第18話 リリカ・バレットファイアー&倉石怜

 黄金迷宮の攻略が認められて、僕はD級からC級に昇格した。


デビュー配信から一か月で二階級上がるのは、ダンジョン協会設立からはじめてのことらしい。


チャンネル登録者も64万人から98万人になった。


100万人になるとギルドから、さらにサポートを受けられるそうなので、もうひと頑張りだ。


「そろそろ時間かな。早めに入っておこう」


腕時計を見てつぶやく。


今日はリリカ・バレットファイアー先輩、倉石怜くらいしとき先輩と、初コラボの打ち合わせだ。


二人ともはじめて話す相手だから緊張しています。


サンプロ本社の廊下を、会議室へ向かって歩く。


と、廊下の反対側から千景さんが歩いてきた。

服装はワンピースの私服だ。


いつ見てもモデルみたいなスタイルがカッコイイ。


「おはようございます!」

「一夜くん、おはよう」


千景さんとは食事に行った日から、よく電話で話している。


ダンジョンに対する恐怖も少しマシになったみたいで、いまはリハビリもかねて脅威度の低いところを中心に、採取系の攻略しているみたいだ。


サンプロや千景さんのリスナーが、路線変更を受け入れてくれてよかった。


「今日は屋内の仕事ですか?」

「ああ、これから雑誌の取材だ。君は?」

「バレットファイアー先輩、倉石先輩とコラボの打ち合わせです。そこの会議室で」

「バレット……リリカのことか」

「そうですけど、どうかしたんですか?」


バレットファイアー先輩の名前を聞くと、千景さんは顔を曇らせた。


二人の間になにかあるんだろうか?


「お節介かもしれないがよく聞いてくれ。リリカは異性との距離間が異常なほど近い。本人にその気はないらしいが、おかげで何度もトラブルになっている。サンプロにもガチ恋一歩手前の社員が複数いると噂だ。十分に気をつけてくれ」

「は、はい」


僕の肩をつかみ、早口で一気にまくし立てる。

表情の真剣さが魔物と戦う時みたいで、正直ちょっと怖いです。


「えー、なに? リリカの話してんの?」

「────ッ!」


配信で聞き覚えのある声に振り返ると、僕の後ろにバレットファイアー先輩が立っていた。


ピンク色の髪をツインテールにして、ゆったりしたスウェットを着崩している。


重量感のある胸は谷間が丸見えで、タプンッタプンッと弾んでいた。


ギャル系探索者を自称するだけあって、身につけているアクセサリーも派手なものばかりだ。


「チッ、タイミングが悪いな」

「舌打ちってひどくない? まだなにもしてないじゃん」

だろう。一夜くんは有望な探索者だ。彼を惑わせるようなことはするなよ」

「ふーん、一夜くんねえ」


バレットファイアー先輩はそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべて、


「惑わせるってこんな感じ?」

「せ、先輩!?」

「きっ、貴様あああああああああああああああああ! 言ったそばからなにをしている!」

「お互い命を預けあうんだから、信頼関係は大事でしょ。こうするとすぐ仲良くなれるんだよね~」


いきなり横からハグをされて、僕の顔は真っ赤なリンゴみたいになった。


だって先輩の胸が頬に当たっているからね!

距離が近いって初対面からフルスロットルってことなの!?


「あの……離してもらってもいいですか?」

「もしかして照れてる? カワイー!」

「一夜くんの言う通りだ! ベタベタするな!」


千景さんが力づくで、バレットファイアー先輩を引き離す。

それから僕の前に、ずいっと立ちはだかった。 


「なになに保護者ポジなの? それとも付き合ってるとか? うちのギルドって恋愛禁止じゃなかった~?」

「べ、別に付き合っているわけではない! 彼には何度も助けられているから、悪い虫がついてほしくないだけだ!」

「リリカ虫じゃないんだけど。でもド真面目なチカっちがそんな風に言うんだ。ふーん、なるほどねえ」

「チカっち言うな!」


二人の視線がぶつかって、バチバチと火花を散らす。


立場的にすごく気まずいんだけど、下手なことを言うと地雷を踏みそうだ。


こんなときリスナーがいたら、コメントでツッコんでくれるのに……!


僕がオロオロしていると、今度は前から歩いてきた女性が声をかけてきた。


「三人ともなにしてるの。小岩井さん、会議室で待ってるけど」


銀色の髪と人形のように整った顔。

身長は低めでブレザーの制服を着ている。


淡々とした口調で話すのは、倉石怜くらいしとき先輩だ。


落ち着いた雰囲気と声で、ASMRがリスナーに大人気だ。

そして、よく寝坊して遅刻するクセの強い先輩でもある。


「まともっぽいセリフだけど、トキっちもいま着いたでしょ」

「うん」

「相変わらずマイペースだよね」


バレットファイアー先輩に頭を撫でられる倉石先輩は、本物の人形みたいだった。


「いま修羅場?」

「違います。全然違います」

「へぇ。そう」


倉石先輩は無表情で、じーっと僕の顔を見つめてくる。


すごい。

何を考えているのかまったくわからない。


「て、てん……てんてん……」

「天道一夜です」

「天道一夜くん。困ったらいつでも頼って」

「倉石先輩に若干困ってます」


絶対名前忘れてたのに、そのドヤ顔はどこから来るんでしょうか。


「顔、可愛い」

「そ、そうですか?」

「ほっぺモチモチさせて」

「え? ひょっ、ひょっと!?」

「はー、落ち着く」


倉石先輩は僕のほっぺたを両手で揉んでくる。

この人一体なんなの!?


二人も『なんてうらやましい』とか『えー、気持ちよさそー』なんて言ってないで止めてください!


「も、もういいですか」

「うん」


満足したのか倉石先輩が手を離す。

いまの時間はなんだったんだろう。


というか、こんなことしてる場合じゃなかった。


「小岩井さんが待っていますし、もう行かないと。千景さんも取材頑張ってください」

「そ、そうだな。リリカもわたしの言ったことを忘れるなよ」

「わかってるって。じゃ、打ち合わせいってきまーす」

「千景先輩、ガンバ」


僕たち三人は千景さん別れて、会議室に向かう。


ダンジョンに潜る前からハラハラしてるんだけど、コラボは大丈夫なんだろうか……。












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