6月22日(土)_ベッドの上の攻防《2巻2章》

 ある日の朝――。


 俺が目を覚ましたら、同じベッドの中でパジャマ姿の少女が眠っていた。


「へ……?」


「んむ……」

「らいと、らいとぉ……うにゅぅ」


 甘い吐息と声を零しながら身体全体ですがり付いてくる潜里羽依花くぐりういか


 無垢なる暗殺者であるところの彼女は、体格で言うなら非常に小柄だ。妹っぽいミニマムサイズ。けれど胸元だけはミニマムの真逆を地で行っていて、アンバランスで凶悪的な魅力を醸し出している。身体はどこもかしこも柔らかくて、ミルクかバニラのような甘い香りが布団の中に充満している。


「お、おい、潜里……?」


「むにゃ……?」


 何度か肩を揺すったところでようやく目を覚まし、とろんとした瞳で俺を見つめてくる潜里。


 起き抜けだからだろう、普段よりも舌っ足らずな声音で彼女は言う。


「らいとは、強引……でも、むりやりも嫌じゃない……」

「ね、ね、ぎゅーってして、らいと?」


「い、いや、強引も何も……俺の部屋だって、ここ」

「何でいるんだよ、潜里?」


「……?」

「らいとに、お呼ばれした……逢引きの、よかん。てれてれ」


「え?」


 そんなはずが――と思った辺りで、ようやく気付く。


 今日は定期試験《星集め》の直前だ。潜里の親友であり【ラビリンス】の標的にされてしまう柊色葉ひいらぎいろはという少女から情報を得るため、ダメ押しの〝盗聴〟をしようと打ち合わせてあった。


 もちろん、俺としてはアジトのつもりだったのだけど。


「……確かに、場所までは決めてなかったか」


「んむ……そのとーり」

「アジトより、らいとの部屋のほうが近いから」

「それに、べっどなら寝っ転がったまま《才能くらうん》もつかえる……てんさいの、はっそう」


 得意げに言い放ち、布団の上でゴロゴロと転がる潜里。


 ――ただ、


「いや……」


 対する俺は、静かに首を横に振る――いくら俺が一条いちじょうさん一筋と言っても、この命を一条さんのために捧げるつもりだとしても。さらさらのボブカットを揺らす天性の美少女こと潜里羽依花と同じベッドの中に居続けたら、さすがに正気を保ってはいられない。


 そんなわけで。


「アジトに行こうぜ、潜里」

「ほら、天咲あまさきとか深見ふかみもいるはずだし」


「おお……」


 俺の提案に、潜里はぴくっと耳を動かしてからゆっくりと身体を起こした。満天の星空みたいな瞳で俺を見た彼女は、ベッドにぺたんと座ったまま一つ頷いて。


「るるるがいるなら、行く」

「……武器屋ぶきやは、どっちでもいいけど」


 ほんの少しだけ口元を緩ませながら、そう言った。

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