4月29日(月)_最強同士の序列争い《1巻3章冒頭》

「はぁ、はぁ……」

「……んっ」


 俺の背後で好奇心旺盛な怪盗少女、もとい銀糸のお姫様が手早く下着を直している音が聞こえる。


 どうにも不埒ふらちな想像をしてしまうシチュエーション――だけど、何も初対面から1ヶ月足らずで〝そういう関係〟になったというわけじゃない。


「どやぁ……」


 すぐ隣で得意げな横ピースを決めているのは、実行犯である暗殺者の少女だ。


 ――そう。


 完全犯罪組織に2人目のメンバーが加わった直後、永彩学園内で新たな活動拠点アジトを探していた折。


 スカウト時の攻防から早くも怪盗少女を〝ライバル〟と認識している暗殺者の攻撃が、お姫様の背後から的確に下着のホックを外していた。


「かんぜんしょうり……」


 舌っ足らずな甘い声がすぐ近くから耳朶を打つ。


「やっぱり、わたしの方がさいきょう」

「ほめて、ほめて?」


「あ、ああ……さすが天才暗殺者だな」

「いやまあ、俺からしたら2人ともめちゃくちゃ強いけど」

「何が起こってるか全然分かんなかったし……」


「? じゃあ、あのえっちな下着もみえなかった……ってこと?」

「それは、ざんねんむねん」

「……もういっかい?」


「えっ」


「――させません」


 瞬間、まだ顔が赤いままの怪盗少女がムッとした顔で割り込んできた。


 片手で胸を隠した彼女はふわりと銀色の髪を横に振る。


「というか、今のも負けたわけではありません」

「単なる不意打ちですから」


「いいわけはむよう」

「負け犬のとおぼえ……やーい、やーい」


「……ふふっ」


 サファイアの瞳があやしく光って。


「すみません、黒幕さん」

「私、ちょっとこの子に〝序列〟というものを教えてあげないといけないので……」

「――本気を、出しますね?」


「え」

「ふにゃぁああああああ!?」


 ……詳細は、想像にお任せするけれど。


 空き教室いっぱいに轟いたのは不敵な笑みと、かよわくてつややかな悲鳴だった。

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