第8話 二人の先輩
サンライト・プロダクションに所属して、デビュー配信から二週間が経ちました
中崎マーケットダンジョンを攻略したことが評価されて、探索者の級位もEからDに昇格。
チャンネル登録者も64万人に到達です。
配信ドローンを起動させて、カメラの前に立つのは、正直まだ緊張する。
でも探索しながらコメントを読んだり、ダンジョンの構造や魔物の生態を説明するのにも、慣れてきたと思う。
画面越しにリスナーと話すのも、楽しくなってきたしね。
今日はコラボ配信の打ち合わせがあるので、本社のビルに来きています。
探索者ギルドの本社って、昔はファンタジーアニメの酒場みたいな内装かと思っていたけど、机やパソコンが並んだ普通のオフィスだった。
探索者以外のスタッフは会社員なんだから、よく考えたらそりゃそうだ。
武器や防具みたいなアイテムや、戦闘をサポートする魔物は、専用の施設で管理されているらしい。
「いつも掃除ありがとう」
「キュイー!」
廊下でホコリやゴミを食べている、清掃スライムに挨拶をする。
ダンジョン内の魔物は人間を敵視してるけど、テイムのスキルかアイテムを使えば、こうやって共存することもできるわけだ。
すべての魔物と話し合いで解決できれば平和なんだけど、ボスみたいな強いやつほど殺意がすごい。
あれは人類を絶対に滅ぼしてやるって目だ。
そんなことを考えながら歩いていると、廊下の真ん中で腕を組む二人の人物が目に入った。
まるで僕の前に立ちふさがるような格好だ。
なにか用でもあるんだろうか?
「噂の新人、天道一夜くんだね?」
「はい。そうです」
「キミ、最近調子に乗ってるんじゃない?」
不機嫌な顔でジロリと見下ろしてくるのは、先輩探索者の千葉リョウトさんだ。
高身長のイケメンだけど、リスナーからはよくいじられてる。
会うのは今日が初めてだけど、こんな表情をするってことは、気づかない内に失礼なことをやってしまったのかもしれない。
「いま登録者数何人いるんだっけー?」
「えっと、64万人です」
「はー、いいよねー。まだ一か月も活動してないのにさー。ぼくなんて一年以上やって39万人だよー」
グイッと肩を組んでくるのは、遊園地にいるようなウサギの着ぐるみを着た、獣坂プレデターさんだ。
声から女性だとわかるけど、素顔を見た人はほとんどいないらしい。
配信だと自由気ままなキャラだから、登録者数を気にしてるのは意外だったかも。
「ちょっとスキルがすごいからって、俺たちのこと馬鹿にしてんだろ?」
「そうそうー、ぼくらのスキルって配信映えしないからさー」
「映えないのは僕もそうでけど……」
「キミは時間停止中の動画を上げてるじゃないか!」
「生放送と動画、両方で稼げてズルいよねー」
二人ともどんどん声色が怖くなってくる。
まさかこれって……噂に聞く新人イジメ!?
所属人数の多いギルドだと人間関係も複雑で、嫉妬やトラブルも増えるらしいけど、まさか僕が絡まれることになるなんて。
配信ではどっちの先輩もいい人そうだったのに……。
正直かなりショックだ。
「馬鹿にしてないなら、キミの報酬をちょっと分けてくれよ。いますぐな」
「救援報酬いっぱいもらってんでしょー? ダンジョン日帰りで攻略してるしさー。すごく儲かってそうだよねー」
「配信活動以外の収入はないので……それはちょっと……」
「おいおい、最近の新人は先輩をうやまう気持ちがないのかなぁ?」
「ギャンブルでスッちゃったから金欠なんだよねー」
千葉さんと獣坂さんは両側から顔を近づけてくる。
ギルドの中で二十歳を過ぎた先輩から、カツアゲをされるなんて。
これが街で会った不良ならぶっ飛ばすんだけど、先輩にそんなことできないし、大人しくお金を出すしかなさそうだ……。
二人に幻滅しながら財布を取り出そうとすると、背後から聞き覚えのある声がした。
「お三方ともなにをしているんですか?」
「こ、小岩井さん……!」
僕が振り向くとそこには、コラボ配信をセッティングをしてくれた、小岩井菜奈葉さんの姿があった。
そうだ、彼女ならカツアゲをなんとかしてくれるかも。
勇気を出して打ち明けようとすると、先輩たちの方からゴソゴソと音が聞こえてきた。
僕はが顔を戻すと、
「「じゃーん! ドッキリでしたー!」」
「……え?」
目に入ったのは『ドッキリ大成功の看板』。
ステルスモードだった、配信ドローンも迷彩を解除して姿を現す。
目を丸くする僕に、二人は慌てながら話しかけてきた。
「天道くん、ホントごめん! 新人にはこういう企画に出てもらうのがサンプロのお約束なんだよ」
「去年はぼくがやられた動画上がってたでしょー? 見てくれたかなー?」
「あっ、そういえば……」
思い返すと、サンプロはそんな企画をやってた気がする。
獣坂さんのドッキリ動画も公式アカウントに出てたかも。
「じゃあ今までの話はぜんぶ嘘だったんですね」
「もちろん。後輩相手にカツアゲなんてしないって」
「ギャンブルとか興味ないしねー。食べられないしー」
「よかった~。先輩たち本気なのかと思って、すごく失望してました。最悪スキルを使うかもって」
ほっと息を吐きながら僕は言う。
【時の反逆者】をダンジョン関係以外に使ったことはないけど、完全犯罪できるんじゃない? って思ったことはあるしね。
「顔がこわいって! 時間停止で俺を裸にするとか絶対やめてね! 『大事なお知らせ』することになるから!」
「あ、その発想はなかったです」
「へー、リョウトはそういうこと考えるんだー。エグい性癖してるねー」
「……このシーンはカットでお願いします」
「ダメでーす」
頭を抱えてくねくねする千葉さんと、なんだか満足気な獣坂さん。
よかった。
僕の入ったギルドは、先輩たちも配信と変わらないみたいだ。
「あの、もうよろしいですか?」
「すみません! もう退散します!」
「じゃねー、天道くんー」
小岩井さんが眼鏡をクイッと上げると、二人は小走りで廊下を去っていった。
そういえばコラボの打ち合わせをするために来たんだった。
「コラボの件ですよね。相手の小鳥遊さんはもう来てるんですか?」
「それが緊急を要する事態でして、ダンジョン攻略コラボは今日これからになりました。申し訳ありませんが準備をお願いします」
僕と小鳥遊さんの初コラボ。
打ち合わせなしの、ぶっつけ本番になりそうです。
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