第21話 飛行船の魔物たち

「ハァ……ハァハァハァ……終わった……?」

「キツい……腕痛い……」

「これでラストだと思います」


 そう言って、僕はオートマトンの頭部に突き刺した魔力剣を引き抜いた。


 ガシャンと手足を投げ出し、最後の一体が足場に崩れ落ちる。


「全部で三千体くらいいましたね。ちょっと疲れました」


 :三人とも頑張った!

 :天道って一人で二千体は倒してたよな?

 :これでちょっと疲れた……?

 :スタミナお化け

 :どこにこの数収容してたんだよって感じだわ

 :ダンジョン協会から速報出たぞ、『鬼族拳闘のダンジョン』改め『鉄甲飛翔のダンジョン』だって

 :攻略中に名称変わるのって、はじめてでは

 :脅威度はA判定のままだけど、これ絶対Sよりだわ


「いっちー体力ヤバいね。全然汗かいてないじゃん」

「あちこち移動しなくても敵から来てくれるので。それに残りは先輩たちに任せてますから」


 実をいうと最後の五百体くらいは、時間停止で倒しているんだけどね。

 あと先輩たちの死角から、不意打ちを仕掛けたオートマトンも。


「魔石とかドロップアイテムすご! これ売ったらめっちゃ儲かりそう」

「もったいないですけど、今回は無理ですね」


 床や階段のあちこちに、アイテムが転がっている。

 リスナーもできるなら、いますぐここに来たいみたいだ。


「ん……んん?」

「倉石先輩、どうかしたんですか?

「天道、なにか音がする」


 倉石先輩が首を傾げながら言う。、

 耳を澄ますとたしかに、ギシギシと金属がきしむような異音が聞こえてくる。


 足元から振動が伝わってきた次の瞬間、飛行船内部にあるすべての足場が崩壊した。


 ガラガラガラ! ゴシャ、ガガガ! ガシャゴシャアアアアアアアア!


「はああああああああああああああああ!? ウソでしょ!?」

「ヤバ」

「魔力で身体を守ってください!」


 僕は落下しながら、二人に向かって叫ぶ。


 足場が崩れたことで、連鎖的に階段もバランスを失い、鉄の蜘蛛の巣が頭上からバラバラと降り注ぐ。


 時間停止はオートマトンとの戦いで使いすぎた。


 ここは自力で耐えてもらうしかない。


「ぐっ……ううううぅ……!」


 :やっべえええええええええええええええええ!?

 :崩壊してるーーーーーーっっ!?

 :なにこれトラップ!?

 :逃げ場がねーじゃねーか!

 :自動人形倒した途端にこれかよ!

 :ゲームならブチギレるやつ

 :魔力の防御で耐えられるのかこれ!?

 :天道の時間停止は?

 :たぶんどっかで使ってる

 :地味だけど場面がズレてるシーンが、何回かあった気がする


 下層にある機械の上に着地する──ガゴオオオオオン! ガンガンゴン! ゴガガガガガガガ! ドゴゴゴン! 


 魔力で全身をガードする僕の上に、鉄の階段が折り重なった。







「──っ……はあっ! ハァハァ……!」


 埋まっていた時間は一分ほどだろうか。


 僕はのしかかってくる鉄の階段を押しのけ、瓦礫の山に立ち上がった。


 足場のなくなった飛行船の内部は、ガランとして天井がよく見える。


 そうだ。

 リリカさんと倉石先輩を探さないと。


 そう思って二人の魔力探知をしていると、十数メートル先から声が聞こえてきた。


「ヤッッバ! マジで死ぬかと思ったんですけど!」

「走馬灯見えた」


 瓦礫を弾き飛ばして、二人が姿を現した。


「よかった。怪我はありませんか?」

「平気へいき。これでもA級探索者だし!」

「ちゃんとガートした」


 :はー、ヒヤヒヤしたわ!

 :みんな無事でよかった~~!

 :全員大きな怪我はなかったか

 :手汗でマウスがビショビショなんだけど!

 :このダンジョン初見殺し多すぎ!

 :怪我したらすぐポーションな

 :音すごすぎて鼓膜亡くなるかと思った


 埃とオイルで身体は汚れているけど、大きな怪我はなさそうだ。


 ほっと一息ついて、コメントを見ると『初見殺し』の文字が目に入った。


 たしかにこのダンジョンは、僕たちが予想しない攻撃を仕掛けてくる。


 探索者を殺すことに特化したタイプなら、休まず追撃してくるはずだ。


「【時の反逆者】。空気指定」

「いっちー、どうしたの?」

「動かないで。なにか来ます」


 周囲の空気を時間停止して見えない壁にする。

 そこに見えないなにかがぶつかって、ガギンッと金属音が鳴り響いた。


「……! シュー、フシュー!」

「えっ!? なんかいる!?」

「おそらく透明化の能力を持った魔物です。それに魔力の気配も消してますね」


 見えない魔物は壁に驚いたのか、僕たちの周りをぐるぐる回っているようだ。


 だれもいないはずの場所で、瓦礫が音を立てたり、埃が舞い上がっている。


 :今度は見えない敵かよ!

 :いま助かったばかりだぞ

 :ステルス能力持ちか

 :魔力反応を追えないのは厄介すぎる

 :天道どうするんだこれ


 たしかに透明な敵に効果的な戦い方を、僕はできるわけじゃない。


 でも、今日はコラボ配信だ。

 こっちにはリリカさんがいる。


「見えない相手、任せてもいいですか?」

「オッケー。リリカのスキルの出番ね」


 リリカさんの瞳の色が黒から青に変わり、眼球に魔法陣が浮かび上がった。


「わかっちゃった。そこと、そこでしょ!」

「シュッ!? シュウウウゥ!?」

「ギ、シュ……シュゥ!」


 ミミクリーバレルから発射された魔力弾が、見えない敵の頭部を正確に撃ち抜く。


 透明化が解除され現れたのは、マントで身体を覆い、マスクとかぎ爪を装備した猿の魔物だった。

 

「スキル【千里眼】。リリカに視えないものってないから」


【千里眼】は常人には見えないものを視るスキルだ。


 遠く離れた場所にいる人物、壁の向こう側にあるアイテム、透明能力を持つ魔物など、視ることに関して様々なサポートを受けられる。


 派手さはなくても、リリカさんの力は攻略にかかせない。


「リリカが指示するから二人ともやっちゃって。いっちーは頭上! トキっちは背後から来てるよ!」

「わかりました!」

「了解」

「「シュォ……オオオオオオオオッ!?」」


 :千里眼の出番だあああああああああああああああ!

 :しゃあああああああああ! 反撃開始だああああああああ!

 :リリカ最強! リリカ最強!

 :透明になれば勝てると思ったか?

 :カメレオンエイプの亜種、驚いててワロタ

 :全匹ボコボコにしたれ!


 僕の魔力剣と、倉石先輩の双雷刃が猿の魔物を切り裂く。


 透明化に魔力を使っているみたいで、タフネスはないようだ。

 どれも一撃で倒れていく。


「猿はトキっちので最後。いっちー、上からデカいのが来てる!」

「なら、こっちもデカいやつでいきます」


 魔力形成で身長の十倍以上ある、巨大なランスを生み出す。

 僕はそれを頭上に向け、全力で突き上げた。


「ギャガアアアアアアアアアアアアア! ガッ……アガガガガ!」

「ナイス! 尻尾まで貫通してるし!」


 透明化が解除され姿を見せたのは、機械を埋め込まれたカメレオンだった。


 小型のドラゴン並みのサイズで、マントを張り付けた皮膚は、様々な景色にいまも変色している。


 このカメレオンが猿たちのボスに違いない。


「ガ……ア゛ア゛、アアア……」

「倒しました。他に敵はいませんか?」

「うん、もういないかな。ていうか、いまのがボスじゃないわけ?」

「だといいんですけど。まだ船内から魔力の反応が消えていません」


 ダンジョンを支配しているボスを倒せば、転移クリスタルも使えると思うんだけど、まだ転移はできなかった。


「人間ドモ、意外ト、ヤルヨウダナ」

「「────ッッ!?」」


 飛行船の天井が開き、クレーンのウインチにつかまって、人影が下りてくる。


 瓦礫の上にダンッと仁王立ちするのは、海賊帽をかぶったオートマトンだった。





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