第14話 地上へ帰還
僕がエルドラスライムに使ったのは、体内の魔力を撃ちだす『放射』だ。
『強化』『形成』と比べると苦手で、魔力も激しく消耗してしまう。
おまけに狙った的へ全然当てられないんだけど、今回は至近距だったから大丈夫だ。
エルドラスライムの核がどこにあっても、まとめて塵にしてしまえば関係ない。
「ボス撃破ですね」
:勝ったああああああああああああああああああああ!
:ボス撃破キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
:エルドラスライムざまああああああああああああ!
:黄金迷宮のダンジョン、攻略完了!
:破界現象煽ってたマスコミ見てるー?
:Σ天道くん、千景さん、おめでとう!
:二人ともマジですごいわ
:ちょっと鳥肌立ってる
:同接300万人キタアアアアアアアアアアアアアア!
:いまさらだけど脅威度判定Sに修正されたな
:このコラボ決めた担当者神だわ
配信を始めてから、一番コメントが盛り上がってる。
ユニークスキル持ちの強敵だったけど、がんばってよかった。
「一夜くん、攻略おめでとう。今回も君に助けられてしまったな」
「ボスに勝てたのは千景さんのおかげです。コラボしてなかったら、黄金迷宮は攻略できませんでした」
僕が拳を突き出すと、千景さんもそこにコツンッと拳を当てた。
こんなに満足そうな笑顔は、配信でも見たことがなかったと思う。
クールな顔も綺麗だけど、喜んでいる姿も可愛い。
「む、ドロップアイテムが出現したようだな」
「やっぱり『黄金王の杖』でしたか。予想通りですね」
「天道くん、知っているのか?」
「エルドラスライムはごく稀にしか出現しない代わりに、ドロップアイテムが一種類しかないんです。これで黄金化した探索者たちも助けられるはずです」
:? どういうこと?
:たしかにボス倒をしていいの? とは思ったけど
:いま出た金ピカの杖ってメッチャ重要な感じか
:全部じゃないにしてもエルドラスライムの情報を知ってたわけね
:珍しい魔物みたいだけど一種類っ断言できるのか?
:そこはアイテムから魔物の情報を調べるスキルがあるから
疑問に思うリスナーに僕は説明する。
『黄金王の杖』は王冠が先端にあるS級アイテムで、二つの効果をもっている。
一つ目は、対象にしたものをなんでも黄金にできる効果。
この杖があれば、大富豪になることだって夢じゃない。
僕も図鑑でしか見たことがないし、過去に発見された一本は、海外のダンジョン協会で厳重に保管されているそうだ。
そして二つ目は、黄金にされた物体を元に戻す効果だ。
:あー、だから命乞いをスルーしたわけね
:ドロップアイテムで治せるってわかってたのか
:こんなレアアイテムの情報よく覚えてたな
:さすが趣味をダンジョンと言い切るだけのことはある
:これサンプロが激ヤバアイテムを管理することにならない?
:天道の家に置いとくわけにもいかないしな
:その辺はダンジョン協会と相談でしょ
:配信見たお偉いさんが泡吹いてそう
「では、皆さんを元に戻したいと思います」
僕は杖を手に取ると、元の姿に戻ることを念じて、黄金像にされてしまった探索者たちに向けた。
キラキラと光の粒子が舞って、彼らを包み込んでいく。
「お、俺の身体が……元に……」
「手が足が……動く」
「本当に戻ったんだ……!」
「やった……やったあああああああああ!」
黄金像から解放された探索者たちから、割れるような歓声が上がった。
みんな手を取り合って、涙を流して喜んでいる。
:よかったなぁ
:感動的な光景だ
:普通なら一生あの姿だったからな
:泣きすぎて音割れしてる
:もう無茶するなよ
いままでよく恐怖に耐えてきたと思う。
配信中だから我慢するけど、僕までもらい泣きしそうだ。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
「お二人は命の恩人です! お名前を教えていただけませんか?」
「僕はサンライト・プロダクション所属の探索者、天道一夜といいます」
「わたしは小鳥遊千景だ」
「天道さん、小鳥遊さん、このご恩は一生忘れません!」
元に戻った人たちは、僕らの手を取って感謝をしてくれた。
「消息不明になった探索者は七十九人と聞いている。ここに全員いるのか?」
「いえ、俺の仲間は魔物にやられました……」
「トラップにかかった人もいます」
「そうか。では残念だがいまいるメンバーで一度地上に戻ろう。ダンジョンの消滅はもう始まっている」
たしかにボスを倒した今、いつまでもここにはいられない。
消滅が近くなれば魔物も暴れ出すしね。
僕たちはこの場にいる探索者六十二人と、帰還することにした。
「転移クリスタルを配ります。全員分はないので、なるべく近くの人にくっついてください」
「一夜くんもわたしにくっついていいんだぞ」
「は、はい」
:チカ姉さりげなく天道に密着してない?
:非常事態だからしゃーない
:こんなに生きてると思わなかったから
:なに赤くなってんだ天道ォ!
:当ててんのよ
コメント、僕もわかってるから言わないで!
背中にやわらかいのが当たってるんだから!
「帰還するので配信はここで終わりにします。リスナーのみんなも応援ありがとう! 長時間のご視聴感謝します!」
「初コラボだったがとても楽しく、息のあった攻略ができたと思う。わたしたち二人のチャンネル登録、高評価をよろしく頼む!」
:おつー!
:お疲れ様ー
:ゆっくり休んで!
:乙←これは乙じゃなくてポニーテールなんだからね!
:神回だった!
リスナーに手を振って、配信ドローンのカメラを切る。
転移クリスタルを発動すると、僕たちは一瞬でダンジョンの入口にワープした。
外の光が見える方向に進んでいくと、すぐに地上に戻ることができた。
「一週間ぶりに地上へ出た気分だな」
「もう夜になってたんですね」
光の正体は大穴に向けられた照明だった。
僕たちの帰還がわかると、あちこちから記者や関係者が集まってきて、ワッと人だかりができる。
どんどん人だかりができる。
山のように人だかりができる……。
いや、ちょっと多くない!?
「攻略達成おめでとうございます! 質問よろしですか!?」
「ボスが会話できる理由に心当たりは!?」
「息子を救出していただいて、感謝してもしきれません!」
「黄金王の杖はギルドと協会、どちらで保管する予定なのでしょうか!?」
「ありがとうございます。あなたたちは家族の神様です」
「ダンジョンを穢す不埒者め! お前たちのやったことは……お、おいやめろ! 警官どもめなにをする!」
いっせいに言葉を浴びせられても、答えられなくて困るんだけども。
千景さんも困惑しているし、探索者の人たちは家族と抱き合って、現場はカオス状態だ。
「後日記者会見を行うので、質問はその時にお願いします! お二人はこれから病院に向かい検査を受けます! 皆さん、道を開けてください!」
小岩井さんが人混みをどかしてくれて、僕と千景さんはなんとかこの場から退散することができた。
こうして初コラボ、黄金迷宮ダンジョンの攻略は終了した。
◇ ◇ ◇ ◇
大穴から立ち去る天道たちを、工事車両の上から見つめる人影があった。
黒いコートを着込んだ長身の男で、中折れ帽を目深にかぶっている。
腰には西洋剣を納めた鞘が吊るされていた。
「ハァー、つまんねえええええええええ! せっかく人間の知識を与えてやったのに、この程度かよ!」
「脅威度Sでは、はじめての成功例だった。残念だ」
「ったくよォ! とんだ期待はずれだぜ!」
人影は一つだが、二つの声が言葉をかわす。
落ち着いた口調は黒コートの男。
チンピラのような悪態をつくのは、鞘に納められた西洋剣だ。
「次はどのダンジョン狙いでいく? 今度こそ破界現象を起こさねーとな」
「いくつか候補はある。それが失敗すれば人間どもを使うしかない」
「馬鹿のこと人間っていうのやめろよな。まっ、協力はしてやるけどよ。ダルいことばっかしてっと、オレは暴れるぜ」
「理解している」
会話が終わったのか、人影は夜の闇に溶けていく。
その瞳は獲物を狙う猛禽類のように、天道と千景の姿を見つめていた。
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