5月7日(火)_詐欺師流の価値観《1巻3章終了後》

「ってわけで、これからよろしくね黒幕クロマクくん」

「同性同士、仲良くしてくれると嬉しいな」


 宿泊研修2日目――事件を通じてスカウトした〝詐欺師〟と改めて握手を交わす。


 やたら整った顔立ち、色素の薄いベージュの髪。元天才子役というだけあって、立ち振る舞いだけでなく声も表情も洗練されている。


「ああ、よろしく」

「クラスメイトとしても組織の仲間としても、今までより交流は増えることになるだろうからな」


「うんうん、楽しみだねぇ」

「ちなみに……例の完全犯罪組織のことだけど」

「〝怪盗〟ちゃんと〝暗殺者〟ちゃん、どっちも君が声を掛けたんだよね?」


「? ま、そうなるな」

「お前と――詐欺師と同じで、2人ともスカウトの理由ははっきりしてるだろ?」


「まあね、悪の組織にはもってこいだ」

「で――」


 ニヤ、と楽しげに頬を緩める詐欺師。


 他のメンバーは外しているため室内には俺たち2人しかいないのだけれど、演技の意味合いもあるのか分かりやすく声を潜めて尋ねてくる。


「君は誰狙いなのさ、黒幕クロマクくん?」


「……誰狙い、ってのは?」


「またまた、とぼけちゃって」

「大義があるのは分かるよ? 組織の目的だってちゃんと理解してる」

「でもそれはそれとして、僕らは思春期の男子高校生じゃないか」

あつらえたみたいに可愛い子ばっかりだし、さ」


「…………」


 言わんとしていることは分かるけれど。


「残念ながら、俺は永遠に一条いちじょうさん一筋だからな」

「誰狙いってこともない」


「へぇ?」

「じゃあたとえば、僕がメンバー内の誰かを好きになっても怒らないんだ?」


「……お前な」


「あはは」


 俺のジト目に破顔で返す詐欺師。


「冗談だよ、冗談」

「こう見えて僕、昔から女の子には全く縁がないからねぇ」

「見た目はそう悪くないと思うんだけど……」

「10分、いや5分も話してると嫌いになるってよく言われる」


「……それは、お前がいつもうそばっかりいてるからだろ?」


「うん」

「何なら、今のも嘘だからね。本当は1分くらいが限界だ」


「何の見栄みえだよ……」


 両手を頭の後ろへ回して飄々と笑う詐欺師に溜め息を吐く俺。


「あはは」


 すると詐欺師はもう一度笑った。


「まあ安心してよ。僕、今のところ〝誰かを騙す快感〟が何よりも上等だからさ」

「価値観が変わらない限り人を好きになることもないね」


「……ん」

「『嘘だけど』、とか言わなくていいのか?」


「嘘じゃないからねぇ、こればっかりは」

「だから……」


 そうして彼は、興味深そうな瞳で俺を見て。


「……一途に追い掛けられる誰かがいるっていうのは、ちょっと羨ましいかな」


 飾らない声音でそう言った。

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