第22話 ボス戦、キャプテン・ドラクート
「オレハ、キャプテン・ドラクート。コノ船ノ船長ダ」
:こいつもシャベッタアアアアアアアアアアアアアアア!
:またしゃべる魔物かよおおおおおおおおおおおお!?
:カタコトだけど意味はわかる!
:エルドラスライムに続いてこいつもかよ
:海賊の船長みたいなオートマトンだな
:知能の高い魔物とか怖いんだけど……
:ダンジョンに何か起こってるのかも
砂鉄の口ヒゲをいじりながら、キャプテン・ドラクートは言う。
魔力から強さは感じられないけど、船長を名乗るということは、ダンジョンを支配するボスのはずだ。
地上に戻るためにも、確実に倒さないと。
「見た目的におじさんがボスだよね。悪いけど蜂の巣決定だから」
「勝ち確。三体一でボコボコにする」
リリカさんが銃口を向け、倉石先輩が双雷刃を構える。
僕も魔力剣を持ち、スキルを発動する準備は万端だ。
「ジックリ観察シタ、オ前タチハ強イ。ダカラ……コノ船ヲ爆破スル。アト十分デ起爆ダ」
「…………は? なんの話? い、意味わかんないんだけど」
「結論。十分後にここが吹き飛ぶ」
倉石先輩の言う通り、このボスは飛行船を自爆させるつもりだ。
あと十分で、僕たちは空に投げ出されることになる。
え。これめちゃくちゃピンチでは?
「停止方法ハ、コノ場ニイル、俺ノ命ヲ絶ツコトダ。コレデ、条件ハ満タシタ。【死爆遊戯】発動」
地面の瓦礫から、10:00にタイマーを合わせた、巨大なタイマーが出現する。
これはユニークスキルの制約説明だ。
自爆を止めるためには、自分を殺せとあえて教えている。
「ダンジョンごと自爆するってこと!? そんなの逃げられないじゃん! ど、どうすんの!?」
「今日が命日かも」
「落ち着いてください。十分以内にあいつを倒せば問題ありません」
:はあああああああああああああああああああああああ!?
:いやいやいや、自爆なんてアリ!?
:やべええええええええええええええええええええ!
:あと十分でみんな死ぬってコト!?
:ここまで頑張って魔物倒してきて、そんなオチある!?
:こーれ、クソゲーです
:ボスが自分の支配領域を爆破するなんて前代未聞だぞ!
:爆発オチなんてサイテー!
コメントが爆速で流れるように、僕の心臓もドラムめいてテンポを上げる。
想像の斜め上をいく最悪。
転移もできない状態で、ダンジョンそのものが吹き飛んだら、【時の反逆者】を発動しても死ぬしかない。
「転移妨害モ、オレヲ殺セバ、解除サレル。サア、ゲーム開始ダ」
言い終わった瞬間、キャプテン・ドラクートの肉体は液体金属のように溶けた。
そのまま足元にある、瓦礫の下に潜ろうとする。
「──ッ! 【時の反逆者】!」
完全に潜られる前に、僕は時間を止めた。
船内を逃げ回るボスを倒すゲームなんだろうけど、付き合うつもりはない。
溶けた肉体に魔力剣を刺し、刀身から魔力を放射する。
そして、時間は動きだした。
「ナヌ……!? ヌグアアアアアアア!」
:もう攻撃してるーーーーッッ!?
:時間停止うおおおおおおおおおおおおおお!
:ボスに剣刺さってるじゃん!
:魔力放射の追撃!
:ゲーム開始直後に狩られて草
:天道からは逃げらないんだよなぁ
:ここ動画行きです
キャプテン・ドラクートは僕の魔力に耐えきれず、その場で蒸発した。
よし。これで攻略完了だ。
「いっちー、すごっ! 気づいたらボス倒してるじゃん!」
「ナイスキル」
これで地上に戻れるはずです。転移を試してみてください」
二人は転移クリスタルを取り出し魔力を込める。
「あれ? 反応しないんだけど」
「こっちも無理」
「ということは……まさか」
いま消えたはずの魔力が再び蘇り、僕は背後を振り向いた。
「コッチダ。殺シテミロ」
そこには液状になった、キャプテン・ドラクートがいた。
たしかに倒したはずなのに復活している。
……一体どうなっているんだ。
僕も似たような魔物には過去に出会ったことがある。
それは核が複数あるスライムだったり、再生能力が高い魔獣だ。
ただ、命のストックや再生した様子がないのが気になる。
ボスの能力がわからない。
「え゛っ。まだ生きてるの!? 分身とか?」
「──まずい! 逃げるつもりです!」
液状化した身体で、再び瓦礫の下に逃げ込もうとする。
そうなったら、もう捕まえられない。
「かくれんぼならリリカの出番だよね。【千里眼】!」
スキルが発動され、銃口が瓦礫の一点を捉えた。
「おじさん丸見えだから。魔力貫通弾!」
「ヌグウウウウウウウウウウウウウウウ!?」
魔力の弾丸が正確にヒットし、液状化した肉体を四散させる。
バラバラになった部位に、核の魔力反応もない。
今度こそ倒したはずだ。
:やったか!?
:やったか!?
:やったか!?
:やったか!?
:お前らやめろ!
そう考える暇もなく、また同じ声が聞こえてきた。
「「「「「コッチダ。コッチダ」」」」」
「いまのもダメなわけ!? てゆーかどんだけいるのよ!?」
「「「「「殺シテミロ」」」」」
:増えたあああああああああああああああああ!?
:分身したぞ!?」
:いや何十体いるんだよ!?
:数多いって!
:コピぺみたいに増えるな!
飛行船のあちこちから、キャプテン・ドラクートが出現し、僕たちを挑発する。
魔力反応はすべて同じ。
くそ、どれが本物なんだ。
「これって本気でヤバい……?」
「詰んだかも」
「あきらめたら終わりです。【時の反逆者】!」
時間を止めて、魔力の大半を肉体強化に集中させる。
百体以上のキャプテン・ドラクート目掛けて、僕は跳躍した。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
高速で走りながら、すれ違い様に魔力剣を振るう。
一分が経過するギリギリのところで、すべてのキャプテン・ドラクートを切断した。
「「「「「ヌオオオオオオオオォ!!」」」」」
「はぁ……ハァハァハァ……」
:気づいたら全員倒してるーー!?
:すげえええ……天道お前マジか!
:※一分以内のできごとです
:すごいスピードだな、見てないけど
:でもすげー疲れてるぞ
:これ一分限界までスキル使ってるんじゃないの
:あんなに呼吸の荒い天道はじめて見た
「「「「「コッチダ。コッチダ」」」」」
「っ……これでもダメですか」
どれだけ倒しても、キャプテン・ドラクートは復活してくる。
魔力の強さなら飛行船中で一番下なのに、ダメージを受けている様子なんてまるでない。。
くっ……気を抜くと意識が飛びそうだ。
魔力を使いすぎて、頭も身体も鉛のように重い。
しっかりしろ。
いま僕は命を預かるリーダーなんだ。
「ま、まだまだです」
「もうフラフラじゃん! いっちーは休んでていいから! あとはリリカたちでやってみる」
「任せて」
リリカさんと倉石先輩が、キャプテン・ドラクートの群れに攻撃をしかける。
でも時間は残り五分もない。
このままだと僕たちは全滅だ。
考えろ。どんなダンジョンにも無敵のボスなんていない。
いま見えているのが分身なら、どこかに本体がいるはずだ
わざわざ姿を現してからゲームを宣言したのは、ユニークスキルの制約が厳しいからだ。
相手に見られたあとで逃げることが、【死爆遊戯】の条件のはず。
どこかに隠れたまま、時間までやり過ごせばいいなら、はじめからタイマーだけ出せばいい。
倒すまでは感じられず、倒した瞬間から復活する魔力反応。
魔力の隠蔽や操作に長けているならもしかして……。
「リリカさんと倉石先輩のリスナーさん! 二人に質問をしてください! 本人に関係する内容で!」
:天道どうした!?
:こんなときに質問タイム!?
:いまは雑談配信じゃないぞ!
:アカン……プレッシャーで壊れた……
:よくわからんけど、まかせろ!
:まあ、お前ほどの探索者が言うなら……
:しっかりしろー!
:鳩禁止とか言ってる場合じゃないしな
:三窓で質問してくる!
「いっちーどうしたの!?」
「天道くん?」
「コメントに答えてください! 大事なことなんです!」
「わかった! 『好きな動物は?』スコティッシュフォールド。『最近買ったもの』空気清浄器。『初配信のダンジョン』スライム草原のダンジョン」。これでいい!?」
リリカさんはすらすらと質問に答えている。
一方、倉石先輩は、
「きゅ、急になに? 『使ってる目覚まし時計のメーカー』『今月した土下座の回数』『自分のスキル名』……そ、それは……」
まったく質問に答えられていない。
つまり、彼女は偽物だ。
「あなたが本物のキャプテン・ドラクートですね」
「まっ、まって、いっちー! 私は本物! ウソじゃない!」
「倉石先輩は僕の名前を呼び捨てにします」
「──ッ!」
魔力剣を形成し、偽物を上段から一刀両断する。
倉石先輩だったものの身体がドロリと液状になり、その場で崩れ落ちた。
「ナ、ナゼ……ワカッタ?」
「分身の態度に余裕がありすぎました。命を賭けて僕たちを殺すつもりなのに、まったく緊張感がありません。だったら、もう見えているんじゃないかって」
「クッ……アト少シデ……任務ヲ……」
キャプテン・ドラクートは悔しそうな声をもらす。
爆破のカウントは、あと一分のところで止まっていた。
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