第17話 暴露
囚われの西明寺達の待遇は、思いのほか早く玲奈の要求通りか、それ以上の厚遇となった。
「おかえり日坂。超絶心配した」
「おうよ。俺も冷や汗があんなに出るものだとは思わなかったよ」
***
日坂は朝イチで13魔将が集まる大会議室に呼ばれ、単独で強者揃いの部屋に缶詰になった。
会議は5時間に及び、その中で、日坂は西明寺やピノを含む自分達の自由を求めた。自由とは言っても、基本的に魔族に協力することを要件とし、玲奈と行動を共にする許可と引き換えに、帝国の陰謀を暴露すると約束したのだ。
アーヴァインは全てを知った。
皇帝スノールがアークデーモンとして種族を魔族に強制変更したことも、臣下達を悪魔化していることも。
その手法は大量の魔石による禁忌魔法だった。生後間もないエルフの血を捧げ、邪神に祈ることで実現している。
帝国は、その南に隣接する三国と共謀して、ひっそりと大部隊を編成している。
帝国は東西に渡って国土を有する横長の国だが、北側は全面グレートウォールダンジョンに面している。
そしてその南には、東から『リンデロン海王国』『サビワナ連邦共和国』『セントウルグ聖王国』が横並びに位置している。
部隊はサビワナ連邦に秘密基地を設けて隠しており、50万人の兵士を集めるべく、作戦を遂行しているとのこと。
また、大陸南端の秘境『サマダ・フロンティア』に調査隊を派遣し、古代遺跡を探している。
サマダ・フロンティアは赤道直下の密林で、前人未到の未開地である。
彼らは古代遺跡の場所を知らない。しかし、預言者『エル・ジオーネ』は、古代遺跡に巨大軍艦『エルヌス』が隠されていると予言した。
エル・ジオーネは、エルヌスの主砲は強力で、1発でグレートウォールダンジョンに大穴が開くだろうと主張している。
エル・ジオーネは、皇帝の悪魔化にも貢献した実績のある預言者で、皇帝は軍艦『エルヌス』が存在すると信じて疑わない。
「貴様はそのエルヌスとやらの場所がわかるのか?」
「はい。俺の博識者『メタ・ライブラリ』には、エルヌスの場所も、操作方法も、その性能も記されています」
アーヴァインは日坂からメタ・ライブラリを奪ってしまう手段もあると考えていた。しかし、それは不可能であると日坂から告げられる。
「これ、俺にしか画面見えないんですよ」
リカルドが画面を覗き見ると、デフォルメされた可愛らしい生物(猫)が、クネクネ踊っているアニメが映し出されていた。
「くっ。何だこれは」
「へへ、可愛いでしょ?」
「貴様がデタラメを言っている可能性は?」
日坂はここが正念場だと感じた。この質問の回答次第で、自分の境遇は天国にも地獄にもなる。そう踏んだのだ。
「まず、エルヌスを帝国よりも先に探し出し、魔王様に献上します。その後、皇帝の悪事を世に知らしめ、勇者達を魔族側に寝返らせましょう。あわよくば帝国に攻め入り、魔族領として占領してしまうのもアリかと」
この意見がアーヴァイン達にどのような印象を持たせたのかはわからないが、日坂には魔王直々の勅令が下った。
「これよりエルヌス調査隊を編成する。リーダーはマダラ。お前にこの任務を任せる」
「はっ」
「フッ、相変わらず無愛想だな。エルヌスに乗って戻ってこい」
「承知いたしました」
「日坂はレナ、西明寺、ピノと共にマダラ遊撃隊に同行しろ。レヴィン、お前はレナの護衛だ」
「はっ、かしこましました」
日坂は、両手を拘束されているのでガッツポーズはできなかったが、最善を尽くしたと言っていい結果に満足した。
***
「てな感じで、俺たちは冒険することになった」
「くっ! またも農業から離れていくっ!」
「そうでもないぜ? エルヌスには自給自足の農園施設が付いてるらしい。穀物とか野菜の苗とか手に入るんじゃないか?」
「それは朗報! 米あるかな!?」
「くー! 米食いてえなー!」
西明寺達は、玲奈と同じフロアの客室が与えられた。従者用の4人部屋で広く、暖かく、大きなベッドで寝られる。
自由時間は食事時と、午前に3時間、午後に3時間。それ以外は監視の兵士が廊下を巡回し、大人しく部屋にこもるよう言われてしまった。
8番隊組長マダラによれば、遠征の準備に3日必要とのことだった。
玲奈は、ここぞとばかりに畑造りに着手した。午後の自由時間はまだ3時間フルで残っている。転生組で外に出て、羽を伸ばしてやりたい。そういう思いもあった。
「ねーねー! レヴィン!
「
「そうそう!」
「城にはそんなものないですが……」
「えぇ……しょっく……じゃあスコップは?」
「スコップならあります」
「やった! 5本持ってきて!」
「かしこまりました」
玲奈はウキウキしながら西明寺達が待機する客室に向かう。
「野郎ども! 農作業の時間だぜ!」
玲奈は1番小さいサイズの作業着を、袖や裾をまくって無理やり着用し、西明寺達にも合うサイズの作業着を支給した。
暇を持て余した勇者達は、外に出られることに心から感謝した。さすがの日坂も、拘束されているという束縛感から解放されたいという欲求があって、例えそれが農作業であっても、自由を味わえることに喜びを感じた。
レヴィンは玲奈が畑を作る区画について、サリサを通して魔王に許可を取ってくれて、南門を出て少し離れた場所を確保してくれた。
一行は空を飛べない勇者組に考慮し、城下町を歩いて移動することにした。
街並みは円を描くようにカーブした通路と、城から放射状に真っ直ぐ伸びるメインストリートが特徴的で、それらの道に沿って居住区や商業区などが区画されている。
建物や通路は、艶のある黒いレンガのような建材で作られており、所々、発光するタイルのような照明が備え付けられ、玲奈たち日本人には、近未来的な風景に見えていた。
南へ向かうメインストリート沿いには、露店が数多く出店され、雑貨や衣類、食料品など、様々なものが売られている。
「ほえー、人いっぱいいるー」
「何人ぐらい暮らしとるんじゃ?」
「約30000人だ。ほとんどが兵士だな」
西明寺は、かなり人口密度が高い印象を受けた。玲奈も、上空から見た街はそこまで大きくなく、30000人が暮らすには狭いと感じた。
「これさ、地下掘ってない?」
日坂は目に見える建物が、ほとんど二階建てか三階建てであることに気付き、とても30000人を収容できる床面積ではないと考えた。
「ヒサカ、貴様は我々の秘密を丸裸にしないと気が済まないのか?」
「いや別にそんなつもりはないんだけど、この気温でしょ? 地下の方があったかいんじゃないかと思って」
日坂達勇者パーティーは、グレートウォールダンジョンを超えるに当たって、寒さ対策は万全にしてきている。
西明寺も、戦闘時は上着を脱いでいたが、移動の時や野営時は耐寒服を着込んでいた。
現在も、玲奈たちは作業着の上にモコモコのコートを着ている。
「あ! 野菜売ってる! あ! 魚の干物も!」
玲奈は見つけてしまった。それは魔王城城下町ではかなりレアな食材だった。海洋都市『シューゲル』で時々『戦利品』が手に入ると、行商人たちはこぞって野菜や香辛料、穀物といった、魔族領では手に入らない品を買い求めるのだ。
ここ魔王城にも、その戦利品の一部が流れ着くことがあった。しかし、野菜は不人気である。
「いらっしゃい、お嬢さん。野菜は健康にいいよ? 魔石より魔力変換効率がいいって言われてるんだ。どうだい?」
「うんうん! 野菜はいいよね!」
残念なことに、野菜に
「うーん、鮮度は期待できないかー。採れたてって手に入る?」
「それは無理だなー。ここは海からも遠いし、飛竜を飛ばしても丸一日掛かっちまう」
「ふむふむ。これ何て野菜? 見たことない」
「これはカンタラ。生でもシャキシャキしてて美味しいけど、火を通すとしんなりして甘味が出るよ」
見た目は白菜だ。ちょっと
レヴィンに気がついていなかった露店の主人は、こんなところに魔将がいるとは思わず、レヴィンを従える目の前の女の子が、只者ではないと悟った。
「うえ!? レヴィン様!? なんでこんなところに!」
「ああ、たまには城下町にも顔を出そうと思ってな」
「そうでしたか、このお嬢さんは?」
「今は秘密だ。これを一つくれ。釣りはいい」
「ははぁ! 毎度あり!」
玲奈は両手いっぱいにカンタラを抱えると、ニコニコ顔でレヴィンにお礼を言った。
「んふふー、ありがと、レヴィン」
「あそこに兵士がいるので、野菜は城に届けてもらいましょう」
「ほう、便利」
突然の訪問に驚いた兵士は、キビキビと新人に野菜を届けるよう指示した。
すると、レヴィンが慌てた様子で玲奈たちを急かす。
「姫様、アレに乗りましょう。方向が逆ですが、今乗ってしまった方が早いです」
玲奈たちは、揃って首を
1両の大きさは大型バスと同等で、4両編成である。
一行は列車に乗り込み、窓から見える近未来都市を眺めた。日坂はここまで帝国との文明レベル差があるとは思わず、他にも魔族ならではの魔道具がないか調べ始めた。
列車は終点の魔王城前から折り返し、南門前の停留所へ向かって進み出す。車内は暖かく、思わず眠気に襲われる玲奈だった。
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