第27話 大型コラボ配信、打ち合わせ
夢を見ている途中で、これは夢の中なんだって気づくことがある。
いま僕が体験しているのもそれだ。
「ただいまー」
小学五年生の僕が遊びから帰ってきて、家のドアを開ける。
いつもなら母さんが夕食の準備をしていて、台所からいい匂いがしてくる。
妹のミユは生意気だけど、ゲームはいつも一緒にする。
ガレージに車があったから、今日は父さんも早く帰ってきてるはず。
久しぶりに家族そろって夕ご飯が食べられる。
僕はそう考えて、ワクワクしながらリビングに向かった。
でも、本当は始めからずっと違和感があったんだ。
どうして「おかえりなさい」の声がないのか。
どうして夕食の匂いがしないのか。
どうして家の中がこんなに暗いのか。
リビングに入った僕の目に飛び込んできたのは、彫像のように直立したまま固まった、家族の姿だった。
「父さん……? 母さん……? ミユ……? みんなどうしたの?」
震える声でみんなの名前を呼ぶ。
宝石化の呪いによって、家族の身体はつま先から頭の天辺まで、無機質なダイヤモンドに成り果てていた。
あのときはすぐに現実が理解できなかったな。
ダンジョン協会で『呪い被災者支援システム』の説明を受けて、施設に入らず一人でも生活できるようになったのは、それからずっとあとのことだ。
僕は家族を元に戻すために探索者になった。
それがいま生きている理由のすべてだ。
願わくば、もうだれも僕と同じ苦しみを味わってほしくない。
もし来世があるなら、今度はダンジョンがない世界に生まれたい。
そう思いながら、今日も僕はダンジョンで配信する。
◇ ◇ ◇ ◇
リリカさんの家に泊まってから、二週間が過ぎた。
僕たちはサンプロの訓練用施設で、日々特訓にはげんでいる。
ダンジョン配信もあるから毎日は無理だけど、リリカさんが元気になってよかった。
いまは頼れるリーダーとして、他の先輩たちと一緒に攻略をしているみたいだ。
ところで僕はというと、大型コラボのお誘いが来ました。
先輩たちと協力して、最近発生した脅威度Sのダンジョンを攻略してほしいと、小岩井さんから連絡があったのだ。
ソロで何度か攻略してるから感覚がマヒしてたけど、普通はA級探索者四~五人でチームを組んで攻略するものらしい。
それだけ僕の実力を評価してくれるのは嬉しいけどね。
今日は打ち合わせということで、サンプロ本社の会議室に来ています。
ホワイトボードの前に小岩井さんが立ち、コの字に並べられた会議机の椅子に、僕と先輩たちが座っている。
みんな真剣な表情なので、なんだか緊張してきた。
「本日は『雷鳴震孔のダンジョン』攻略について、打ち合わせを行いたいと思います。初対面の方もいると思うので、まずは自己紹介をお願いします」
小岩井さんは僕たちを見てそう言った。
サンプロ所属の探索者は三百人を超えるので、同じギルドでも直接顔を合わせたことのない人も多い。
僕は今回のメンバーに知っている人が多いけど、あらためて自己紹介してもらえるのは助かる。
「A級探索者の小鳥遊千景だ。戦闘に関してはリハビリ中だが、サポートは任せてくれ」
凛とした口調で千景さんが言う。
黒のロングヘアは今日も艶めいて綺麗だ。
「A級探索者のリリカ・バレットファイアーで~す。チームの『目』になれって小岩井さんに誘われたんだよね。魔物の位置とかバンバン言っちゃうんでヨロシク!」
リリカさんは顔の横でピースする。
ピンクのツインテールは、ふわふわした綿菓子のようだ。
「B級探索者の倉石怜。がんばって起きる」
倉石先輩は眠そうにまぶたを擦る。
銀のショートヘアは照明を浴びて、キラキラと光っていた。
「B級探索者の獣坂プレデターだよー。いっぱいご飯があるって誘われましたー」
獣坂先輩はパンダの着ぐるみを着て、口をパクパクと動かす。
あれってどういう仕組みなんだろう?
「C級探索者の千葉リョウトっす。歳は一番上だけど探索者歴は一年半のペーペーなんで、先輩方よろしくお願いしゃっす!」
茶髪イケメン探索者の千葉先輩が頭を下げる。
以前僕にドッキリをしたときよりも、かなり緊張してるみたいだ。
「A級探索者の
「南波先輩よろしくお願いします」
「おう、よろしくな。殴り合いが得意やからいつも前衛担当や。強そうな魔物は任せてな!」
そう言って、片手でガッツポーズをする。
南波先輩と直接会うのははじめてだ。
金髪のベリーショートで、肌は小麦色に焼けている。
関西弁が特徴的だけど、迫力のあるしゃべり方がちょっと怖いかも。
「C級探索者の天道一夜です。時間を止められるので、初見殺しには自信があります」
最後は僕の自己紹介だ。
緊張したけど、噛まずに言えたぞ。
「いっちー、二日ぶり~。元気だった?」
「はい。元気全開です」
「……二人とも最近よく会っているのか?」
「まあね~。あれ? チカっち知らなかったっけ?」
リリカさんの言葉で、千景さんの空気が変わった気がする。
んん? スキルも使ってないのに部屋が寒いな?
「まあ、わたしは昨晩も電話で話したしな。貴様は知らないだろうが」
「……へー、そうなんだ。リリカは一緒にゲームしたことあるけどね」
「わたしは二人で街へ遊びにいった仲だが?」
二人の間でバチバチと火花が飛び散る。
この険悪な空気って……まさか僕のせい?
「いっちー、いつでも泊まりに来ていいからね。前みたいにジャージ貸してあげるから」
「天道くん、またあの店に行こうか。今度は君の好きな衣装を着てみたいな」
「は、はい」
冷や汗を流しながら、僕はなんとか言葉をしぼり出した。
二人ともなんで今そんなこと言うんですか!?
獣坂先輩と千葉先輩はひそひそ話してるし、南波先輩にドン引きされてるのがすごく嫌なんですけど!
ちなみに倉石先輩はほぼ寝てます。
「お二人とも雑談はあとにしてください。倉石さんは起きないとビンタします。あと天道さん」
「な、なんでしょうか」
「個人的にミーティングがあるので、この後残ってください。いまの話題についてじっくりとお話ししましょう」
小岩井さんがジト目で僕を見てくる。
もしかして恋愛禁止の規則を破ってると思われてる?
二人ともただの友達なんです! 信じてください!
本当にやましいことはなんです!
「そろそろ本題に戻ろうよー」
「うちもそう思う」
「たしかに。そうですね」
小岩井さんはコホンと咳払いしてから、そう言った。
ともかく初手からギスギスしたけど、大型コラボの会議が始まりました。
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