分冊⑥

分冊⑥【分記・釣りの章】


 その後、彼女は冷蔵庫から冷凍のピザを取り出してレンチンして昼ごはんを食べさせてくれた。

「今はハゼが沢山釣れるのよ、今から行ってみない? 夜に天麩羅にして食べようよ」

私は断る理由も無いので

「いいよ」

とオッケーした。


食事を終えたら彼女は、


「君はバイクの免許持ってる?」


「原付だけ」


「じゃ私の後ろに乗っけてあげる」と言ってガレージから出した125ccの古いタイプだが良く整備された様に思えるオフロードバイクを玄関前まで持ってきた、後ろには釣り具が積まれていた。

彼女は近くの地面を大型のスコップで3回ほど掘り返すとミミズが沢山、出てきた、

「これが生贄ちゃん」とビニール袋に詰め込んだ。

程なくして彼女のバイクの後ろに乗り、港に向かった。

彼女が運転するバイクの後ろに乗って坂道を降って行く、降りながら眺める海はキラキラ光って綺麗である、また行く先はたまたまの現象か風で黄色、青、ピンクの花ビラが回って夢の中の虹色のトンネルのようになっていた、2人を乗せたバイクは幻想的なトンネルの中を走り抜けるようであった、彼女の髪から匂ってくるリンスの香りも良い、金色のカナブンが彼女の胸の辺りに止まったので取るふりをして胸を触ってみた。

「今は違うでしょ、しっかり私に掴まってないと落ちるわよ」と言って彼女はスピードを上げた、私は落ちそうになり慌てて彼女にしがみついた彼女の横顔は笑っていた、その顔を見たら待っていた、自分の青春が始まった気がした、いや今始まったのだ。

金のカナブンは私たちの先を誘導するようにしばらく一緒に飛んでいた。

磯臭い港に着いたら彼女は後ろの荷物入れから釣り具と麦わら帽子を二つ取り出して一つ私に手渡しだ。

「はい!被ってないと日差しで頭が痛くなるわよ」私は素直に被った。

麦わら帽子を被った彼女は完全に映画のヒロインである。彼女の後ろの海面の日の反射もキラキラして彼女の容姿に拍車かけて輝かしていた。その眩い姿にこれが本当に私の彼女かと思った、聞いてみた。

「俺の彼女だよね?」

彼女は「え」と言ってこちらを振り向き、スカートの両端をつまみ上げる動作をし、


「はい、私は君の彼女です、君は

私に忠誠を誓う彼氏です、此処は静香島です」と言った。


「君の身体は私の物、私の身体は私の物」


「最後おかしいでしょ『私の身体は君の物』でしょ、それに忠誠て」


「そういうものよ、女の子が拒否したら何もできないものなのよ」


「はぁ」


そこは騎士らしく

「はっ!かしこまりましたでしょ」


「所でここは静香島て言うんだ?」


「そうよ」


彼女の話だと過去にこの島に攻め込んで来た帝国の大将(源乃義継)の危機をたびたび降臨して助けた神様の名前らしい。今はこの島に祀られているらしい、どうやら私が昨日、参拝した神社みたいだ。

彼女は最後にこう言った

「神様なのに侵略者の味方するんだから、よほどお互いに仲良かったんだね。女は神様になっても女よねー2人はできてたりして、まぁ昔話しだけどね」


「さてと釣りしましょ、1回私も彼氏を連れて釣りしたかったんだ、夢が、かなったわホホホ」


彼女が指南してくれた釣り方は、リール竿(糸を沢山巻いてある機械を竿に取り付けた竿の事)

での投げ釣りである。

糸の先に天秤と呼ばれる大きめの鉛を付けてその先に細い糸と針と餌を付ける、そうしたら鉛の重さを利用して海に餌を投げる、後は海底で鉛を引きずりながら海底付近に漂っかせた餌をハゼに食わせ針掛させて釣るのである。

引きずって途中で止めて針掛を待ち、針掛が無ければらまた少し引きずって、また待つを繰り返す。

初心者でもできる簡単な釣りだと思った。

彼女は初心者の私に気を使ってこの釣り方にしたのだろう。

針掛を待っている間は怠けて寝ても良し。

何か本を読むなど他の事をしていても良し。

ハゼは直ぐに釣れた繁殖期で沢山いるらしいく、1時間程で30センチ四方のクーラーBOXはハゼで満タンになった。

彼女はそれを眺めて

「ビールのツマミが大漁大漁と喜んでいた」

彼女は思ったより早くハゼが沢山釣れたので満足したみたいで

「今日はもう釣りは止めにしましょ、釣れてもクーラーにこれ以上は入らないし」と言った。

その後まだ四時と明るかったので帰らずに少し港で先祖伝来の護身術と小刀の稽古もつけてくれた。彼女の動きは巧みで常にコチラの動きを読んでいるようであった、小刀に見立てた棒切れは彼女の体には擦りもしなかった。

「君は中々はスジがいいよ、私と一年位練習したら、そこそこの腕には成れるよと褒めてくれ」

私は直ぐに調子に乗る性格ので単純に嬉しかった。

「少し休みましょ」

と彼女は漁港の日陰になってるとこにシートを引いた。

私は彼女を前に抱える感じで座った、彼女は私に背を持たれてる

彼女の体からフェロモン混じりのリンスの良い匂がした、たまらなかった。

しばらくその体制のまま海面と入道雲をボーとし眺めていた、その時、海面から3メートルは有る大きな魚が飛び跳ねった《バッシャ!》その音で目が覚め、しばらくしたら彼女は私の膝を枕にする様に仰向けに寝転がった両腕は私の腰に回し、

「ところで私の何処か好きになったの?」聞いてきた


「入り口は顔かな、性格は少し予想とは違ってたけど」


「私、少しSっけあるもんねー昨日、宿ではごめんね、ビックリしたでしょ」


「まぁ少し」


「今日は普通の感じてしようか、お酒飲むから保証はできないけど今日も泊まってくんでしょ? なんなら私と一生此処で暮らしましょうよ」


私はいきなり(一生と言われてもと)思って無言でいった。 

彼女は私を見つめて

「喉渇いたわ、そこのリュックから蜜柑、出して私に食べさせてよ」

と言った。

私が蜜柑の皮を剥いて一粒、彼女の口に持っていった、潤んだ瞳で口を開けた彼女の犬歯はなんか可愛かった、蜜柑の最後の一粒を食べる時、軽く私の指を噛んで

「考えておいてよね、さてと、そろそろ帰ろうか、遅くなるとチュパ出るから」

と彼女は立ち上がった。

彼女の中で今はチュパカブラが流行ってるみたいだ。


帰る用意をしていたら寺院跡の公園で私を見捨てて帰った、黒猫が何処からか寄ってきた、彼女は一瞬、猫を見つめて……(睨んだようにも見えた)

「あら、猫ちゃんやっと会えた」と頭を撫でていた。その黒猫は私が家で餌付けしている野良の白猫に似ている事に気づいた、そして餌は他で貰っているだろうか?と急に心配になった……がまぁ、私は今日の夜には帰るので家の窓際に居たら餌を上げれば良いだけであると考え気を取り直し猫にハゼを1匹投げたその時、猫はいきなり彼女の手に噛み付いた!

「いった!」と彼女は手を引っ込めた。猫は私を見つめて何か残念な顔をしハゼを咥えて背を向け行ってしまった、相変わらず餌、目的だなと~と思った。

「嫌われたみたいね、当然かな猫ちゃんから君を取っちゃただもんね……そして時間切れ私の勝ち」とニヤリとした。


夕焼けを背に立たずみ私を見つめてくる彼女の眼は泣いてるのか歪に輝いていた……


帰りによろず屋に寄って晩酌用のビールを買った。

店の主人はバイクを2人乗りする私たちを見て

「青春だねー大事にしなよと」とからかってきた。

確かに今が後で振り返ると1番いい時期なのかなーと素直に思えた。

空は赤っかに染まっていた。


作者の都合によりまして分冊⑦は、飛ばして分冊⑧へ

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