6月25日(火)_手厚いサポート?《2巻3章終盤》

「――あ、積木つみきさん」


「だんちょー、遅かったじゃん。にひひ、ちゃんとリフレッシュできた?」


「いやいや。ライトのことだから、あえての焦らしプレイってやつかもしれないよ?」


 定期試験《星集め》2日目の夜――。


 Bランク捕獲者ハンター物延もののべ七海ななみが【シークレットマーダー】に臨場したことで計画が破綻しかけ、別室で頭を悩ませていたところで潜里くぐりに救われた俺が会議室へと戻ってみれば、完全犯罪組織【迷宮の抜け穴アナザールート】のメンバーが勢揃いで迎えてくれた。


「っ……お前、ら……」


 俺が向こうの部屋でうなっていた時間は軽く2時間を下らない。全員とっくに帰宅済みだと思っていただけに、不意打ちで涙腺が緩くなる。


「……ふふっ」


 そんな弱み――もとい〝からかいポイント〟を見逃さない天咲あまさきではなかった。


 黒いレースの手袋に包まれた右手の指先をちょこんと可愛く頬に添え、悪戯いたずらっぽい笑顔と共に尋ねてくる。


「やっと戻ってきてくれましたね、積木さん」

羽依花ういかさんに優しくなぐさめてもらったんですか?」


「んむ」


 俺が答えるより先にもぞりと頷いたのは潜里の方だ。


 傍から見たら恋人みたいな体勢で俺の腕を取った……否、立ったまま俺を抱き枕にした彼女は、舌っ足らずな声音で続ける。


「わたしが、らいとをあやしてあげた……」

「ほうようりょく、ばつぐん」


「包容力……ですか」

「羽依花さんが言うと、何だかえっちに聞こえます」


「それは、もう」


 さらさらの黒髪を俺の腕にうずめるような格好で再び潜里が頷く。


「らいとが困ってるなら、なんでもする」

「身体を差し出すのも、いたしかたなし……」


「……いや、差し出したことにするなよ」


「?」

「ちゅーはしてないけど、むぎゅーならした」


「…………」


 まあ、それはそうかもしれないけれど。


「ふふっ」

一条いちじょうさん一筋とはいえ、積木さんも男の子ということですね」


 そよ風みたいな声音で囁く天咲。


 お伽噺とぎばなしのお姫様みたいな銀色の髪をふわりと揺らして、彼女はこてりと首を傾げてみせる。


「それで……積木さんは、もう完全に立ち直ったんですか?」


「え? ん、まあ――……」


「あ、ちなみに」

「返事が『いいえ』なら、私からも慰めをプレゼントしようと思います」


 瞬間。


 つ、っとこちらへ歩みを寄せてきた天咲は、伝説の大怪盗ならではの滑らかな仕草で俺の耳元に手を添える。


 そうして、他のメンバーには聞こえないよう声を潜めて――


「多少なら……えっちなものでも、可としましょう」


「……え」


 ――冗談とも本気ともつかない、甘くあやしい声音で言うのだった。

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