第25話 リリカの家でお泊り(デート回)

 リリカさんの部屋は、ピンク色の家具やカーペットが目立つ、ファンシーな空間だった。


 ベッドのカバーだけは牛柄で、枕が二つ並んでいる。


 柔軟剤とリリカさんの匂いが混じったいい香りがするけど、それを言うのはキモすぎるので心に閉まっておく。


「ご飯つくるから座ってて。棚の漫画とか好きに読んでいいから」


 リリカさんはエプロンを着けると、ウキウキした様子でキッチンに入っていった。


 手持ち無沙汰になった僕は、漫画を借りることにする。


 内容はサスペンスみたいだけど、漫画を読むこと自体久しぶりだ。


 読みながら四十分くらい待っていると、リビングに料理が運ばれてきた。


「じゃーん、リリカ特製ディナーで~す!」


 丸テーブルの上にパスタとサラダ、それにスキンステーキが、とんとんと置かれていく。


「すごい……リリカさん料理上手なんですね

「でしょ~。冷めないうちに食べて食べて」

「では、いただきます」

「いただきま~す!」


 フォークでパスタと具材を巻いて食べる。


「──美味しいです! 野菜の食感と魚の塩加減が絶妙ですね!」

「お、食レポの練習かな?」

「違いますよ! 本当に美味しいんですって!」

「えへへ、嬉しいこと言ってくれるじゃん。キャベツとアンチョビのパスタ、よく作るんだよね」


 照れてるリリカさんと眺めながら、どんどんパスタを口に運ぶ。

 ヤバい。フォークが止まらない。


「このサラダも新鮮ですね! 鶏肉もジューシーです!」

「めっちゃ感動してくれるじゃん。スーパーの特売で買ったやつだけどね。てゆーか、いっちーって普段なに食べてるの?」

「外食以外だとカップラーメンか総菜パンですね。すぐ食べられるので」

「それ絶対早死にするやつ! ご両親は作ってくれないわけ?

「……食事は自分で調達するのが我が家のルールなので」

「そ、そうなんだ。ごめん」


 家族が宝石化してから、食事はコンビニ頼りだ。

 食事は早く済ませて、トレーニングするのが日常だったしね。


「じゃあ、たまにでいいからリリカの家に来なよ。ご飯作ってあげるから」

「それはさすがに迷惑じゃないですか?」

「栄養失調で倒れるほうが迷惑でしょ。あとで小岩井さんにも相談しとこ」


 好きなものを食べればいいと思ってたんだけど、どうやらそうでもないらしい。

 栄養バランスについて話しを聞きながら、久しぶりに手料理で満腹になった。


「夕ご飯、ごちそうさまでした」

「ふぅー、お粗末様。お腹いっぱいだね~」

「洗い物は僕がやりますよ」

「これくらい食洗器ですぐだって。じゃ、食器を運んでもらおうかな」


 食器を受け取ると、リリカさん落ちにくい汚れをスポンジで擦って、食洗器に放り込んでいく。


 一人暮らしが長いのか、すごく手際がいい。


「いっちーってゲーム好き? リリカはリスナーに色々オススメされるから、けっこう詳しいんだけど」

「全然やったことないです。面白いんですか?」

「おもしろいよ~。教えてあげよっか」

「お願いします」


 それから僕たちは色んなゲームをして過ごした。


 銃で撃つゲーム、格闘技のゲーム、パズルのゲーム、リリカさんはどれもすごく上手い。


 僕もはじめてだけど、ちょっとわかった気がする。

 気がつくと、もう終電は過ぎていた。


「うわっ、もうこんな時間ですか。僕タクシーで帰りますね」

「えー、泊まってけばいいじゃん。本社も近いし」

「そ、それはマズくないですか?」

「だいじょうぶだって。ついでにお風呂も入ってけばいいじゃん。ジャージいっぱい持ってるから貸してあげるし」


 大丈夫ではないと思うんだけど、リリカさんの勢いに押し切られ、僕は泊まる上にお風呂までいただくことになった。


 先に入っていいそうなので、バスルームで服を脱ぐ。


 普段はここでリリカさんが脱衣しているわけです。

 ……いまそれを考えるのはやめておこう。


 絶対その方がいい。


「ふぅー、気持ちいい」


 シャワーで汚れを落としてから、湯舟にゆっくり浸かる。

 顔に触れる湯気が心地いい。


 ぼーっとくつろいでいると、お風呂の扉がガチャッと音を立てた。


 ん? いまここには僕とリリカさんしかいないはず。

 つまり人が入って来るってことは……。


「いっちー、背中流してあげる♪」

「え。エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」


 中に入ってきたのは、スクール水着姿のリリカさんだった。

 学生時代の水着みたいで、胸とかお尻とか色々納まっていない。


「ちょっ、声大きいって」

「ご、ごめんなさい。でも僕まだ入ってるんですけど……」

「お礼したいって言ったでしょ? リスナーに聞いたら混浴が嫌いな男はいないんだって。り、リリカも恥ずかしいんだけどね。喜んでくれたら嬉しいな」


 リリカさんは顔を赤くして、僕の下半身から目を逸らす。

 ヤバい。可愛さが天元突破してる。


 でも、リスナーは絶対に冗談でコメントしてると思う。


「せ、背中向けてくれるかな」

「は、はい」


 湯舟から出て、シャワーのある方を向きバスチェアに座る。


 リリカさんは緊張しているみたいだけど、少ししてタオルが背中に触れた。


 ごし、ゴシゴシ。ゴシゴシゴシ。


「どう? 気持ちいい?」

「気持ちいいです」


 泡のたっぷり浮かんだタオルが、ほどよい力加減で擦ってくる。

 自分でするのと違うのは、女性らしい指の感触だ。


 いけないことをしてるみたいで、すごくドキドキする。


「こ、こっちはもっと気持ちいいかも」

「え……ひゃいっ!? こ、これって……」

「口に出すの禁止! マジ恥ずいんだから!」


 タオルと交代して押し当てられたのは、リリカさんの胸だった。


 ふわふわした柔らかさの奥に、しっかりとした弾力がある。


 これはいくら何でも、やりすぎじゃないですか!?


 ふにゅ。むにゅ。ムニュフニュン。


「……どう?」

「えっと、さっきより気持ちいいです」

「そ、そうなんだ。へー、ふーん」


 リリカさんの声が嬉しそうに弾む。

 実際この背中流しは、すごい快感だ。


 ボス戦並みに集中しないと、理性が吹き飛んでしまいそうだ。


「背中はこれで終わりね。前も……する?」

「いえ、前は自分でします。絶対に」


 僕は断固とした決意を持って、そう言った。











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