【KAC20247】お節介焼きの、幼馴染がいます

草乃

✱ お節介焼きの、幼馴染がいます

 事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。


 ごくごく普通の家庭、両親も普通だし、遡っても偉人は居ない。これからもきっとそう。

 そんな、普通の中で僕だけが持っている特別。

 ひとの機嫌がわかったり、好き嫌いがわかったり。

 赤や青、黄に緑。いろんな色がその人の周りにもやもやと現れて見える、眼。

 誰もそんなものは見えない、らしい。


「よくわかったね」


 そう言われる度にどきりと心臓が跳ねて、見たらわかるよとだけいうに留めていた。

 確かめたことはないけど、言わないほうがいいことだとはなんとなく感じていた。



「コマってときどき人の心読んでる?」


 いろんな人の、言葉と伴わない感情の色の波に疲れて教室で過ごすことが苦手になり、鍵の掛かった屋上入口前の階段に座って図書室で借りた本を読んでいたらいつものように現れて隣に座る、幼稚園の頃からの腐れ縁――ガラスが購買部で買ってきたらしいコッペパンサンドの入った袋をパリッと開けてかじりついた。僕は食べ終えての読書タイムだった。


「読んでない。見てたら、わかるでしょ」

「いつもそれだなぁ」


 休み時間は有限だ。ガラスがくるから、読書は進まないし、眼はガラスの感情の動きをみてしまう。

 好奇心、感心、興味。黄色と赤色がグラデーション。

 ガラスはいつもそう。どこにでもいそうで平凡な僕にたいそうご執心。


「コマのことこんなに気になってるのはアタシくらいさァ」

「はいはい、ありがとうありがとう」


 もうっ、とぐっと肩を寄せて体重をかけてくる。ガラスの距離感はよくわからない。

 ちらり、目だけをやって本に戻す。気にかけてくれてるのは、ありがたいけど放っておいても欲しい。


「放っといたらコマ、もっとずっとひとりじゃん」

「えっ……?」


 あれ、僕いま、口に出した?

 コッペパンを口に詰め込み、ガラスは答えなかった。

 ガラスを見つめる、正確にはガラスの感情を。

 それでも感情はみえても心はみえない。もしかして、の答えが出せない。

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