第6話 魔将

 城に戻り、朝食を済ませた玲奈は、13魔将が集う大会議室に向かっていた。



――魔王城。大会議室。



 部屋は500人は収容できそうな豪華な一室で、玲奈は部屋に入るなり、中央に円環状に設置された背もたれの長い幾つもの玉座に注目した。


 玉座は王族が座るであろう黒地に金の装飾が施された特別性のものが3脚、それから13魔将とサリサが座るであろうシルバーのものが14脚、円を描くように配置されている。


 1脚だけやたらデカい玉座が嫌でも目に入った。そこに腰掛けるのはジャイアントオーガの『ゴルド』。魔王軍、5番隊『鬼人組』組長である。


 13魔将は既に席に着いており、王族用の玉座にかける玲奈に注目した。


「どっこいしょ。やーやー、どーもどーも。レナでーす」


 満面の笑みで皆に手を振り、第一印象を意識した玲奈だったが、13人の冷ややかな視線だけが返ってきた。


 そこへ魔王アーヴァインがセシリアと共に入室すると、一同、姿勢を正して起立し、その忠誠心の高さを見せつけた。


(えぇ……あたしの時は皆んな立たなかったじゃん? それはつまり……そういう事なのでしょうか……)


「よい。座れ」

「「「はっ!」」」


 いよいよ会議が始まる様子に、玲奈が身構えると、サリサが立ち上がり、司会進行を始めた。


「それでは会議を始めさせて頂きます。議題は『転生者の取り扱い』についてです。まずは経緯をご説明させて頂きます」


 サリサは、昨日起きた出来事を事細かに説明した。そこには、玲奈の出身地や性格、農業に従事していたことも付け加えられた。


「コービル先生の見解では、同じように転生した勇者たちを捕獲し、出身地の情報収集や元に戻す方法などを探るのか得策とのことでした」


 勇者の捕獲と聞いて名乗りを上げたのは、9番隊『エアレイド』組長の『サリーン』だった。


「そのお役目、是非エアレイドにお任せください」

「待て。勇者の捕獲という事ならば、国境警備の仕事だ。1番隊の役目だろう」


 2番隊『イビルアイ』組長の『セネリオ』が第3の目を見開いてサリーンを牽制する。

 1番隊『グレートウォール』組長の『リカルド』は、瞑っていた目を薄く開いてセネリオの発言に答えた。


「まあ、僕の役目だろうね。サリーンも一緒に来たいならおいでよ」

「! 是非お願いします!」

「という事で魔王様、僕とサリーンで行こうと思いますけど、いいですか?」


 アーヴァインはリカルドに絶対的な信頼を寄せていた。魔王軍参謀のセネリオの意見でもあるため、その提案に異を唱えることはなかった。


「よかろう。拉致した勇者は私の前に連れて来るのだ。洗いざらい話してもらうとしよう」


 13魔将は厳かに拍手を送った。


 玲奈はその様子を見て、ここぞとばかりに手を挙げた。


「はい! 質問!」


 拍手は鳴り止み、部屋は静まり返った。その様子を見て、アーヴァインが口を開く。


「なんだ?」

「うんとね、質問というか話があるんだけど、あたしはここに集まる皆んなとは初対面でさ、顔も名前もわからないのは嫌なんだ。だから皆んなで自己紹介したいんだけど、いいかな」


 アーヴァインが数瞬、サリサの目を見遣ると、サリサは会議の時間配分の観点で問題ないという意思のアイコンタクトを図った。


「よかろう。ではまずレナからだ。皆、よく聞け。レナは現時点で客人の扱いだ。これをどう処分するのか、これから話し合いたい。それを踏まえて、自己紹介をしてもらおう」


 簡単な自己紹介で済ますつもりだった玲奈は、アーヴァインの言葉により、ふざけた態度で自己紹介に臨むと良くない処分が下されると判断した。


 ここはひとつ、会社経営の代表として培った経験を活かし、精一杯の社交辞令をお見舞いしてやろうと思った。


 玲奈は立ち上がり、すぅーっと深呼吸して自己紹介に臨んだ。




「皆様、この度は私の転生のためにお集まり頂きましたこと、心からお詫び申し上げますと共に、このように丁重におもてなし下さった事に対して、心からお礼申し上げます。


 まず初めに、エヴェルディーテ姫について、お返しできるなら、今すぐにでもお返ししたい所存であることをお伝え致します。

 私自身、なぜ転生したのか、なぜ魔族なのか、何もわかっておりません。

 不可抗力により、このようなご迷惑をお掛けする事態になりました事、最初にお伝え申し上げます。


 私は冬月玲奈と申します。レナがファーストネーム、フユツキがファミリーネームです。

 私の故郷『地球』の国『日本』では、ファミリーネームを先に名乗る風習がございます。


 また、地球は文化的な営みをする種族が人間だけという点でも、このグロノア=フィルとは異なり、魔族やエルフといった多種多様な種族は、お伽話の中にのみ存在していました。


 しかし、人間だけであっても、その文明レベルは極めて高い水準を誇っており、馬車は自動車として大陸の端から端まで休憩なしで移動する乗り物に進化し、それはやがて人を月まで運ぶロケットにまで飛躍しました。


 地球の人間は魔力を持ちません。従って、魔法も使えませんが、確かな技術と知識がございます。


 私は、自分が持つ地球の技術と知識を、皆様のために使いたいと思っております。得意分野は農業。農業に関しては誰にも負けない情熱と誇りがございます。


 どうか、寛大な処分と共に、私に活躍の機会を与えて下さいますよう、謹んで、お願い申し上げます」




 この自己紹介が13魔将にどう映ったかは、次に自己紹介に臨むリカルドの意向により、暗に示された。


「1番隊『グレートウォール』組長のリカルドと申します。『姫様』の自己紹介、誠にご立派でした。改めて、この身を捧げる所存です。


 と、ここまでが建前で、


 僕は君の言う技術とやらに興味がある。見せてもらうよ? 地球の技術とやらを。

 もっとも、君とのお付き合いも長くないかもしれないけどね。まあ宜しく」


 その後は名前と所属のみを伝える自己紹介が続いた。セネリオは何か言いたそうだったが、ぐっと堪えている様子が印象的だった。



――各魔将は以下の通り。



1番隊『グレートウォール』組長『リカルド』


2番隊『イビルアイ』組長『セネリオ』


3番隊『アンデッドワールド』組長『エピテ』


4番隊『鳥人連合』組長『アルテナ』


5番隊『鬼人組』組長『ゴルド』


6番隊『東海殲滅組』組長『マーカス』


7番隊『西海漁業組』組長『ルーカス』


8番隊『マダラ遊撃隊』組長『マダラ』


9番隊『エアレイド』組長『サリーン』


10番隊『サウスアーミー』組長『ホーク』


11番隊『イーストアーミー』組長『ライデン』


12番隊『ウエストアーミー』組長『シデン』


13番隊『ラストボーダー』組長『レヴィン』



 皆、個性的で、玲奈の目にはスケルトンのエピテや、ジャイアントオーガのゴルド、魚人のマーカス、ルーカスなどが特に印象的に映った。


 午後から玲奈と一緒に旅をするアルテナは、物凄く生気がなく、か細い声で目も虚ろだった。玲奈は隣に座るサリサにアルテナについて聞くと、「いつもあの調子」だそうだ。


「さて、皆、自己紹介は済んだようだな。それでは、今後のレナの処遇について言い渡す。

 レナはエヴィと同等の扱いとし、呼称は『姫』とする。リカルドとセネリオはレナを元に戻す方法をいち早く解明し、私に報告すること。


 以上だ」


 会議は、魔王の決断に力強く拍手する者と、パラパラと力ない拍手をする者とが入り混じる、歯切れの悪い不満の決議となった。


「それでは、改めまして姫様を歓迎する昼食会に移りたいと存じます。皆様、小休憩の後、披露宴会場へお越しください」


 サリサが締めくくると、アーヴァインをはじめ、皆、早々と会議室を去って行った。


 サリサと2人、会議室に残った玲奈は、少ししょんぼりしてサリサに問う。


「ねーねー、あたし、あんまり歓迎されてない?」

「…………。皆、困惑しているのです。通常であれば、このような席の後は、1人か2人はお仕置き部屋行きです。少なからず、姫様が元の姫様であることを疑う者もいたようですね」

「ぬーん。そうなのかー」


 玲奈は皆と仲良くなりたい。そう願っていた。彼女にとって、皆の役に立つことが、1番の近道であると信じていたのだが、それは近い将来、実現することになる。


 ロザリカの農業を通じて。

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