第33話 天道一夜VSレヴァンティン①

 千景と同じ声でまったく別に人格がしゃべる。

 それはヤスリで逆鱗を削るように、天道の神経を逆なでした。


「……あなたは何者ですか」

「あーん? いま名乗っただろうが。まさかその年でボケ始めてんのか?」

「質問をしているのはこっちですよ」

「しゃーねえなあ。オレはお前らのいう“S級アイテム”だ。名称は『隷属剣レヴァンティン』」


 :はああああああああああああああああああああああ!?

 :え? 何? なにが起こったの!?

 :これ剣がチカ姉の身体を乗っ取ったってこと!?

 :状況見るかぎりそれしかなよな、口調がまったくの別物だし

 :寄生型の魔物と同じダイプっぽいな

 :だれか隷属剣レヴァンティンで検索した人いる?

 :一件だけヒットしたわ。人格のある魔剣で魔力の糸を使って人間を操り、本人の能力を限界まで引き出せるらしい。S級アイテムにして脅威度Sの魔物って書いてあるぞ。個人のブログに。

 :そのブログ書いたやつ何者だよ


「能力は魔力糸を通した生物の支配。肉体の性能を限界以上に引き出すおまけ付きでな。いつもと同じ実力だと思ってたら火傷するぜ!」


 千景の身体を操り、レヴァンティンは近くの瓦礫を蹴り飛ばす。

 高速で飛翔したそれは、マンションに壁面に直撃し大穴を開けた。


(魔力強化、放射のレベルが桁違いに上がっています。マズいことになってきましたね)


 いまの小鳥遊千景は、A級探索者のレベルをはるかに上回っている。

 天道の喉が緊張でゴクリと鳴る。


「ついでに言うが支配した奴の記憶も読めるんだぜ。えーと、この女の記憶は……」

「やめろ! 千景さんを穢すな!」

「あー、両親を殺されて探索者になったわけね。あるあるだな。そんで二度と破界現象を起こさせないために戦う、か。ケヒャヒャヒャヒャ! こいつはおもしれえ! ならオレはパパとママだけを殺す探索者になってやるぜ! 自分の手で孤児が増えたら、この女はどんな顔をするんだろうなあ!」


 :この腐れ外道が……!

 :性格がドブすぎる

 :こういう方向で人類に悪意を持ってるタイプか

 :天道ボコボコしてやれ! 俺が許可する!

 :いまの天道リスナーの百億倍キレてそう


 下品な笑い声を上げるレヴァンティンを、天道は殺意を込めた双眸で睨む。


 ダンジョンでは冷静であろうと努めていた少年は、はじめて魔物相手に怒りを覚えていた。


「もうしゃべらなくていいです。お前は殺す」

「やだ激おこじゃ~ん! こわ~い! なんてな。天道一夜、直接会ってよくわかったわ。お前は危険すぎ。いまここで確実に死ね」


 レヴァンティンの傀儡になった千景は、両刃の西洋剣と風刃丸を構える。


 空気がビリビリと震え、二人を獲物と見なしていた卑竜は全員方向転換した。


「ケヒャヒャ! 天道くんは仲間の身体に本気だせるのかなあ? さあ、いっくぜええええええええええッッ!」

「【時の反逆者】」


 スキルが発動し、レヴァンティンが足を踏み出した状態のまま停止した。


 天道は一歩で距離を詰め、右拳に魔力を集中させる。

 狙いはレヴァンティンの本体、西洋剣だ。


 全力を込めた拳を振り下ろそうとした瞬間、天道の動きがピタリと止まった。


 二十秒ほど思考を巡らせると、自ら【時の反逆者】を解除して後方に飛び退く。


「おっ、いま時間を止めたな。それでオレが無事ってことは……ヒャヒャ、よく気づいたじゃねえか」

「……柄から伸びる魔力の糸は人格を乗っ取るだけじゃない。千景さんの心臓と密接に絡みついている。そうですね」

「大正解。つまりオレを壊した瞬間、この女も死ぬってことだ。さあどうするよ超大型新人! 時間停止じゃ勝てねえ相手がエントリーだぜ!」


 :え、マジで? チカ姉どうすんの!?

 :ちょっ、嘘だろ!? 

 :じゃあどうにもできないじゃん!

 :こういう方法で時間停止を対策してきたか……

 :探索者のスキルは検索すれば出るからな、弱点モロバレよ

 :それは魔物がネットを使えないからだろ!? 地上で戦うなんて思わないじゃん!

 :ダンジョン協会のルールがここで効いてきたな

 :……天道マジでヤバくないか?

 :そうだが?



 千景の声でレヴァンティンはまくし立てる。

 口角を三日月のように吊り上げ、舌を出す姿は下品なチンピラのようだ。


 天道は魔力剣を握り、千景を救うために脳をフル回転させる。


「そうそう、剣使い同士仲良く斬り合おうぜ!」

「っ……ッッ!」

「やっぱ太刀筋は素人か。ヒヒ、腕前ならこの女の方が上だな」

(千景さんの剣術をベースにした巧な二刀流! 荒々しくも繊細で……強い!)

 西洋剣と日本刀の二刀流から繰り出される連撃。


 常識ではあり得ない剣術を、レヴァンティンが引き出した千景の潜在能力が可能にする。


 一振りごとに威力が高まり、ぶつかり合う刃は火花を散らす。

 天道の魔力剣は防御で精一杯だ。


「ヒャヒャヒャ! 惨めだなあ! 本気を出せば余裕で勝てるとか思ってんだろお!? 悪いがさせねーよ」

「いえ、させてもらいます」

「お……おおっ!?」


 レヴァンティンの動きが剣を振り上げた状態のまま固まる。

 手も足もその場から動かせない。


 :なんかいきなり止まったぞ!

 :拘束系のアイテム?

 :俺わかったかも

 :【時の反逆者】で空気を止めるやつか!

 :エルドラスライムにつかったあれだな

 :あの時より早くなってるじゃん!

 :天道はまだまだ成長途中ってことよ


「そのまま動くな。魔力糸はサンプロに運んでから、じっくり解除してもらいます」

「オイオイ、それは舐めすぎだろ。この女を操れる意味わかってんのか?」

「──ッ!!」

「そーだよ! 【氷姫雪影】! 氷剣山!」


 地面から生えた氷の刃が、時間停止で固めた空気を斬り裂く。


 拘束から逃れたレヴァンティンは、さらに氷の波で追撃を行った。


「くっ……氷縛白波まで……!」

「それだけじゃねーぞ。オレは魔物寄りだからな。当然魔物とおしゃべりもできるってわけよ」


 :おしゃべりってなに?

 :なに言ってんだこいつ

 :自分たちで破界現象起こして魔物に襲われたらアホだからな

 :それはわかるけど、なぜ今?

 :悪いフラグが立った気がする


「事前の仕込みは終わってる。エルドラスライムやドラクートと同じように、ボスと話してんだよ! お前を殺すためになあ!」

「KIIIIIIIIIIIIIIIッッ!」

「なっ!? 【時の反逆者】!」


 突如背後から現れた強力な魔力反応に、天道はスキルを発動する。


 その場から離れて時を動かすと、さっきまで自分がいた場所に落雷が直撃した。

「KIIIIIIIII!」

「……なるほど。そういうことですか」


 レヴァンティンの隣に降り立ったのは、鳥のような羽とくちばしを持つ『雷鳴震孔のダンジョン』のボス、雷皇竜だった。


 その身体は雷光で青白く輝いている。


「A級探索者を操るS級アイテム、脅威度Sのダンジョンボス、完璧な布陣だろお? 雑魚ドラゴン集めるより、こっちの方がお前には効きそうだからな」


 :えええええええええええええええええええええええええ!?

 :マジかああああああああああああああああああああああああああああ!?

 :Σここで雷皇竜来るの!?

 :ボスとも連携できるとかズルだろ!?

 :他のドラゴンが出てきてるんだから、いるのはわかるけど……

 :いま出てくる奴がいるか馬鹿!

 :天道ってここからチカ姉の二刀流と、氷のスキル、雷皇竜の電撃まで相手にすんの!?

 :まあ、そうなるな

 :こんなんS級探索者でも無理だろ

 :終わりだな、流石にクソゲーがすぎるわ

 :天道一人じゃ無理だって! 探索者のリスナー助けに行ってやれよ!

 :無茶言うな、秒で死ぬわ

 :D級の俺がなんの役に立つと?

 :肉壁にもならんだろうな

 :C級ワイ、低みの見物


「ケヒャヒャヒャヒャ! いっくぜえええええええええ!」

「KIIIOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

「──魔力形成!」


【氷姫雪影】の氷が地面を走り、獲物の足を凍結させるべく迫る。


 空中からは雷皇竜の雷が降り注ぎ、まばゆい光が肌を焼く。


【時の反逆者】を使用したばかりの天道は、魔力形成で生み出した剣と盾で、氷と雷の挟撃を懸命に防いでいた。


(千景さんは後にする。まずは……確実に雷皇竜から倒す!)

「KIIIIIIIIッッ!」

「まあ、そう来るよなあ。【氷姫雪影】、大氷壁!」

「っ……そう甘くはないですよね」


 雷皇竜に狙いを定めた魔力槍を氷の壁が阻む。


 決め手に欠けたまま続く戦いは、ジワジワと天道の精神力を削り取っていた。


「くっ、ハアアアアアアアアアッッ!」

「KIIIOOOOOOOOOOOOOO!」

「ったく、まだあきらめてねえのか。いい加減観念して死ね。お前のスキルじゃオレたちには勝てねえんだからよ」

そうかも知れませんね。でも、この武器はどうでしょうか」「あん?」


 怪訝な顔をするレヴァンティン。


 会話に気を取られた隙を狙い、天道は二体の敵から距離を取り、設営のテントに飛び乗った。


 同じタイミングで空中に現れたのは、輸送用のドローンだ。


 カメラが少年の姿を確認すると、下部分に取り付けられた武器がパージされる。

 天道はそれを空中に跳んで掴んだ。


「て、てめえ! まさかそれは……!」

「はじめて使うけどいい剣ですね。手にしっくりきます」


 天道の手にあるのは、炎皇竜からドロップしたS級アイテム。


 だれもが喉から手が出るほど欲しい武器ゆえに、厳重にサンライト・プロダクションで保管されていたもの。


 その名を『炎皇極聖剣』といった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る