4月26日(金)_慰めのハプニング《1巻2章終了後》

「こんばんは、黒幕さん」

「……なんか、先週よりやつれていませんか?」


 深夜の密会――。

 男子寮の一室、もとい俺の部屋を訪ねてきた水色の髪の協力者は、きょとんと首を傾げながら開口一番にそう言った。


「まあな……」


 やれやれとばかりに肩を竦める。


「何せ、最強の暗殺者に殺されかけたところだ」

「……依頼したのは俺だけど」


「そういえばそうでしたか」


 こくり、と軽い調子で頷く少女。


「どこか怪我でも?」


「いや、そういうわけじゃないけど」

「精神的にっていうか……疲れたんだよ、単純に」


 ベッドの縁に腰を下ろす。


 伝説の暗殺者組織マーダーギルド【K】所属の天才――と思われていた少女――に自分自身の暗殺を依頼して、実際に喉元へとナイフを突き付けられた。


 その後の〝交渉〟も含め、生きた心地がしなかったのは間違いない。


「まあでも、おかげで暗殺者あいつのスカウトには成功したし、大事なことも分かった」

「もしかしたら……本当の意味で、仲間になれるかもしれない」


「……そうですか」

「黒幕さんの〝仲間〟は、わたしだけだと思っていたんですけど……」


 どこか拗ねたように唇を尖らせる協力者の少女。


「?」

「せっかく作戦が進んだってのに……なんか、不満そうだな?」


「不満そうなんかじゃありません」

「それともまさか、わたしが黒幕さんに嫉妬している……とでも?」

「違いますから、断じて」

「夜な夜な会いに来ているからって、変な勘違いはやめてほしいんですけど」


「ええ!?」


「全くもう、これだから黒幕さんは……」


 ふるふると左右に揺れる水色の髪。

 

 お得意のジト目で俺を見つめた彼女は、そこでおもむろに懐からデバイスを取り出した。小さな画面に写っているのはブロンドの髪の女神、もとい少女。見慣れた憧れの女の子……ただ、纏っているのは見慣れた制服それじゃない。


「ま、まさか、それ……」


「スカウト成功のご褒美――になる予定だったものです」

「ですが、こうなると迷ってしまいますね」

「デリカシー皆無な黒幕さんには、光凛ひかりお嬢様のオフショットを見る資格など――」


「!?」

「そ、それだけは!」


「ひゃぁっ!?」


 飛び掛かった――つもりはなかったけれど、2人の動きがちょうど悪い方向に噛み合った。具体的に言えば俺の手が彼女の胸元に、柔らかいところに触れている。


「ん、ぁっ……」


 零れる嬌声。

 ビクンと肩を震わせた少女は、やがてふるふると身体を震わせながら、


「――殺します」

「今すぐ、事故ではなく明確な殺意をもって……ッ!」


「悪い! ごめん、本当にわざとじゃないから!?」


 ……数秒後。

 男子寮の片隅に、俺の悲鳴が轟いた。

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