5月6日(月)_お泊り会の誘惑《1巻3章》
「~~~♪」
宿泊研修1日目、夜。
俺に与えられた個室では、銀色の髪を揺らすお伽噺のお姫様――もとい〝怪盗〟の少女が、ベッドいっぱいに色とりどりの筆記用具を広げながら鼻歌交じりに完全犯罪組織【■■■■■】のロゴマークを作っている。
作業としては、明日から始める〝暗躍〟のための事前準備みたいなものだ。適当なものでもいいと言えばいいのだけれど、やっぱり気合いの入り方が違う。
(ん……)
違うと言えば、彼女の格好もいつもとは違う。
見慣れた
「ここを、こうして……ふふっ、こういうのも可愛いかもしれません」
「…………」
「あの、
綺麗な横顔を眺めていると、不意にふわふわの銀糸が目の前で揺れた。
「っ……わ、悪い、ぼーっとしてた」
「どうした?」
「どうもこうもありません」
「私たち【■■■■■】のロゴマーク――こういうのはいかがでしょう?」
じゃーん、とばかりに広げられる紙。
そこには無数の試し書きと、それらの集大成として生み出された格好良くてお洒落な紋章らしきロゴマークが描かれている。
「おお……さすが、めちゃくちゃクオリティ高いな」
「目立つし、分かりやすいし……」
「あと、とにかくカッコいい。それだけでも合格レベルだ」
「ふふっ、ありがとうございます
嬉しそうに頬を緩める怪盗少女。
「ですが、これも案の一つでしかありません」
「せっかくですから、他のパターンももう少し考えてみましょう」
「だな」
「
そんなこんなで、再び2人してペンを走らせる。
「~~~♪ ~~~~♪」
「ここに、これを……これも、こっちにも……」
「……………………」
「……?」
――そうして1時間ほどが経った頃だろうか。
ふと、片方の肩に重さを感じた。
「すぅ、すぅ……」
見れば、視界の真ん中で大写しになるのは穏やかな寝息を立てる銀糸のお姫様だ――きっと、考え疲れてしまったんだろう。すっかり脱力して、安心し切った様子で俺に体重を預けてきている。
それ自体は、別にいいんだけど。
(いや、これ……)
ジャージ越しにじんわり感じる体温、鼓膜を撫でる甘い吐息、時折肌をくすぐってくる柔らかな髪。何よりベッドの上というシチュエーションがいただけない。否応なく心臓が高鳴り始めて、ごくりと唾を呑み込んで、その瞬間。
「――ふふっ」
「!? お、起きてたのか……?」
「はい、少し前から」
「
「――……ドキドキ、してくれたんですか?」
くす、っと悪戯っぽい問い掛け。
このお姫様は、色々な意味でやっぱり手強いみたいだ。
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