第20話 空を飛ぶダンジョン
「リリカたち、助かった……の?」
「だぶん、そう」
「みんな無事みたいですね」
:助かったああああああああああああああああ!
:生存うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
:天道、ナイスううううううううううううううううううううううううぅ!
:はー、マジで死んだかと思ったわ
:全員生き残ったの奇跡だろ
:リリカのリスナーだけどチャンネル登録するわ
:怜ちゃんを助けてくれてありがとう
:S級以外であんな大量の武器形成はじめて見た
配信ドローンのコメントを眺めていると、ようやく生き残った実感が湧いてきた。
はぁー、胃がキリキリする。
今回ばかりは本当に死ぬかと思ったよ。
「現状確認しよっか。まずここってなんだと思う?」
「空間を繋げる魔物の能力で、他のダンジョンに入ってしまったんでしょうか? だとしてもいきなり空中なんて、過去に例がなかったと思いますけど」
「ううん、ダンジョンは合ってる。オーガならここ」
倉石先輩が飛行船の壁を指さす。
鉄板を組み合わせた壁をよく見ると、オーガの顔が塗り固められていた。
ぞわっと、鳥肌が立つ感覚を覚える。
つまりこの飛行船は、魔物の肉体を変質させて素材にしているのだ。
「こっわ! これ事前情報で見たやつじゃん!」
「闘技場もありませんし、ダンジョンの中身を丸ごと作り変えたってことですか」
「そう思う。魔物と人間、どっちがやったかわからないけど」
:エグすぎ、声でたわ
:魔物を素材にする発想が怖い
:今日はホラー配信だった……?
:だれかがやったってことだよな
:こんなことできる魔物いるか?
:ダンジョンの環境イレギュラーとか、数えるくらいしか事例ない
:人間ならユニークスキルかS級アイテム使ってるな
:もろ天道たち狙ってたし、ダンジョン解放団体の仕業じゃねーの
:あいつらにそんな能力ないだろ
「謎はありますけど、この飛行船を攻略するしかないと思うんです」
「いっちー、ここがダンジョンってこと?」
「中に複数の魔力反応を感じます。ボスが転移を妨害しているなら、倒せば地上に戻れるかもしれません」
「同意。見た目は別物でも
飛行船を観察すると、長さは三百メートル以上、高さもビル五階分はありそうだった。
巨大な船体はすべて鋼鉄で構成されている。
この重量をガスやプロペラで支えられるとは思えないので、魔力で浮遊させているのかもしれない。
僕たちは中に入れそうなドアを発見し、その前に立った。
「入る前にもう一度確認します。僕が前衛、先輩たちが後衛でいいですか?」
「いいんじゃない? リリカ殴り合いとか無理だし」
「私も汗かくの苦手」
ここまではコラボ前に打ち合わせした通りだ。
「あと、チームのリーダーは僕でいいんですね? 序列だとA級のリリカさんになると思うんですが」
「……リリカそういうの苦手だから。いっちーはめっちゃ強いんでしょ? なら全部お任せでいいかなって」
リリカさんは眉をハの字にして、力なく笑う。
あれ?
前に見た配信だと、もっと積極的で周りを引っ張っていく人だったんだけどな。
地上にいる時よりも消極的な気がする。
僕を頼りにしてるだけなら、それでいいんだけど。
……少し気になるけど、いまはダンジョンに集中しよう。
「いまから船内の攻略を開始します。準備はいいですか?」
「オッケー」
「いつでも」
二人のOKサインを見て、僕はドア開け中に飛び込んだ。
「──! これが飛行船のダンジョン……!」
:すげええええええええええええええええええええ!
:うおっ、かなり広いな
:おおおおおおおおおおおお! スチームパンクの世界だ!
:蒸気だらけで熱そう
:これ全部階段!?
:機械系のダンジョンってめっちゃレアなやつ!
今立っている鋼板の足場から、上下左右斜めに階段が伸びて、次の足場に繋がっている。
まるで蜘蛛の巣のように、階段と足場が無数につなぎ合わさっていた。
船体の下層では蒸気が噴き出し、ゴウンゴウンと機械が音を立てている。
こういう施設って男のロマンだよね。
攻略中じゃなかったら、じっくり見学するのに。
「中を進んでみましょう」
僕たちは階段を歩いて、飛行船の中央部に向かっていく。
いまのところ大きな魔力反応はないみたいだ。
「リリカ、ボスの位置ってわかる?」
「ごめんむり。スキルにも反応ないし」
「タイプが
リリカさんのスキルは、隠れた相手を見つけるのが得意だ。
スキルが通じないなら、ダンジョン自体のギミックかもしれない。
そんなことを考えていると、壁面が左右に開き中から魔物が現れた。
「ギ……ガガ。侵入者……排除!」
「これってオートマトンってやつ? めっちゃいるじゃん!」
:自動人形でたああああああああああ!
:どんだけ出てくるんだよ!
:ぱっと見でも五百は超えてるぞ!
:機械でできたマネキン人形って感じだな
:ヌルヌル動くやん
:俺よりバランス感覚いいんだけど
階段のあちこちから、オートマトンが群れになって向かってくる。
二足歩行の動きは、機械とは思えないほど滑らかだ。
「「「「「人間……人間……」」」」」
「敵が来ます! かまえて!」
「「「「「ミナゴロシ……!」」」」」
オートマトンたちが、一斉に襲い掛かってくる。
僕は魔力剣を生み出し、それを迎え撃った。
剣と鋼鉄の腕がぶつかり、ガギンッと金属音が響く。
「ギギ……コロス……」
「頑丈な身体ですね。斬りますけど」
「ガ……ギガッ!?」
:一刀両断!
:ボディが鉄なら斬られないと思ったか?
:天道ならこれくらい余裕よ
:まずは一体だな!
:俺カウントするわ
剣に注ぐ魔力を増やし、切れ味と密度を上昇させる。
鋼鉄のボディでも、ドラゴンの鱗と比べれば豆腐と変わらない。
横一文字に胴を斬られたオートマトンは、半分になって船体の下層に落下していく。
「「「「「「危険度修正……徹底排除……!」」」」」
「どうぞ。全員でかかってきてください」
続けて百体以上のオートマトンが、一斉に飛びかかってくる。
僕は近くきた相手から順番に、魔力剣で斬り伏せていく。
強さはともかく数が多いけど、時間停止はまだ温存しておこう。
動かなくても敵から来てくれるから、ある意味楽だし。
「うわー、いっちーの剣術ヤバいね。知ってたけど」
「絶対A級超えてる」
「二人ともすみません。できれば……」
「離れてた方がいいって言うんでしょ? じゃ、そっちの敵は任せちゃおっかな。リリカは死なない程度にがんばるね」
僕から距離を取ると、リリカさんは腰のホルダーから拳銃を抜いた。
見た目はハンドガンだけど、あれはB級アイテムの『ミミクリーバレル』だ。
所有者の望む形に変化し、拳銃から対戦車ライフルまで、銃であればどんな種類にも対応できる。
そして、魔力を弾丸として撃ちだせる。
「いっくよー! 魔連弾!」
「「「「「ギギィッ! ギガガ……!」」」」」
:リリカの十八番きたああああああああああああああ!
:ホンモノの銃弾より威力あるやつ!
:高所取ればマジで最強!
:リロード不要なのがいい
:本人はゲーセンで練習したそうです
:さすがサンプロ一の銃使い!
:ミミクリーバレルって指から魔力放射するより、変換効率がいいんだよな
魔力の弾丸が下から昇ってくるオートマトンを、まとめて撃ち落とす。
サンプロ所属のA級でも、魔力放射が一番得意なリリカさんらしい戦い方だ。
「私のスキルここじゃ使えない。だからこれ」
倉石先輩は二振りのナイフを構えた。
あれはA級の武器アイテム、『双雷刃』だ。
魔力を雷に変換し、刃から放出することができる。
「相性良くて助かる」
「「「「「ガ、ババババババ!」」」」」
:よしっ、機械に電撃は効果抜群!
:おおおおおおおおお! 倉石接近戦もいけるじゃん!
:本人が戦うところ久しぶりに見たかも
:普段はスキルに任せてるからな
:そういえばなんでスキル使わないの?
:触れた物質に魔力を流す必要があるからだと思う
:あー、壁や床の素材が魔物だから、自分の魔力が弾かれるのか
:それかオートマトンをここで製造してて、ダンジョン自体の魔力濃度が高すぎるかだな
白刃と雷が閃き、オートマトンを感電させる。
関節から黒い煙を噴き出し、オートマトンは動かなくなった。
「二人とも流石です。僕も負けてられないですね」
船内からさらに千を超えるオートマトンが出現し、僕たち目掛けて走ってくる。
僕は呼吸を整え魔力剣を片手に、一番敵が密集している場所に飛び込んだ。
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