5月24日(金)_席数のパラドックス《2巻1章》

 永彩えいさい学園1学期末定期試験――《星集め》に関する最初の打ち合わせを終えた後のこと。


「そういえば、今さらだけど……」

「会議室の席順って、本当にこの並びで良かったのか?」


 広い室内を見回した俺は、ふとそんな疑問を口にした。


 ここ、完全犯罪組織【迷宮の抜け穴アナザールート】の地下アジトはつい最近完成したばかりの新築物件だ。俺や深見ふかみは数日前からちょくちょく遊びに来ていたものの、アジトとしての運用という意味ではまさしく今日が初日になる。


 とりあえず俺が最奥の誕生日席を貰い、左手側に天咲あまさきと深見、右手側に潜里くぐり音無おとなしが並んでいるのだけれど……まあ、特に吟味したというわけじゃない。


「こういうのって定着しちゃうとそのままになるからな」

「希望があれば今のうちに言ってくれ」


「うにゅ……」


 俺の呼び掛けに対する返事はすぐ隣……もとい、腰の辺りから。

 

 椅子をくっ付けて膝枕のような格好で頭を預けてきている潜里羽依花ういかが、いつも通り舌っ足らずで甘い声を紡ぐ。


「わたしの場所は、らいとのいるところだから……どこでも、いい」

「なんなら、椅子は4つで足りる……かも?」


「いや、それで言うなら3つだね」


 と――。


 そこへ謎の割り込みを掛けてきたのは元天才子役・音無友戯ゆうぎだ。色素の薄いベージュの髪をさらりと流し、聞き取りやすい明朗な声で告げる。


「何しろ僕は『カグヤちゃん様の椅子になりたい』って前々から思っていたからね」

「僕の分の椅子は必要ないよ。ねえ、ライト?」


「…………」

「だったら天咲の分もらなくなるから、もはや2つで足りないか?」


積木つみきさん、積木さん。突っ込みが間違っていませんか?」


 音無のドM発言をスルーした俺に対し、くすくすと軽やかな笑みを浮かべながら眩い銀糸を揺らすお姫様。


 可憐な仕草でぴっと人差し指を頬に添えた彼女は、改めて小さく首を傾げる。


「音無さんの申し出は嬉しいですが……椅子になりたいということなら、私よりも適した方がいるかもしれません」

瑠々るるさん、どうでしょうか?」


「な、なな、なんでウチ!?」


 天咲のキラーパスを受けて、目を丸くした深見が勢いよく立ち上がる。ピンクレッドの毛先と共に白いカーディガンの裾がふわりと揺れた。


「ふ、普通に椅子に座った方が快適カイテキに決まってるじゃん!」

「ユーギなんて、せいぜい足置きくらいにしかならないから! ばーかばーか!」


「おぉ……罵倒ばとうも付いてくるなんて、なかなかお得なプランだねぇ」

「ルルちゃんから足蹴にされるのも案外悪くないかもしれない」


「シンプルにキモくてウザいんだけど!?」


 頬をひくひくと動かしながらド直球に文句を叩き付ける深見。


「…………」


 どうやら、それもまた音無のドMツボに刺さるらしい――というのを、最近になって知った俺だった。 

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