5月30日(木)_下心の有無はいかに《2巻2章冒頭》
「それで……
定期試験《星集め》の相棒に
そんな依頼、あるいは土下座が一段落してしばし、一条さんの
「念のために訊いておきますけど」
「
「へ?」
「下心って……」
何を言っているのやら、と(両手を床に突いたまま)少しだけ顔を持ち上げる俺。
「有り得ないだろ、そんなの」
「そもそも俺が何を企むっていうんだよ?」
「色々あるでしょう、思春期の男女ですし」
見上げた視線の先で、青空を写し取ったようなショートヘアがさらりと揺れる。
「チームメイトになれば、連絡先くらいは交換することになるはずです」
「それを使って、たとえば定期試験とは関係なく光凛さまをデートに誘う、など……」
「……別に、それが悪いことだとは言いませんが」
「いや……ない、ないって。ないない、ないないない!」
あまりにも非現実的な仮定に無数の否定を重ねる。
「デートなんて死ぬほどしたいに決まってるけど、誘えるわけないだろ」
「俺を買い被るなよ、不知火」
「格好悪いセリフを格好良く言わないでください、来都さん」
再びジト目を繰り出してくる不知火。
「じ、事実なんだから仕方ないだろ」
「何なら、最初の挨拶だけで数時間は軽く掛かりそうだ」
――だって、そうだろう。
一条さんと連絡を取り合う、なんてことになったら、それはそれは緊張するに決まっている。何しろデバイスで交わすメッセージは、握手会における一瞬の会話と違って一生残ってしまうんだ。それも、他でもない一条さんの手元に。
「…………」
そんな俺の返事を聞いて、ベッドに腰掛けた不知火はしばらく無言で髪を揺らしていた。何かを考えるような間。そうして彼女は再び俺を見つめると、何故かたっぷり溜めてから短く言葉を発する。
「あの、来都さん」
「なんだ、不知火?」
「――……応答待機時間、0秒ですか」
はぁ、と呆れたような溜め息が
「わたしが女の子として欠片も意識されていないことが逆説的に証明されてしまいましたね」
「まったく、来都さんのくせに……」
「い、いや、それはほら、えっと……」
言いたいことは分からないでもないけれど――メッセージでのやり取りと土下座状態での会話とではそもそもコンディションが違い過ぎる、ということだけは、言い訳として残しておきたい。
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