第15話 小鳥遊千景と休日(デート回)

「はぁー、疲れたー」


 僕は自分のベッドに身体を投げ出して、大きく息を吐いた。


 黄金迷宮のダンジョンについて記者会見を終わり、いま自宅に帰ってきたところだ。


 フラッシュを焚かれるなんてはじめて経験だし、記者の人たちにも攻略の方法やボスとの戦い方、会話のできた原因やS級アイテムの処遇とか、いろんなことを質問された。


 正直僕にはわからないことばかりなので、小岩井さんや千景さんが同席してくれて本当に助かった。


 配信でコメントは読むけど、大勢の前で直接訊かれるのは違った緊張感があると思います。


 珍しく頭をフル回転させたし、今日はもうシャワーを浴びて寝よう。


 そう思っていると、スマホから電話の着信音が鳴った。


「一夜くん、今日はお疲れ様」

「千景さん、お疲れ様です! 会見では色々助けてくれて、ありがとうございました」


 電話の相手は千景さんだった。

 一体なんの用だろう?


「君がよければ今週末、一緒に食事でもしないか?」

「えっ、一緒にですか!? 誘ってもらえるのはうれしいですけど、僕でいいんですか?」

「無論だ。むしろ君でなければダメだ」


 まさか先輩から食事のお誘いがあるなんて。

 探索者同士で気軽に交流できる、こういうところもギルドの良さだよね。


「行きます! ちょうど予定も空いてますし!」

「よかった。時間や場所は後日連絡する。一夜くんも行きたいところがあったら遠慮なく言ってくれ」

「わかりました。考えておきます」


 それから少し雑談をして、あっさり通話は終了した。


 もっと長く話したかったけど、記者会見の疲れを気にしてくれたのかもしれない。


「シャワー行こ」


 週末どこに行こうか考えながら、僕はベッドから起き上がった。







 そして当日の朝。


 僕はサンライト・プロダクションのある街から、八駅ほど離れた街にいた。


 ここはオフィス街と違って、食事やショッピングのできる店が多い。


 映画館や水族館、博物館も近くにあるので、デートにもよく使われるそうだ。


 ギルドの方針で恋愛禁止だから、千景さんはデートじゃなくて、純粋に僕と遊びたいんだと思う。


 わかってはいても、ちょっと期待しちゃうけどね。


「早く着きすぎたかな」


 駅前にある時計塔が待ち合わせの場所だ。

 ただ、さっきからすれ違う人にチラチラ見られてる気がする。


 これってまさか……僕の服がとんでもなくダサいとか!?


 普通のTシャツとジーンズで来たつもりだけど、どこか変なのかもしれない。


 ダンジョンで修行ばかりしてたから、遊ぶ服とかよくわからないんだよね。


 これはやっちゃったかな。


 不安になりながら待っていると、千景さんの姿が見えた。


 今日も美しい黒髪ロングで、ブラウス着てボリュームスカートを履いている。


 でも、なんで似合わないサングラスなんてかけているんだろう?


「千景さん! こっちですよ!」

「い、一夜くん……その格好は……」

「この格好ってマズかったですか?」

「たしかにマズいな。こっちに来てくれ」


 僕は千景さんに引っ張られて、路地裏に連れ込まれた。


「一体どうしたんですか?」

「黄金迷宮の件で、君とわたしの顔はニュースでも取り上げられている。そんな時に街を出歩いていたらどうなる?」

「あっ」

「これはギルドで貸し出されている顔認識阻害のサングラスだ。かけると所属メンバー以外には別人の顔に見える。念のためにもう一つもってきてよかった」


 サングラスを受け取って、そのまま顔にかける。


 たしかに素顔のまま歩いていたら、色んな人に声をかけられるし、トラブルにも巻き込まれるかもしれない。


 有名になるとこういう問題もあるのか。

 全然考えていなかった。


「これで大丈夫だな。さあ、気を取り直して楽しもう!」

「はい!」


 ご飯を食べるお昼まで時間あるので、ダンジョン博物館に向かうことにする。


 ここは僕が前から行きたかった場所だ。


「日本ダンジョンの歴史をまとめている博物館か。わたしもはじめてくるな」

「僕もです。珍しい魔物のはく製や、環境について解説もあるみたいですよ」


 複数のブロックを組み合わせたような、ダンジョン博物館の自動ドアをくぐる。


 受付でチケットを購入して館内を進むと、ワイバーンの骨格標本が出迎えてくれた。


 鋭い牙の並んだ顎や、爪のある両翼がカッコイイ!


「すごいな。ここまで綺麗に骨格が残っているのか」

「魔物標本専門のギルドと提携しているそうです。地上に搬入、処理をするルートを確立してるって、パンフレットに書いてありました」


 ダンジョンが消滅すると、中にいる魔物は素材やドロップアイテムも含めて消えてしまう。


 だから必要なものは、その前に地上へ運び出さないといけない。


 ただ魔物は未知のウイルスや、呪いを運ぶこともあるから、持ち出すには専門のギルドが協力が必要なのだ。


「こっちから順番に見られるみたいですよ。うわー! スライムを形が保ったまま標本にしてありますよ! 蒸発していません!」 

「こんなに楽しそうな君ははじめて見る。そんなに魔物が好きだったんだな」

「はい! 動かないとじっくり倒し方を考えられますから!」

「そ、そうか」


 ダンジョン内ではのんびり魔物を観察できないし、時間停止は一分だけだから、こうやって細部を見られるのは貴重だ。


 エルドラスライムには核の位置で苦戦したし、どんな脅威度の魔物でも即座に弱点を見抜けるようになりたい。


「スケルトンは標本にしやすそうですね。あっ、ホーンラビットのはく製もありますよ!」

「こうして見ると可愛い顔をしているな。気づかなかった」

「頸動脈を狙われると可愛くないですからね。千景さんは魔物のことどう思ってるんですか?」

「まあ……普通だな。昔は苦手だったが、いまはだいぶ慣れた」


 そう言った千景さんの表情は、どこか寂しそうだった。


「一夜くんはダンジョン攻略が趣味だったな。どんなことを考えているのか教えてくれないか?」

「えーと、効率のいい魔物倒し方とか、トラップの上手い見分け方でしょうか。できるだけ早くボスを倒したいと思っています。たくさんダンジョンを攻略して、一つでも多くのドロップアイテムを発見したいんですよ」

「なるほどな。勉強になる」


 家族が呪いにかかってから、ここ数年は寝ても覚めてもダンジョンのことしか考えていない。


 魔物博物館に来たのも、勉強になると思ったからだ。


 世界のあらゆる呪いに解呪手段が見つかったら、すべてのダンジョンを消滅させるのが僕の夢だ。


「ここからは竜種のコーナーらしいですよ!」

「おおっ、またカラフルな場所だな」


 こうして僕と千景さんは魔物博物館を見て回った。





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