6月26日(水)_几帳面な黒幕《2巻4章》

「いやぁ、それにしてもライトは几帳面だねぇ」


 ――作戦計画書(改訂版)。


 定期試験《星集め》絡みの歴史的特異点デスポイントを書き換えるため、変動した状況に合わせてほぼ徹夜で作り直したそれを見て、元天才子役の音無友戯おとなしゆうぎが苦笑交じりに肩を竦める。


「ん……まあ、そうかもしれないけどさ」


 潜伏場所、作戦開始のタイミング、合図の出し方……などなど。

 

 絶対に失敗できないため、自分でも引いてしまうくらいには細かく決まっている。


「これはデートの時もきっちり予定を決めて動くタイプと見たね」


 からかうように続ける音無。


「お店とかも全部予約してさ」


「……そう言われても」

「デートなんかしたことないから実感ないって」


「へぇ?」

一条いちじょうさんと妄想デートくらいしてるのかと思ってたけど」


「ぅ……」

「ゼロじゃない、とは言っておくけど」


 誤魔化すように首を振る俺。……Sランク捕獲者ハンターである一条さんと俺が釣り合うなんて、まさかそんなことは思っていない。思っていないけれど、一度も夢想したことがないと言えばもちろん嘘になる。


 ――と。


「ふぅん? やっぱり一途イチズなんだね、だんちょー」


 そこで横合いから口を挟んできたのは深見瑠々ふかみるるだ。ピンクレッドの髪を肩口でくるんと内側に巻いた1軍女子。太陽を思わせる瞳が真っ直ぐに俺を見る。


「こんなに考えてくれるなら、デートとか超楽しそうだけど……」

「っていうかミキミキのこと気になるって子、1-Aで何人か知ってるし」


「えっ」


「まあでも、一途なミキミキには関係カンケーないよね」


「ま、まあ……それは、そうなんだけど」


 言葉に詰まって頬を掻く。


 俺が一条さんに惚れている、というのは全くもって間違いない。けれど、それはそれとして、自分に好意を向けてくれている女子がいるというのは男子高校生なら普通に気になるものではないだろうか。


「一応……詳しく、教えてくれないか?」


「え~? ダメダメ、女子同士の秘密ヒミツの恋バナだもん」

「あ、でも……」


「でも?」


「なんていうか」

案外アンガイ、ミキミキの近くにもいるかも? ……な~んて」


 微かに頬を赤らめて――。


 鮮やかな毛先をくるくると人差し指に巻き付けながら、おずおずと顔を持ち上げる深見。


「近くに……?」


 言われて辺りを見渡す俺。


 他クラスの潜里くぐりを抜きにすれば、この部屋にいるのは深見自身と、それから天咲あまさきの2人だけだ。


 ……いや。


「まさか……お前か、音無?」


「え? う~ん、どうかな」

「そりゃあライトのことは嫌いじゃないけど……さすがに、今のは鈍感すぎじゃない?」


「へ?」


 呆れたような視線を向けられて、俺はぱちくりと目を瞬かせるのだった。

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