第3話 大手ギルドに招かれて

「ふー、これでボス撃破かな」


 僕は魔力剣を身体に戻し、額の汗をぬぐう。

 いまのドラゴン本当に強かったな。


 何度も休みを挟んでスキルを発動する戦闘なんて、はじめての経験だ。

 今まで出会ったボスは一分以内に倒せていたからね。


 自分が潜る時はあえて脅威度を調べずに探索してたけど、A判定のダンジョンはすごい。


「ドロップアイテムは剣ですか」


 炎皇竜の死骸の上に、炎をモチーフにした剣が出現する。

 あれはたしかS級アイテムの、『炎皇極聖剣』だったはずだ。


 売ればビルが建つらしいけど、いまの僕には関係ない。


 あとは小鳥遊さんと一緒に、ここから脱出しよう。

 素材やドロップアイテムも、運び出す用意がないしね。


 そんなことを考えていると、


「チカっち、まだ生きてる!?」

「無事みたい。遅くなってごめん」

「怪我はへいきー? ポーションもってきたからねー」


 彼女が所属している、サンライト・プロダクションの探索者が続々と現れた。


 みんな汗まみれで、いまいる階層まで全力で走ってきたみたいだ。

 こういう場面ってなんかいい。


 あとはギルドの仲間に任せて、僕は退散しよう。

 一時間くらい遅刻してるけど、謝ったらワンチャンあるかもだし。


「じゃあ僕はこれで。お疲れ様でしたー」

「お待ちください。もし良ければ私どものギルドにお越しいただけませんか? 救援要請の報酬についてご相談させてください」


 流れに任せて帰ろうと持ったら、スーツ姿の女性に引き止められた。

 黒のショートヘアで眼鏡をかけている。


 探索者には見えないから、同行していたギルドの社員なのかもしれない。

 あと、すごく美人だ。


「わかりました。いいですよ」


 僕は彼女の申し出を受けることにした。


 もう間に合わないなら、最後にあこがれの本社を見て回りたいしね。


 ダンジョンから出ると、スーツの女性が呼んでくれたタクシーに乗る。


 そうして僕は面接を受ける予定だった、サンライト・プロダクションに向かうことになった。


 ちなみに小鳥遊さんは、これから病院で検査を受けるそうだ。

 彼女は何度も僕にお礼を言って、救急車で運ばれていった。


 見た目は大丈夫そうに見えたけど、重症でないことを祈ろう。




 しばらくして、タクシーは本社の前に停車した。

 目の前にそびえ立つのは、首が痛くなるほど高いビルだ。


 僕とは住む世界が違いすぎて、ドアをくぐるだけでも尻込みしてしまう。


「どうぞ中へお入りください」

「は、はい」


 スーツの女性に言われるがままドアを通り、エレベーターに乗って、高層階のフロアを歩く。


 こんな感じといっても僕は部外者なので、壁とドアしか見てないんだけど。


「お待たせいたしました。こちらです」


 通されたのは広い応接室だ。

 家具とかカーペットとか、たぶんすごい高級品なんだと思う。


「どうぞ、お座りください」


 勧められるがままにソファーへ座る。。

 すごい。このソファー固さと柔らかさが絶妙だ。


 やっぱり大手ギルドは違うなー。


 僕の横にはスーツの女性が立ち、真剣な顔で話を切り出した。

 あれ、まさか怒られるわけじゃないよね?


 なんがピリピリした雰囲気で怖いんだけど。


「あらためて、お礼を申し上げます。弊社のタレントを助けていただき、ありがとうございました」

「あ、頭を上げてください。たまたまダンジョンの近くにいただけですから」

「現在、社長ギルドマスターは席を外しておりまして、一社員である私が応対することをお許しください」

「許します許します! あと座ってください!」


 ビシッと頭を下げられて、僕は戸惑ってしまう。


 会社で働くどころかバイトの経験もないし、こういう時ってどうすればいいんだろう。


 スーツの女性は僕の向かいに座ると、ケースから名刺を取り出した。


「自己紹介が遅れました。私は社長秘書兼、マネージャーの小岩井菜奈葉こいわいななはと申します」


 名刺には電話番後とメールアドレス、彼女の肩書が書かれていた。


 僕も簡単に自己紹介をする。


「救援報酬の件についてお話しします。今回のパターンですと過去の事例を参照して、二億円をお支払いすることになります」

「にっ、二億円ですか!?」

「ダンジョンの脅威判定がSに修正されましたので。あの状況で負傷した探索者を守りながら、単独でボスを撃破するのは奇跡に等しいことです」


 二億円なんて金額はじめて聞いた。

 いつも買うウメー棒何万本くらいなんだろう?


「金額がご不満でしたら上乗せも可能です。もしくは弊社で保管している、レアアイテムをお付けすることもできますよ」


 なんだかすごい話になってきちゃったな。

 でも正直にいうと、僕にとって今日の面接は二億円よりも重要だった。


 小岩井さんに言っていいかわからないけど、いまからでもお願いしてみよう。


「あの……報酬の代わりに僕をサンライト・プロダクションの探索者として、採用することってできますか?」

「…………私に採用を決める権限はありません。ですが、なにか事情があるならお聞きしますよ」


 小岩井さんは一瞬戸惑っていたけど、真剣な顔で目を見てくれた。


 社会経験ゼロのガキが変なことを言いだしたのに、まったく馬鹿にしていない。


 僕は今日このビルで面接を受けるつもりだったこと、それからダンジョンに潜る目的を説明する。


「応募書類とアピール動画を確認いたしました。重ね重ねご迷惑をおかけして、まことに申し訳ございません」

「いえ、それより僕の目的をわかってもらえましたか?」

「ご両親と妹さんが宝石化の呪いにかかっているのですね。全身が鉱物化して、長い間意識がないと」

「五年前からずっとです」


 ダンジョンから発生した、現代医学では治療できない病を“呪い”という。


 治すにはダンジョンのアイテムか、解呪のスキルを覚えている探索者が必要だ。

 そして宝石化の呪いを解呪する方法は、まだ発見されていない。


「呪いを解くためにここの探索者になりたいんです。選抜チームに入る条件もクリアできますから」

「事情はわかりました。それはたしかに弊社の協力が必要ですね」


 日本には探索を許されない、“天魔六王のダンジョン”が存在する。


 環境や魔物の強さが異常で、脅威度が判定できなかったらしい。


 その深層には無限に魔力を生み出す鉱石や、どんな呪いも治すアイテムが眠っているという噂だ。


 国が運営しているダンジョン協会は、有望な探索者を選抜して、天魔六王のダンジョンを攻略するチームを考えている。


 チームに選ばれる条件は、攻略実績を重ねてA級かS級に上がること。

 それに加えて、所属探索者が百人を超える大手ギルドの推薦が必要だ。


「小岩井さん、僕を社長に会わせてくれませんか? ダンジョン配信は初心者ですけど、必ず御社に貢献してみせます! お願いします!」


 今度は僕が立って、頭を下げる番だ。


 小岩井さんはいまの言葉を聞いたあと、うつむいてじっと黙っていた。


 ダメだ。やってしまった。

 いきなりこんなことを言われても困るに決まってる。


「すみません。大変申し上げにくいのですが……」

「はい……」

「実はここに来るまでに社長から連絡がありました。小鳥遊千景を救った少年を絶対にスカウトしろと。どんな報酬を提示してもいい。断られたら俺が直接土下座するとまで、おっしゃってました」


 え? どういうこと?

 つまり僕はもう合格してたってこと?


 じゃあ、ここまでの自分語りってなんだったの!?

 すごく恥ずかしいんだけど!


「サンライト・プロダクションにようこそ。天道一夜さん。弊社の探索者として貴方を歓迎します」

「よ、よろしくお願いします!」


 小岩井さんが差し出した手を取り、ガッチリと握手をする。

 こうして面接をすっぱかした僕の探索者デビューは決定した。


「あと口座を教えてください。二億円をお振込みいたします。救援報酬と採用の話はまったく別ですので」


 そして、預金残高が九桁増えました。

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