第23話 飛行船、最後の戦い

「ふぅ。時間ギリギリでしたね」


 :やったああああああああああああああああああああああああああ!

 :うおおおおおおおおおおおお! タイマー止まったあああああああああ!

 :あっぶねえええええええええええええええええええええ!

 :祝ッッ! 自爆回避ッッ!

 :天道マジでよくやった! すぐ質問したリスナーもな! 

 :倉石に化けるとかとんでもねえな

 :推しが生存している幸せ

 :リリカのオタクくんだけど、お前は認める!

 :はじめて男のチャンネル登録するわ

 :心臓止まるかと思った(本日二回目)



 キャプテン・ドラクートを撃破し、タイマーはストップした。


 ひとまず危機は去ったはずだ。


「ドロップアイテムのこれって、……なに?」

「これは『天空の舵輪』ですね。装着した物体を飛行船みたいに操縦できます」

「へー、いっちー詳しいね。アイテム博士みたい」


 リリカさんは目を丸くして僕を見る。

 アイテム博士ってなんだろう。


「そういえば、本物のトキっちってどこいったんだろ。一緒にいたのは偽物だったよね?」

「そういえば……!」


 :あっ

 :ヤバ……

 :どのタイミング入れ替わったんだろ

 :生きてる……よな?


 崩壊のどさくさに紛れて入れ替わったなら、倉石先輩になにかしたはずだ。


 すでに殺された可能性が頭をよぎり、サアーっと血の気が引く。

 そんな……せっかくボスを倒したのに。


「倉石先輩! 返事をしてください!」

「トキっち! どこーーーーっっ!」


 飛行船全体に響く大声で、倉石先輩に呼びかける。


 その時、


 ゴゴゴ……ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!


「ふんっ!」

「「えっ!?」」


 轟音と共に瓦礫を吹っ飛ばして、倉石先輩が下から現れた。


 身体は汚れているけど、ピンピンしているみたいだ。


 よかった……生きててくれて。


「トキっち! 無事だったの!?」

「ずっと鉄の箱に閉じ込められてた。さっき急に脆くなったんだけど、もしかして終わった?」

「飛行船のボスは倒しました」

「二人ともお疲れ。ところでボスのドロップアイテム、三人でじゃんけんしない?」


 :お前はボス戦ずっと休んでただろ!

 :図々しくて草

 :かっ、カス!

 :お前ー! 天道とリリカさんがなー!


 倉石先輩は無表情のまま、グッと親指を立てる。

 コメントには突っ込まれてるけど、無事ならそれでいい。


 解呪以外のアイテムには興味ないしね。


「転移クリスタルはもう使えるみたいですね」

「ホントだ。じゃあこれで攻略完了じゃん! よかった~!」

「じゃ、アイテム回収して各自解散」


 地上に戻れるとわかって、僕はほっと胸をなで下ろした。


 リリカさんも涙ぐんでるし、倉石先輩はオートマトンからドロップしたアイテムを集めている。


 そこで声が聞こえた。


「キサ、マラ……」

「うわっ、まだ生きてるし!」

「これボス? しぶと」


 もう魔力もほとんど残っていない状態で、キャプテン・ドラクートの一体が、溶けたアイスクリームのような口を動かす。


 ドロップアイテムは出現したのに、まだ意識があるなんて驚きだ。


「なにか言い残すことでもあるんですか?」

「オレハ、ココデ死ヌ。ダガ……『一人デモ多クノ、探索者ヲ殺セ』、ト命令サレタ。アトハ……ペットニ、任セル」

「ペット? それってどこに────」


 オオオ……ゴオオオオオオオオオオオオオォッッ!


「────?」


 一瞬の出来事だった

 羽が風を切る音が聞こえ、リリカさんの声が途中で途切れる。


 開いた飛行船の天井から飛び込んできたのは、巨大な鳥の魔物。


 足の爪がしっかりと彼女をつかみ、一瞬で空に舞い上がる。


 :は? いまの何!?

 :リリカちゃんがさらわれてる!?

 :馬鹿デカい鳥だったぞ!

 :ボス倒したのにそんなのありかよ!

 :一瞬だったけど、タイタンファルコンに似てた気がする

 :タイタンファルコンってマジ?

 :本当なら空中だと、脅威度Sクラスの魔物だぞ

 :じゃあリリカちゃんどうするんだよ

 :どうにもならない

 ;ボスを倒したから、時間が経てばダンジョンが消滅するのか、ああああああああああああああ! いやだあああああああああ!

 :ハァ!? 嘘だろオオオオオオオオオオオオオ!?

 :飛行系スキルの探索者をいますぐ呼べ! 早くしろ!

 :そんなの大手でも二、三人しかいないだろ……

 :ダメだ……終わった……


「──【時の反逆者】! っ……あ、ぐっ!」

「天道、だいじょうぶ!?」


 時間停止を発動しようとして、その場で膝をついた。


 ダメだ。

 もうスキルを発動できるだけの魔力が残ってない。


 鳥の魔物が飛行船から離れる前に止めたかったのに。

 一度空中に逃げられたら、もう追いつけない。


「考えろ……リリカさんを助ける方法を……」


 三人で始めた今日のコラボ配信、絶対に全員で地上に戻るんだ。


 僕は瞳に空を映し、最後の手段を思いついた。

 リスクは高いけど、やるしかない。


「倉石先輩、お願いがあります」






 ◇ ◇ ◇ ◇





 ダンジョンに広がる大空を、タイタンファルコンは堂々と飛行する。


 白い羽がはばたくたびに、つむじ風が巻き起こった。


「ちょっと! 放してって!」


 爪につかまれたリリカはジタバタともがく。

 だがホールドする力が強く、とても振りほどけない。


(両腕はつかまれて動かせないし、これマジでヤバくない? 転移クリスタルどころか、魔力弾も撃てないんだけど)


 最悪の状況に、滝のような汗が噴き出してくる。

 ダンジョンに入った時点で、飛行船以外の物体は見当たらなかった。


 このままではダンジョンの消滅に巻き込まれてしまう。

 過去に巻き込まれた探索者は、いまも全員行方がわかっていない。


 それは死亡宣言と同義だ。


(リリカ死ぬの? こんなところで? せっかくいっちーがボスを倒してくれたのに)


 普段は考えないようにしていた、死の恐怖が湧きあがってくる。


 配信ドローンもいない真の孤独に押しつぶされそうだ。


「やだ死にたくないよ……助けて……。リリカはここにいるから! だれか助けてっ!」


 ポロポロと涙をこぼしながら、リリカは喉の限界まで叫ぶ。

 それが叶わない願いだと、薄々わかっていても。


 だが、彼女はけっして一人ではない。

 頼れるギルドの仲間が、このダンジョンにはいるからだ。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

「なっ、なにいまの声!?」


 魔物特有の雄たけびに、リリカは飛行船のあった方向を振り向いた。


「あれって……トキっちのゴーレム!? 超デカいんだけど!」


 飛行船の半分を吸収し出現したのは、金属で構成され超大型のゴーレムだった。

 それは倉石怜のスキル【ゴーレム召喚士】で生み出されたものだった。

 彼女は魔力を流した物体を、ゴーレムに変え自在に操ることができる。


 ボスが倒されたことで、飛行船に対する魔力干渉が激減。

 瓦礫や機械を対象にして、スキルを使えるようになったのだ。


「でも、ゴーレムでどうするんだろ」


 タイタンファルコンとゴーレムの距離は離れすぎている。

 とても殴ってどうにかできる位置関係ではない。


 しかし、そんなことなど関係ないというように、ゴーレムは巨腕を大きく振り上げた。


 そして、ピッチャーがボールを投げるように、力いっぱい拳ににぎったものを投げつけた。


 魔力剣を構えた、天道一夜を。


「いっちーが飛ん来てる!?」


 目を見開くリリカに向かって、天道はミサイルのように急接近する。


 構えた魔力剣はタイタンファルコンを追い越す刹那、刃を首にめり込ませた。


「クエエエエエエエエエエエッッ!?」

「僕の仲間を返してもらいます」


 刃が振り抜かれ、悲鳴を上げながら首が切断される。


 意識を失った身体が落下を始める前に、天道はリリカを爪から解放し、抱きかかえた。


「いっちー……ありがとう。リリカもう終わりだって思ってた……」

「探索者は助け合いですから。一緒に地上へ帰りましょう」


 天道の手には起動した転移クリスタルが輝く。

 輝きに包まれながら、二人の姿はダンジョンから消えた。


──────────────────────────────────────


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