第12話 黄金迷宮の支配者

「ふぅ、頑丈なやつらだったな」

「これで全部みたいですね」


 :お疲れ様ー

 :攻撃は普通だけど、どいつも硬すぎ

 :特に亀の黄金像が時間かかったな

 :スタミナ削り専門って感じのやつら

 :俺だったらダルくなって引き返してる

 :斬撃は通じないけど、風切丸で足を浮かすのはよかった


 僕たちは黄金像の魔物をすべて倒し終わった。


 剣が効かないのは面倒だけど、そういう相手は拳で殴ればいい。

 床には砕けた黄金がいくつも転がっている。


「かなり魔力を消耗したな。一度休憩して回復と食事にしようか」

「そうですね。お腹も空いてきましたし」


 魔力回復ポーションを取り出して、紫色の液体をゴクゴクのどに流し込む。


 うーん、マズい! 二杯目はいらない!

 まるで腐った果物みたいな味だ!


 ダンジョンで回収したアイテムって便利だけど、人間の味覚には配慮してくれないんだよね。


 隣を見ると、千景さんも渋柿を食べたような顔をしていた。


「携帯食料、いただきます」

「いただきます。ところで一夜くん、食レポに興味はあるかな?」

「案件のやつですか? ちょっとあります」

「いい機会だしやってみないか? 無理にとは言わないが」  

「いいですよ。望むところです」


 サンプロの探索者は企業から、案件の仕事を受けることもある。


 よくあるのは、ダンジョン用の携帯食料や新型ドローンの宣伝だ。

 先輩に見てもらえることなんて中々ないし、チャレンジしてみよう。


「えーと、色は茶色ですね。食感は……なんかパサパサしてます。口中の水分が全部持っていかれますね。味は塩気の強いクッキーを想像してください」

「素直な感想だな。ちなみに携帯食料の販売会社は、一応うちのスポンサーなんだ」

「も、もちろんいい意味ですよ! いい意味のパサパサです!」


 :天道正直すぎてワロタ

 :いきなり慌てて草ぁ!

 :いい意味ならセーフだな!

 :いい意味のパサパサってなんだよ

 :ここはあとで編集だな!

 :携帯食料は美味しいと食べすぎるから


 千景さんのおかげでコメントが盛り上がってる。


 今回は注目度の高い攻略だから、ピリピリした内容も多いんだけど、冗談で和ませるなんてさすがだ。


 それから雑談をしながら、携帯食料を食べ終えた。

 休憩時間は十五分くらいだけど、体力はだいぶ回復してきたな。


「では攻略を続けようか」

「行きましょう」


 休憩を終えて、僕たちは黄金迷宮の攻略を再開した。






 それから五時間後。


「この部屋で最後みたいですね。ピラミッドに入ってから、一番強い魔力の気配を感じます」

「ハァハァ……ようやくだな」


 魔物や罠を切り抜けた僕たちは、ついに最後と思われる部屋の前に到着した。

 黄金の扉を開いて、中のボスを倒せばダンジョン攻略成功。


 破界現象を食い止められる。


「ボス戦の前に前衛と後衛を決めておこう。わたしは前衛を担当するつもりでいる」

「いいんですか? 前衛の方がリスクが高いですけど」

「敵の能力がわからない以上、初見殺しで君を失いたくない。ボスを脅威度Sと仮定するなら【時の反逆者】は絶対に必要だ」


 たしかに千景さんの言うことは一理ある。

 でも、僕はそれよりも彼女の様子が気になった。


 過去の配信と比べて、明らかに汗の量が多い。

 水を飲む頻度だって攻略前半よりも、明らかに増えている。


 体調が万全じゃないけど、僕を死なせないために無理をしているんだ。


「いえ、前衛は僕がやります」

「なっ、なぜだ!? わたしの話を聞いていなかったのか?」

「だってその方が目立つじゃないですか。近接戦闘の方が取れ高もあると思うんですよね」


 :取れ高で前衛選ぶの!?

 :天道ってやっぱヤベーわ

 :自分の実力に自信があるのはわかるけどさあ……

 :大丈夫? チカ姉怒ってない?


「ここは期待の超大型新人に任せてください。僕強いですから」

「……わかった。そこまで言うなら君に任せよう」


 千景さんは俯きがちにそう言った。

 コメントはビッグマウスとかで荒れてるけど、そんなことはどうでもいい。


 一度助けた先輩を死なせてたまるもんか。


 入る前に装備を再確認し、僕は扉に手をかけた。


「開けますね」


 ゴゴゴゴと、分厚い両開きの扉を押し開けると、円形の部屋の中央に、宝石で飾られた玉座があった。


「あれって……まさか!」

「──ッ!」


 玉座に置かれている球体みたいな魔物がボスなんだろうけど、僕たちの視線はその後ろに並んだ、黄金の像から離せない。


 人の形をした像、その顔は消息不明になった探索者にそっくりだったからだ。


「千景さん、あの像は」

「落ち着け一夜くん。ボスを倒してからだ」


 見た目は黄金になっているけど、まだ生きているかもしれない。

 探索者の生死は自己責任だけど、助けられる命があるなら助けたい。


 緊張の糸がピンッと張り詰めていくのがわかる。


「ほう、ここに到達する人間がいるのか。驚いた」

「馬鹿な……魔物が言葉を話すだと!?」


 :シャベッタアアアアアアアアアアアアアアア!

 :あの球体しゃべれるの!?

 :しかも日本語だぞ!

 :いままで会話できるボスっていたか?

 :いない、魔物との会話自体テイムアイテムがないと無理

 :テイムは命令してるだけだろ

 :魔物同士では会話してるらしいけど、人間には解読不能

 :鳴き声を解析しても、意味のある文章にならないんだよな

 :これ教科書に乗るぞ


「あなたは、人間の言葉がわかるのか」

「愚問だな。見ればわかるだろう。少し前に教わったのだよ」

「教わった? 魔物に知識を与える存在がいるのか?」

「ここにふらっと入ってきて、アイテムでなにやらしていたぞ。我輩には黒いコートの人型に見えたがな」


 玉座に乗っている黄金の球体は、流暢な日本語で話す。


 コメントは大混乱だけど、会話が可能な魔物なんて僕も初めてだ。

 このダンジョンは、思っていたより重大な場所みたいだ。


「うしろの人たちはまだ生きているんですか?」

「生きているし意識もある。材質は金だがな」

「その人たちを返してくれませんか? 勝手に黄金を持ち出したことは僕が謝ります」

「ダンジョンの支配者なら魔物の発生を抑制してもらえないだろうか。抑制と探索者を返してもらえるなら、わたしたちはこのまま帰還する。あなたと戦うつもりはない」


 そうだ。会話ができるなら話し合いで解決できる。

 もう無理に戦わなくてもいい。


 これは本当にすごい発見だ。

 上手くいけば、呪いを解く方法だって教えてもらえるかもしれない。


「貴様らは話し合いを望むのか?」

「ああ、そうしてくれるとありがたい」

「僕もそうです」

「ふっ、フフフ! フハハハハハハハハハハハハハッッ!」


 黄金の球体に口が浮かび上がると、大声で笑いだした。

 心の底から可笑しいという哄笑が、ボス部屋に響きわたる。


「ハハハハ! なんというおめでたい頭だ! 藁でも詰まっているのか!? 我ら魔物の存在理由は人類を滅ぼすことのみ! うしろの馬鹿どもも、貴様らも生きて帰すものか!」

「なんだと……!」

「──ッ! 千景さん、危ない!」


 千景さんの身体目掛けて、黄金の球体からいくつも杭が発射される。

 僕はそれをすべて魔力剣で弾いた。


 :やべえええええええええええええええええ!?

 :このボス会話中に攻撃してきたぞ!?

 :マナーはどうなってんだマナーは!

 :つーか魔物ってやっぱ人類敵視してんのか

 :会話ができてもそこは他の魔物と変わらないな

 :こいつが破界現象近いダンジョンのボスってヤバいだろ

 :絶対地上に出せねえわ


 いま話に意識が向いているところを狙ってきた。

 完全に殺すつもりだ。


 残念だけど話し合いは無理みたいだ


「さあ殺し合おうか人間ども。我輩はエルドラスライム。黄金迷宮の支配者だ!」


 エルドラスライムと名乗ったボスは、人型の上半身を出現させ、球体部分を下半身にした。


 このダンジョンで最も光り輝く黄金でできたボディ。

 頭には宝石を散りばめた王冠が乗っている。


 感じる魔力の量は、いまの段階で炎皇竜を上回ってる。

 

 現代までに攻略情報が一~二体しかない超レアな魔物で、僕も昔図鑑で見たことしかない。

 

 これは強敵かもだ。


「やるしかないようだな」

「そうですね。ボス攻略開始です」


 :ボス戦だあああああああああああああああああ!

 :やっちまえええええええええええええええええええええ!

 :Σ二人ともがんばって!」

 :天道、ぶちかませ!

 :あんなやつぶっ飛ばしてやれ!

 :私の息子を取り戻して!

 :ヤベえ、緊張してきた

 :破界現象を止めるラストチャンスだぞ!


 コメントが背中を押してくれる。

 僕は魔力剣を、千景さんは日本刀、風切丸を構えた。

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