6月17日(月)_マッドサイエンティストの被験体《2巻2章》

「お願い、ミキミキ! このとーり!」


 定期試験《星集め》を翌週に控えたある日の昼休み――。


 永彩えいさい学園校舎の屋上に俺を呼び出した深見瑠々ふかみるるが、目の前でパンっと高らかに両手を叩き合わせた。


「えっと……お願いって、具体的にはどういうやつだ?」

「そりゃ、可能な限り協力するけど……」


「ほんと!?」


 ピンクレッドの髪を揺らした深見がぱぁっと顔を明るくする。


「あのねあのね、実はウチの実験の被験体ヒケンタイになってほしいって話なんだけ――」


「悪い、さっきのなしで」


「わーわーわー!」

「違くて! や、違くはないんだけど!」

「聞いてよだんちょ~!」


 つい先ほどの笑顔から一転、泣きそうになりながらすがり付かんばかりの勢いでぐいぐい距離を詰めてくる一軍女子・深見。


 ふわりと漂う柑橘系の甘い香りにドキッとしつつ、嘆息交じりに先を促す。


「それで、何の被験体になれっていうんだよ?」


「ダミータグ!!」


 食い気味の答えが返ってきた。


「ほら、定期試験中の暗躍アンヤクのためにウチが実験してたやつ、あったでしょ?」

「ほとんど完成したと思うから、実際にチェックしてみたくて!」


「ああ……そういうことか」


 ぎゅ、と目の前で拳を握って熱弁する深見にようやく相槌を打つ俺。


 次なる歴史的特異点デスポイント改竄かいざんするために必須となる改造版のダミータグ。深見はここ数日、【迷宮の抜け穴アナザールート】のアジトに籠もって〝それ〟を作ってくれていた。その実証実験ということなら、頼んででもやらせてもらいたい。


 ――ただ。


「一応訊くけど……命の危険は、ないんだよな?」


 いずれ〝天才マッドサイエンティスト〟として名を馳せる少女に疑問をぶつける。


「え?」

「あ、あー……うん、まあ」


 途端に深見の目が泳ぎに泳いだ。


「いちお、もふもふの着ぐるみがぎゅうっと内側に圧縮されて中身が粉々コナゴナになっちゃったことはあるけど……その不具合は、完璧カンペキ取り除けたはず」

「爆発だってまだ3回くらいしかしてないし!」


「前例が怖すぎるんだけど……!?」


「大丈夫、大丈夫!」


 何が〝大丈夫〟なのかは分からないけれど、深見はとにかく元気よく言う。


「もしミキミキが大変な目に遭ったら、ウチが頑張って食い止めるから!」

「それに――ウチ、あのミキミキに勧誘スカウトされた一流イチリューの人材だよ?」

「ちょっとくらい、信じてくれてもいいっていうか?」


 ぽふ、と自信満々に大きな胸を叩く深見。


 その言葉に根拠なんてモノは微塵もないのだけれど――


「……確かに」


 不思議と説得力のある発言だ、とも思う俺だった。

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