潜里羽依花

危険だらけの学園生活

 学校生活には危険がいっぱいだ。


 それは、俺――積木来都つみきらいとが完全犯罪組織【迷宮の抜け穴アナザールート】のリーダーだから、という面も少なからずあるだろう。ここ永彩えいさい学園は才能犯罪者クリミナルにとって世界最大レベルに危険な場所だ。


 でも、それだけじゃない。


「すぅ……くぅ…………むにゃ」


「…………」


 とある休日、遅めのアラームで目覚めた直後。


 ベッドの〝中〟から聞こえる穏やかな寝息と、左半身に押し付けられる柔らかな感触。甘いミルクのような香りに、俺は思わず顔を引きらせる。


 潜里羽依花くぐりういか――【迷宮の抜け穴アナザールート】のメンバーであり、暗殺者組織マーダーギルド【K】の隠し玉でもある少女。ただしこれは、何も暗殺を企てられているというわけではない。


 ただ、ひたすらに……懐かれている。


「らいと、らいとぉ……」


 寝言と共に潜里が体勢を変え、俺の腕をむぎゅうと抱え込む。……身体こそ小柄な彼女だが、胸元だけはその限りではない。沈み込んでいくような感触がアラームよりも強烈に俺の意識を覚醒させる。


(……多分、だけど)


 ここで俺が何かをやったとしても、ほんの少しの下心で指先を動かしたとしても、熟睡している潜里は何も気付かないだろう。というか、何ならこの体勢が既にアウトだ。同じベッドで寝ている恋人同士にしか見えない。


(でも……俺には、一条さんが!)


 部屋中に貼られたポスターを見て正気を保つ。


 そう、俺には心に決めた人がいる。潜里は可愛いけれど、とんでもなく可愛いのだけれど、だからと言って揺らぐわけにはいかない。


 ――と。


「……ね、らいと」


 甘い声音が、いっそなまめかしい距離感で耳朶じだを打つ。


「わたし、らいとになら……いいよ?」


「!?」

「いいよって、何が……」


「なんでも、好きなことして……らんぼうに、されてもいい」

「らいと、らいとぉ……」


「っ……」

「って…………ん?」


「…………くぅ」


「いや、寝てるのかよ……」


 冷や汗を拭いながら、止めていた息を思いきり吐き出す俺。


 生殺しの時間は、まだまだ続きそうだった。

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