5月8日(水)_キラキラ系女子の憧れ《1巻4章》
――宿泊研修3日目、未明。
明日へ向けた仕込みをようやく終え、暗殺者の少女が一足先に館を後にした頃のことだった。
「……ん?」
コンコン、と響いたノックの音にそっと顔を持ち上げる。
こんな時間に無関係のクラスメイトが部屋を訪ねてくるはずはない。相手に当たりを付けてから静かに扉を開けてみると、そこには予想通りピンクレッドの髪を揺らす美少女が――もとい、つい数時間前に仲間になったばかりの〝マッドサイエンティスト〟が立っていた。
「あ……ごめん、だんちょー」
「もしかして、もう寝るとこだった?」
「いや、まだベッドにも入ってなかったけど……」
「とりあえず、入るか?」
「ん、ん!」
他の研修参加者に見つかるとマズいため、彼女を部屋の中へ入れる。
既に
いわゆる〝一軍女子〟である彼女がとすんとベッドの縁に腰を掛けた瞬間、果実のような香りがふわりと舞った。
「あはは……」
「なんかウチ、ぜんぜん寝れなくて」
「だんちょーならまだ起きてるかなって思って、遊びに来ちゃった」
「寝れない……ね」
「もしかして、意外と緊張してるのか?」
ベッドサイドの椅子に座りつつ首を傾げる俺。
明日の――日付で言うなら今日の――作戦は、彼女の手腕に掛かっている部分もそれなりに大きい。特に準備が要る役、というわけじゃないけれど、逆に言えばアドリブ力が必要だ。確かに、責任は重大かもしれない。
「ん……まあ、
「ちょっと違うかも」
けれど彼女は、俺の予想に反して小さく首を横に振った。
「どっちかって言うと、遠足の前の日的な感じ?」
「楽しみで寝れないの」
「……それは、なんていうか」
「肝が据わってるな」
「当たり前だよ、だんちょー」
微かに口元を緩めて、ピンクレッドの毛先をくるくると人差し指に巻き付ける少女。赤とオレンジの混ざった太陽みたいな瞳がじっと俺を見る。
「【■■■■■】の人たちの前でも言ったけど……ウチ、ずっと憧れてたんだもん」
「こうやって、仲間と一緒に大きな
「自分がアニメとか漫画の世界に入ったみたいで、超ワクワクしてるんだから!」
「そっか」
「……〝正義〟の側じゃない、ってところだけ、理想と違うかもしれないけど」
「え~? そんなの〝そういう
「だんちょーの目的が悪いコトじゃない、っていうのはウチも知ってるし」
「それに……」
……と。
そこで、カーディガンを靡かせたマッドサイエンティストな少女が不意にベッドから立ち上がった。両手を腰に添えた彼女は、少し覗き込むような格好で再び俺の顔を覗き込んで――
「ウチ、そもそも『悪の組織だって超カッコいい!』って思ってる派だから」
「これから一緒に
――思わず
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