第11話 ミイラ男と即死トラップ

「いまのところ異常はないな」


 :チカ姉の日本刀、前回と変わってないか?

 :新しい武器アイテムだな

 :有識者、解説頼む

 :大と小、二振りの刀はB級アイテム『風切丸』ですね。魔力を風に変換して刀身から射出できます。購入する場合は九百万円からなります。

 :たっっっっか! 

 :武器アイテムはB級でも高価よ

 :サンキュー、有識者


 千景さんは刀を構えながら、黄金の床を進んでいく。


 僕も魔力の気配は感じないけど、よく見れば床や壁に血痕がべったりと残っている。


 油断するのは危険だ。


「通っても問題はなさそうだな。──いや、待ってくれ」

「千景さん?」


 千景さんが手で制止を呼びかけた瞬間、床に穴が開き、複数の棺がせり上がってきた。


「「「「オ゛オ゛オ゛オオオオオ!」」」」


 ギイイィと、棺が音を立てて開く。

 中から現れたのは全身に包帯を巻いた魔物、ミイラ男だ。


 数は三十体近くいる。


「魔物……! 僕も戦います!」

「いや、君は見にまわってくれ。こいつらはわたしが相手をする」


 :魔物だあああああああああああああああ!

 :いきなり出てきた!?

 :ピラミッドらしい魔物だな

 :二人が気づかなかったってことは、なにかある?

 :たぶんあの棺が魔力遮断のアイテムだと思う


 千景さんは全身に魔力をまとい、その流れで刀も強化する。

 そして、先頭のミイラ男に斬りかかった。


「はああああああぁっっ!」

「オ゛オ゛ッ……!」


 袈裟斬りでミイラ男が斜めに分断され、床に崩れ落ちた。


 続けて後続の敵に斬りかかる。


「ふんっ! はああああああぁっ!」

「ア、ア゛ア゛……」

「「「「ゴオ゛、オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!」」」」


 一体撃破する間に、複数のミイラ男が包帯を伸ばして攻撃してきた。


 先端は槍のように尖り、当たった床には穴が開いている。


「槍と鞭を足したような攻撃だな。だがわたしには効かん。【氷姫雪影】! 凍結爆!」


 刀身から魔力が放出され、触れた包帯はカチコチに凍って砕けた。


 スキルの発動が早いし、攻撃に無駄がない。

 さすが先輩だ。


「防御力は大したことないようだな。このまま全員討伐する」

「「「「ア゛、オ゛オ゛オオオオォッッ!」」」」


 :つええええええええええええええええ!

 :ミイラ男は動きが見えてないぞ!

 :すげー太刀筋、舞みたいだ

 :チカ姉最強! チカ姉最強!

 :A級探索者なめんなって話

 :こりゃ天道の出番はないな


 刀の斬撃と、スキルの凍結がミイラ男たちを蹴散らしていく。


 その動きは氷の姫にふさわしい優雅さだ。


 僕が力を貸すまでもなく、三分もかからず戦いは決着した。


「もういいぞ。こっちに来てくれ」

「千景さん、すごいです。あの数を相手に無傷なんて!」

「君ほどではないがな。先を急ごうか」


 床のタイルにそって進んでいくと、照明の消えた暗い部屋に到着した。

 僕たちが中に入ると、松明が燃え上がっていきなり明るくなる。


「これは……!」

「宝石の山か。すごいな」


 :すげー! 取り放題じゃん!

 :ポケットに入れとこう

 :いまだけ資源採取配信にしない?

 :これは惑わされますわ


 部屋の中にはダイヤモンド、ルビー、エメラルドなど、莫大な数の宝石が無造作に積み上がっていた。


 売ればどのくらいの値段になるのか、想像もつかない。


 でも、こういう部屋には必ず罠がある。

 ダンジョンは侵入者を狩るための場所だから。


「「「「「「ア゛ア゛、オオオオ!」」」」」」

「やっぱり出てきましたね」

「またミイラ男か」


 棺が床から現れ、再びミイラ男が出てくる。

 数はさっきの倍以上で、六十体はいそうだ。


「今度は僕も戦います」

「ああ、頼む」


 僕が魔力の剣を出そうとした直後、ガチンッ、と金属の歯車が動くような音がした。


 修行での経験が告げている。

 これはヤバいやつだ。


「氷の柱を上に! たくさんお願いします!」

「──わかった!」


 千景さんがスキルを発動し、無数の氷柱が床から出現する。

 同時に、トゲだらけのつり天井が上から落ちてきた。


 ガガガガガガガガ! ガゴゴゴゴゴゴゴゴゴオ! 


 金属のトゲに氷が削られる音が、頭上五メートルから聞こえてくる。


「ミイラ男は無視して次の部屋へ!」

「了解! 急いだほうが良さそうだな!」


 :あぶねええええええええええええええ!

 :いまの死ぬとこだったぞ!

 :天道ナイス判断!

 :初見殺しにもほどがある

 :宝石とミイラ男は囮か


 串刺しになる前に、進行方向にいるミイラ男だけ倒して、次の部屋に飛び込む。

 この部屋にはヘビやサソリの形をしてた、黄金の像が一列に並んでいた。


「ハァハァ……危ないところだったな」

「油断は禁物です。こんどは像が襲い掛かってくるかも」

「そうだな。気を抜かないで──」


 千景さんが僕よりほんの数歩だけ、前を歩く。

 足音に合わせて再びガチンッと音が響き、今度は床が割れ大穴が開いた。


「────ッ! しまった!」

「千景さん!」


 黒髪ロングをなびかせて、身体が下に落ちていく。


 深い穴の中で蠢いているのは、おびただしい数の食人スカラベだ。


 動物の血肉に反応して、骨だけにする凶悪な魔物。

 氷のスキルでもすべては凍らせられない。


「いま助けます! 【時の反逆者】!」


 僕は時間を停止して、千景さんを空中でキャッチしたまま、食人スカラベの上に着地する。


「ううう……ブチブチいってる……」


 足の裏から気持ち悪い感触が伝わってくるけど我慢我慢!


 それから全力で両足を強化して、ロケット並みの勢いで大きくジャンプ。

 左右の壁を蹴って、なんとか大穴の外へ脱出することに成功した。


 ここまでで、四十五秒経過。

 けっこうギリギリだった。


「千景さん、大丈夫ですか?」

「一夜くん……そうか、時間を止めたんだな」

「はい。この部屋は床に注意ですね」


 :場面が変わってるー!?

 :なんかわからんけどセーフ!

 :うおおおおおおおお! 時間停止キター!

 :すごいピンチだったみたいだな

 :うわっ、穴にいるの食人スカラベじゃん!

 :即死トラップの連続怖すぎ

 :今回の動画行きはここだな


「君にまた助けられてしまったみたいだな。ありがとう」

「気にしないでください。ところで、千景さん身体は大丈夫ですか?」

「あ、ああ。問題ない」


 千景さんはぎこちなく笑顔でうなずく。

 やっぱり今日は調子が悪いのかも。


 さっきのトラップも、いつもなら落ちる前に回避していたはずだ。


 よく考えればミイラ男との戦闘も少し固さがあったし、無理矢理身体を動かしているみたいだ。


「もう大丈夫だ。足は引っ張らない」

「……わかりました。次の敵もお願いします」


 迷っている暇もなく、黄金の像が動き出し、ギラギラと輝くヘビやサソリが襲い掛かってきた。


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