第30話 激突! 救世委員会!

「貴様ら……我々に逆らうつもりか。お前たち構えろ! これ以上ダンジョンを穢させるな!」

「「「「「はい! 教主様!」」」」」


 後方に控えていた赤頭巾のリーダーらしき男が、白装束の集団に命令する。


 サブマシンの引き金に指がかかり、一斉に発砲が始まった。


 ガガガガガガガガガガ! ズガガガガガガガガガガ!


 無数の銃弾は無機質に人の命を奪う凶器。


 僕たちだけじゃなく、背中を向けて逃げているリスナーたちまで、標的にしているのがわかる。


 でも、これ以上好きにはさせない。


「【氷姫雪影】! 大氷壁!」

「【ゴーレム召喚士】。みんな前に出て」


 氷の壁とアスファルトのゴーレムが、銃弾の雨からリスナーたちを守る。


 その隙に僕は白装束の集団へ飛び込んだ。


「ハアアアアアアアアアア!」

「ぐほっ!?」

「げはっ!」

「がっ……おげええええええ!」


 :ナイスパンチ!

 :天道やっちまえ!

 :前歯全部折ってやれ!

 :いま鳩尾にクリーンヒットしたな

 :うわっ、痛そー

 :魔力剣じゃないってことは、手加減してくれてるんだな

 :カスだけど一応人間相手だし


 拳がめり込むたびに白装束たちは悲鳴を上げ、地面に突っ伏した。

 この一分間でもう三十人以上は倒している。


 魔物と同じ扱いなら殺してもいいんだろうけど、そこまでするつもりはない。


 ドロップアイテムが出ない敵を殺しても、僕には一円にもならないしね。


「いっちーを見習って手加減してあげるね。しばらくベッドから下りられないだろうけど」

「「「「ひぎゃあああああああああああああ!」」」」


 リリカさんの魔力弾が、容赦なく胸や足に撃ち込まれる。


 非殺傷のゴム弾レベルに威力を落としているんだろうけど、めちゃくちゃ痛そうだ。


「法律が許すなら思いっきり殴ってええよな!」

「ぼくも手伝うよー。あんまり美味しくなさそうだけどー」

「俺喧嘩は苦手なんだけどな。やっぱやらなきゃダメっすよね」


 南波先輩、獣坂先輩、千葉先輩が、白装束たちをなぎ倒していく。


 銃弾は魔力強化された身体で受け止め、サブマシンガンを素手で折り曲げた。


 さすが武闘派の先輩たち(千葉先輩のぞく)だ。


「なにをやっておる! 相手はたった七人だぞ!」

「そうなのですが……つ、強すぎます! 普段魔物と戦っているだけのことはあります!」

「もういい! 増援部隊を全員呼ぶのだ!」


 建物の影に隠れていた他の白装束たちが、一斉になだれ込んでくる。


 数は五百人を超えていそうだ。

 いや、どんだけ待機させてるの!?


 ダンジョンを守るためにここまでする!?


「スキルを使える者は出し惜しみするな! 魔物も投入しろ!」

「はい! 【ファイアーボール】!」

「【樹木操作】!」

「ガルルルルルルゥッッ!」


 :なんかめっちゃ出てきたな!?

 :いい大人がこんな多人数でマジかよ

 :やべえ! 炎のスキル持ちがいるぞ!

 :もう一人は木属性だな

 :ワーウルフまで用意してるじゃねえか!

 :あれテイム未許可の魔物だよな、魔物主従法違反だぞ

 :すでに銃刀法違反だよぅッッッッ!


「【時の反逆者】。対象、樹木」

「お、俺の木が動かねえ!?」

「おい邪魔だぞ!」

「横に広げるな!」

「【氷姫雪影】! 氷針落とし!」

「「「「ぐほああああああああああああああ!?」」」」


 :連携攻撃うおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 :これで一気に百人近く削ったよな!?

 :やっぱ天道とチカ姉相性いいわ

 :すまん探索者舐めてたわ、スキル使えるだけの素人じゃ相手にならんな



 地面から生えた木の時間を止め、敵の動きを阻むバリケードにする。


 その隙に千景さんが、つららの雨を頭上から降らせた。


 白装束たちはパニックになりながら、叫び声を上げる。


「グルルル! グルオオオオオオオッッ!」

「お座り、ですよ」

「グル……グ、ガハァッッ!?」


 :ワーウルフ一撃粉砕!

 :つえー、軽く蹴っただけでこれか

 :まあ天道だしな

 :ワーウルフなんてポメラニアンみたいなものよ


 飛びかかってきたワーウルフは、膝蹴り一発ででダウンさせた。


 この強さだと脅威度はDくらいかな。

 悪いけどダンジョンの魔物に比べれば弱すぎる。


「く、くそぉ! あのお方にお貸しいただいた魔物が! 貴様らもっと気合を入れんか! アイテムもどんどん使え!」


 ポイズンスライムやツインヘッドワームのような魔物。


 炎のナイフや雷の槍などのアイテムを使ってくるけど、どれもEかD級程度のレベルでしかない。


 救世委員会の用意した戦力はもう底が見えた。

 これなら僕たちの敵じゃない。


 ここからの戦いは、ゴブリンと戦うより楽に進んだ。


「あなたで最後です。あきらめてください」

「そんな……ば、馬鹿な……」


 :こいつで最後だな!

 :配信開始からまだ十五分くらいか

 :七人で五百人以上に勝つサンプロやべーな

 :これが大手ギルドの探索者よ

 :いつも配信見てるから麻痺するけど、ダンジョンの魔物って強かったんだな

 :当たり前体操


 リーダーと思われる赤頭巾に、僕は魔力剣を突きつける。


 その周りでは白装束たちが折り重なって倒れていた。


「あのお方って言ってましたよね? 教主のあなたより上の人間がいるんですか?」

「そ、それは言えん! 救世委員会が仲間を売るものか!」

「あんたって殺しても罪に問われないんでしょ? 話す気がないなら、リリカ撃っちゃおうかな~」

「素晴らしい仲間意識だな。では足の指から順番に凍らせていくか」」

「わ、わかった! 言う! ぜんぶ話すからやめてくれ!」


 赤頭巾の男は一瞬で態度を変えた。


 リリカさんの銃口が額にゴリゴリと押し付けられ、千景さんの氷が足元から上がってくるんだから、無理もないと思うけど。


 ていうか二人とも怖っ!


「我々に力をお貸しくださったのは──」

「それ以上言う必要はない」

「あ……は、え?」


 言葉が途中で途切れたのは、喉の奥から剣が突き出たからだ。


 頭巾だけじゃなく白装束まで真っ赤になった教主の背後には、黒コートを着た長身の男が立っていた。





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