第34話 天道一夜VSレヴァンティン②

「いきます」


 :炎皇竜の剣きたああああああああああああああああああ!

 :S級アイテムうおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 :いまのサンプロの配達ドローンだったぞ!

 :あー、小岩井さんと話してたのそういうことか

 :しっかり武器の要請してたんだな、やるじゃん

 :ポーションも持ってなかった天道が立派になって……

 :泣くのはまだ早いぞ

 :第二ラウンド開始だな


 天道は炎皇極聖剣の柄を握り、構えた。

 使い手を得た剣身は、注がれた魔力に反応して火の粉を散らす。


「け、剣一本でもう勝ったつもりか!? チョーシに乗ってんじゃねえぞ! 【氷姫雪影】! 氷縛白波!」


 氷の波がうねりながら地面を奔る。

 一触れで対象の自由を奪う拘束技。


 だがそれは、


「知ってますか? 氷のスキルは炎と相性が悪いんですよ」


 炎皇極聖剣を軽く振るだけで炎の帯が出現し、、波涛のように襲い掛かる氷はすべて融解した。


 シューシューと音を立てて、水溜まりが生み出されていく。

 常に余裕を崩さなかったレヴァンティンに、はじめて緊張が走る。


「KIIIAAAAAAAAAAAッッ!」

「そうだ雷皇竜お前が行け! 雷であのガキを丸焼きにしろ!」

「炎よ、壁となれ」

「AIIIIIッッ!?」


 青白い軌跡を描く落雷を、紅蓮の炎が阻む。

 自らの攻撃を一振りで防ぐ敵の出現。


 ダンジョンの頂点捕食者を自負する雷皇竜も、ぞわりと羽毛を震わせた。


「まだ時間停止は使えねえはずだ! 速攻で畳みかけるぞ!」

「KIIIIIIIIIIIッッ!」

「炎よ、猛れ!」


 :なにこれ炎の渦!?

 :やべえ……アスファルトが溶けてるぞ

 :見てるだけで汗でてくるわ

 :パラサイト野郎がびびってるぞ!

 :てゆーか風刃丸も溶けてるじゃん!

 :武器破壊ヨシ!

 :九百万円逝ったああああああああああああああ!

 :武器の値段はいま気にすんな!


「なっ、にいイイイイイイイイイイイイイッッ!?」


 二刀流で接近戦を挑もうとしていたレヴァンティンは、慌てて足を踏ん張りブレーキをかけた。


 疾風を射出するため突き出した刀身だけは逃げ遅れ、B級アイテム風刃丸が全壊する。


「あなたは後です。先に倒すのは雷皇竜、お前だ!」

「KII……GOAAAAAAAAAAAAAAAA!」

「【時の反逆者】。対象雷」

「──IIIIIッッ!?

「その技はもう見切りました。炎よ、唸れ!」


 落雷が放たれた直後に停止する。


 無防備になった雷皇竜の胴体正面に、炎皇極聖剣の剣先が触れた。


 瞬間、天道が注いだ魔力によって、剣身からマグマのごとく紅蓮の火柱が噴き上がる。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!


「GIIIAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!」


 胸の中心から尻尾の先まで、高熱が骨も臓腑も焼き尽くす。


 雷皇竜のくちばしから黒い煙が噴き出し、それはやがて炎に変わっていった。


 鼻孔、耳孔、眼球、体内で荒れ狂う炎は、様々な場所から溢れて出していく。


「A゛、GI……KIII……」

「勝手に燃え尽きてください。いま忙しいので」


 :雷皇竜撃破あああアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!

 :よっしゃあああああああああああああああああああああ!

 :あとはパラサイト野郎だけだあああああああああああ!

 :これでダンジョンの大穴も消滅するな!

 :二~三時間くらいでドラゴンの出現もなくなる

 :マジで破界現象止められるぞ!

 :天道これダンジョン協会に表彰されるんじゃねえの

 :雷皇竜倒した時点で英雄定期

 :あとはチカ姉を助けるだけだ!


(……身体が重い。かなり魔力を持っていかれましたね)


 炎皇極聖剣は圧倒的な火力の代償として、使い手の魔力を大幅に消耗する。


 一般的なC級の探索者なら、一振りで魔力が枯渇し命を失いかねないほどに。


 天道が今までサンプロに保管を頼んでいたのはそのためだ。


「ち、てめえー! よくも殺しやがったな! オレたちがこの計画のためにどんだけ苦労したと思ってんだ!」

「知りません。そんなことより、千景さんを解放してください。いま手を引くなら見逃します」

「上から目線でイキってんじゃねえぞガキ! そうだ……てめえがいくら強かろうが、この女には手を出せねえんだろ?」

「…………」

「ケヒャヒャヒャヒャ! やっぱりそうだよなあ! オレがその気になりゃ、この細い首を斬り飛ばすことだってできるんだぜ!」


 レヴァンティンは自分の本体、西洋剣を千景の首筋に当てる。


「て、天道くん……」

「その口調は……千景さん!?」


 :え? え?

 :チカ姉の意識あんの!?

 :たしかにその辺ハッキリしてなかったな

 :いままでのずっと見てたのか……

 :いや待て、罠かもしれん


「わたしに構わず……こいつを殺してくれ……! ここで倒せなければ……もっと多くの不幸を……振りまく……!」

「勝手にしゃべってんじゃねえよボケが! その無駄にデカい乳を斬り落とすぞ!」

「……一線を超えましたね」

「いいから燃える剣を捨てろ! それに動くんじゃねーぞ!」


 今まで感じたことのない怒りを覚えながらも、天道は炎皇極聖剣から手を離した。

 ガギィンッと金属質な音が地面に響く。


「そうだよ。はじめからこうしてりゃ良かったんだ。おらっ、女の命かてめえの命か選べ!」

「千景さんの命を選びます。やるならどうぞ」

「天道くん……ダメだ……それでは君が……!」

「ヒャハハハ! てめえマジでイカれてやがるな! いいぜ、そのまま殺してやるよ」


 :即答!?

 :天道ウソだろ!?

 :マジで死ぬ気かよ!?

 :剣捨てるのはマズいって!

 :チカ姉助けたいのはわかるけど、それは……


 棒立ちの天道に向かって、レヴァンティンはゆっくりと進む。

 すぐに、お互いの息が届く間合いまで距離が詰まる。


「ワリぃな。成長しそうな探索者は早めに消すのがオレたちの方針なんだ。実際マジで同情してるんだぜえ! ケヒャヒャヒャヒャ!」

「興味ありません。さっさと殺したらどうですか」

「ったく最期まで可愛くねえガキだぜ。じゃあな、天道一夜」


 千景の口から舌を伸ばしながら哄笑する。

 レヴァンティンは愉悦の笑みを浮かべながら、西洋剣を天道の腹部に刺した。


 ズチュリと肉を裂く粘着質な音が響く。

 あとは剣を引くだけで、この戦いも終わりだ。


「ん? なんだ? 剣が引けねえ……いや、違う。オレが動けねえだと!?」

「勝利を確信した瞬間こそ隙が生まれる。それは人間も魔物も同じみたいですね」

「て、てめえ! なにをしやがった!」


 時間停止のスキルを知っているからこそ、身動き一つできない事実にレヴァンティンは動揺する。


 対象を指定して時間を止める技は、魔力の粒子を飛ばす必要があるはずだ。

 粒子が触れれば、すぐに反応して振り払う心構えはできている。


「いつも通り時間を止めたんだけです。ただし、今回は魔力糸を含めたあなただけの時間ですけど」

「てめえの魔力に干渉された気配はなかったぞ! 一体いつどうやって……ま、まさかッッ!!」

「【時の反逆者】の限界、一分ギリギリまで使って魔力で干渉しました。僕の体内から直接魔力を注いでね」


 :う、うおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 :チカ姉も寄生剣も止まってる!?

 :よくわからんけどチャンスだな!

 :つまりどういうこと!?

 :だれか説明してくれ!

 :まずすべての時間を止めて、西洋剣と魔力糸に天道の魔力を注ぐ。時間停止を解除した瞬間、今度はレヴァンティンだけの時間を止めたってことだな。対象を絞った時間停止なら、魔力消費的にすぐ発動できるってことだろ。

 :でもなんで刺されたんだよ!?

 :魔力ってのは体内から体外に用途をイメージして出力するから、内側から直接注ぐ方が効率いいんだ

 :あー、変換するロスがないのか

 :何本あるかわからない魔力糸全部に干渉するわけだしな

 :だからって腹刺された状態で平然としてるのはおかしいだろ!?

 :それはそう


「だ、大体てめえはなんで平気なんだ!? 腹の中ぐちゃぐちゃになってんだぞ!」

「切断された組織の時間を止めています。だから死ぬ前にその汚い口を閉じろレヴァンティン」

「なっアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 魔力糸の時間を止められ、千景の手から西洋剣が離れる


 それと同時にレヴァンティンは天道の手によって、剣身を真っ二つに折られた。

 キンッガランッ!


 二種類の音を立てて、切っ先を含めた半分と、柄を含めた半分が地面の転がる。


 支配から解放され、千景の意識が身体に戻ってくる。


「────ッ! て、天道くん!」

「よかった。これで、いつもの千景さんですね」

「わたしのせいでまた……ご、ごめんなさい!」

「気にしないでください。僕はやりたいことをやっただけです」


 大粒の涙を流す黒髪の先輩を、天道はそっと抱き寄せた。





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