いない。


『やっぱこう、でかい武器ってのは最高っすよね。火薬庫さんは己が求めるロマンをひらすらに追及していることがマジパネえっすね。俺もその辺見習っていかないとなー。憧れちゃうなー』


 そんなこと言ってるお前も大概だぞ、と思ったが突っ込んだら負けである。


『基本的には銃槍と同じなので、そこまで説明はしなくても大丈夫っすかね。敵を斬って突いて撃つ。ただそれだけ。実にシンプル。あ、今回俺が使用しているのは神秘力変換モデルなので、そのへんよろしく。他スキルでも基本的な仕様は変わらないはずだから、自分のビルドにあってたら使ってみてね。最高過ぎて飛ぶぞ』


 普通の銃槍は装備負荷がそれほど重くないのと、魔法系ビルドでは扱いづらい攻撃が可能なのでそれなりに使われているのだが――彼が持っている新作はどう考えても専用の構成をしなければ持てない武器であろう。気軽に使える武器であるとは思えない。


『今回のこれは砲撃に特化した武器で――中型くらいのモンスターなら余裕でぶっ飛ばせる火力が魅力ですね。でもまあ、かなり威力があるので崩落させないように気をつけてくださいね。危ないですから。武器は安全第一で使いましょう。安全ヨシッ!」


 安全第一というならまず服を着ろという話であるが、そこに触れたら負けな気がした。なにに負けるのかはわからないけれど。なんか負けた気がする。


『今日は地層エリアのほうに来ています。両方でロケハンした結果、こっちのほうがチャンバラしたとき動画映えしそうだったんで。というわけで目的の敵がいるところまで移動』


 そう言って移動を開始。地層エリアのいかにも地下迷宮という光景が映し出される。適当な雑談をしつつ、しばらく進んだところで――


『今日の敵はあそこにいるリザードマンウォーリアです。結構大きいので、殴り合いするならもってこいの相手ですね。あいつを、これで倒していきたいと思いまーす』


 刃こぼれした曲刀を持つ大型で二足歩行するトカゲがカメラに映し出される。


 リザードマンは全身が硬い鱗に覆われており、中でもウォーリアタイプは屈強で強靭な肉体を持つ厄介な相手だ。特に大型になると他の小型の個体を従えている場合も多く、数で攻めてこられると非常に厳しくなる。


 見たところ、いまカメラに写っている個体ははぐれ種のようで、近くに従えている小型の個体はいなさそうであるが――


 さらに近づくと、そのリザードマンウォーリアが一般的なレベルよりもかなり巨大であることがわかった。通常の群れを従えているような大型個体の一・五倍くらいある。


『タイマンでやるならちょうどいい塩梅の敵でしょう。それではオッスお願いしまーす』


 そんなこと、一切気にすることもなく、トリヲは爆裂銃槍を携えて大型のリザードマンウォーリアへと近づいていく。


 大型リザードマンウォーリアも接近してくるトリヲに気づいて戦闘態勢に移行。その巨体を思わせないほど軽やかな動きで近づいてくるトリヲに合わせて踏み込んだ。禍々しい刃の曲刀を振るう。


 トリヲはあれだけ巨大な武器を持っているというのにその重量を一切感じさせない動きで大型リザードマンウォーリアの攻撃をいなして横に回り込んで爆裂銃槍で斬りつけた。爆裂銃槍の切っ先は的確に大型リザードマンウォーリアの頭部を捉える。顔面を斬りつけられた大型リザードマンウォーリアはたまらずひるむ。


 ひるんで動きが止まったところに、トリヲは砲撃を叩き込む。その大きさに見合う威力を誇っていた。その爆発と衝撃で大型リザードマンウォーリアは大きく吹き飛ばされる。


 吹き飛ばした大型リザードマンウォーリアに追撃すべく、トリヲはさらに接近。重量を一切感じさせない動きで再度近づき、大型リザードマンウォーリアが体勢を立て直す前に追撃を仕掛けた。斬って撃ち、突いて撃ちを繰り返し、かなり屈強な肉体をしているはずの大型リザードマンウォーリアに反撃どころか体勢を立て直す隙すらも与えなかった。


 だが、こんな閉所であれほどの威力のある砲撃など軽々しく使っていいものではない。下手なところに撃ち込めば、最悪崩落する可能性もある。それにも関わらずトリヲは取り付けられた刃による斬撃、刺突に合わせて砲撃を遠慮なく使っていく。あれだけの威力があるというのに、壁や床、天井にはまったく影響が及んでいないのはどういうことなのだろう? 魔術かなにかでも使っているのだろうか?


 やっと立ち上がった大型リザードマンウォーリアに対し、力を込めて爆裂銃槍を刺し込んで――


 同時に爆発が巻き起こって大型リザードマンウォーリアを跡形もなく吹き飛ばした。


『いやあ、これ最高っすね。まさか超大型の銃槍のパイルバンカーを仕込んでくれるとは。火薬庫さん最高っす。一生ついていくんで頑張って格好いい武器作りまくってください。それでは今日はこの辺で。チャンネル登録、高評価お願いします!」


 そのまま、配信は終了。想像以上にすごいものを見させられたような気がする。そんな余韻に浸りつつも、先ほどまで行っていた動画の編集を再開し始めたのだった。

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