第10話 天道と小鳥遊のコラボ配信

【緊急コラボ配信】黄金迷宮のダンジョンに小鳥遊千景先輩と挑む!


「こんにちは。時間停止の天道一夜です」

「死亡フラグは凍結粉砕。小鳥遊千景だ。本日もよろしく頼む」


 :コラボの時間だああああああああああああああああ!

 :天道くん、大変だと思うけどがんばって!

 :プレッシャーすごいだろうけど、楽しんでいけ

 :他ギルドのリスナーも来てるから、コメントやばそう

 :俺らはいつも通りにやるだけよ

 :Σがんばります

 :モデレーターさんキタ!

 :もう同接50万人超えてるよ!


 配信を開始した瞬間から、コメントが爆速で流れていく。


 破界現象のことはネットでも話題になり出しているので、様々な立場から意見が飛んでくる。


 今日は攻略に集中するつもりだから、どのみち読んでる余裕はないけど。


「緊急事態ということで、急遽コラボ配信になりました。コメントは読めないかもですけど、よろしくお願いします」

「みんなも知っての通り、天道くんには命を助けられた。今回の探索では先輩として、彼をリードしたいと思う」

「それでは、さっそく攻略に行ってみましょう」


 僕たちは黄金ピラミッドのぽっかり空いた、正面入口をくぐった。

 中は広くて、金の柱と床が輝く宮殿のようだ。


 あちこちに松明があって、中の様子はよく見える。


 迷宮型ラビリンスのダンジョンだから当たり前なんだけど、エジプトにあるピラミッドとは別物みたいだ。


「魔物の気配はないな」

「階段から下に降りていく感じなので、浅い階は攻略されてそうですね」

「どんどん進んでいこうか」


 :すげー、どこも金ピカだ

 :目がチカチカしてくるな

 :あちこちに剥がされた跡があるぞ

 :そりゃ攻略も進みませんわ


 僕たちは足に魔力を集中させ、攻略が終わっていない階まで一気に走る。


 小鳥遊先輩の歩行術はかなりの腕前だ。

 手の震えもないし、緊張がほぐれたみたいだ。


「天道くん、わたしの速度についてこられるんだな。無理ならペースを落とそうと思ったのだが、必要なさそうだ」

「あ、はい。これくらいなら一日中でもいけます」

「フッ、さすがは期待の超大型新人だな」

「ちょっと、それやめてくださいよ先輩! 誇大広告すぎて恥ずかしいんですから!」


 :二人ともはっや!

 :景色がビュンビュン流れていって笑う

 :倍速視聴してるみたいで草

 :金の階段とか像の置かれた部屋とか、全部スキップです

 :チカ姉の身体強化って、サンプロでもトップクラスだよな?

 :天道は化け物だから


「その先輩というのは他人行儀じゃないか? 気軽に呼び捨ててくれてかまわないのだが」

「炎上させようとしてます? 大先輩にそんなことできないですよ」

「なら千景ではどうだ? チカ姉やチカちゃんでもいいぞ。ちーたんというのもアリだな」

「…………千景さんでお願いします」

「いまはそれでよしとしよう。わたしも君のことは、これから一夜くんと呼ぶことにするよ」


 :名前呼び、イイネ!

 :この速度で走りながら雑談を!?

 :初コラボなのに空気いいじゃん

 :おれも下の名前で呼ばれてー

 :ヤバい、俺の中のユニコーンが目覚める

 :ここ天道のチャンネルだぞ

 :察してやれ


 千景さんはレスポンスが早いので、なんて返事をしようか迷ってしまった。


 やっぱり先輩は話し慣れててすごい。

 名前呼びはちょっと照れるけど。


「そういえば、黄金迷宮のダンジョンって脅威度Aなんですね。こんな大事になってるから、Sだと思ってました」

「脅威度Sはボスの強さも関係する。だから迷宮の奥深くを拠点にしていると、判定が遅れることも多い。今回はギルド間の事情もありそうだがな」


 :じゃあダンジョン協会の脅威度判定ってどうなってんの?

 :測定アイテム使ってダンジョン内の魔力量で判定してるんだって

 :これも深い階層は無理だけどな

 :だから炎皇竜みたいなのが一気に上の階層に来ると狂う

 :脅威度の判定は探索者の配信や報告も影響するぞ

 :雑魚魔物ばかりの資源採取用ダンジョンでーす、みたいな顔もできる

 :ここも最初は黄金取り放題の脅威度Cだった


「君の配信は何度も見させてもらった。魔力量も使い方もA級上位レベルだ。師匠がいるなら、ぜひわたしもご教授願いたい」

「師匠はいないので全部独学です。えっと……努力しました」

「努力か。ふふ、なるほどな」


 千景さんは意味深な笑みを浮かべる。


 この人も僕と同じように、資格を取得する前から、ダンジョンで修行をしていたのかもしれない。


 そう思うと、なんだか親近感が湧いてきた。

 探索者にとって強さは何よりも必要だから。


「スキルもここ十年で発見された中で一番のユニークだと思う。時間停止、一対一の戦いなら、まさに最強だ」

「そんなに持ち上げたってなにもでないですよ。連続では使えませんし、取れ高も作りにくいですし」

「君は真面目だな。わたしが同じスキルなら、悪いことを考えてしまいそうだ。たとえば、一夜くんの身体を好きにするとか」

「ちょっ、それってセクハラですよ! みんなー、先輩がセクハラしてきまーす!」

「ごめんごめん、冗談だよ。でもリスナーのみんなだって想像したことはあるんじゃないかな?」


 :は? もちろんあるが?

 :一分間なんでもし放題だからな

 :天道、チカ姉は顔が真面目系スケベだぞ

 :美少女じゃなかったら許されないやつ

 :美少女でもアウトだぞ

 :日本の治安は天道のモラルにかかっている

 :なぜか犬だけ動けるんだよね


「スキルなら千景さんの方がいいですよ。氷で攻撃に防御、拘束もできますから。高温環境でも涼しく過ごせますし」

「【氷姫雪影】のことかな? 応用力は高いのだがな。規模に比例して魔力の消耗が激しくなるのが欠点かな。本当は水場が多いダンジョンが好きなんだ。空気中や地面から水分を集めなくて済むからね」


 そう言って、千景さんはフッと吐いた息を凍らせた。

 氷に結晶を背景にした横顔は、すごく綺麗だと思う。


 ……僕また余計なことを考えてるな。


 それから色んなことを話しながら、黄金の部屋をいくつも後にした。


「攻略が終わっているのは、この階までのようだな」

「そうみたいですね」


 :お疲れ様

 :もう到着か

 :ここまで二十分もかかってないな

 :爆速ペース

 :攻略済みとはいえ、普通の探索者なら二時間は必要

 :サンプロがこの二人を選んだ理由がわかるわ


 十階ほど下に降りると、金の剥がされた部屋の先に、手のつけられていない黄金の床が続いていた。


 橋のように直線でタイルが並んでいて、先の様子は暗くてよく見えない。


「魔物や罠の気配は感じません。僕が先に進みます。もしなにかあっても、時間停止でなんとかできますから」

「いや、君のスキルは本当に必要な時まで温存しおきたい。一分間止めると、しばらく休憩が必要なんだろう?」


 たしかに、僕のスキルは連続では使えない。

 この先のことを考えると、無理はしない方がいいかもしれない。


「ここはわたしが行こう」


 千景さんは腰の鞘から日本刀を抜いて、黄金のタイルを進んだ。


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