4月18日(木)_物騒で華麗なテクニック《1巻2章冒頭》

「なあ」

「お前の《才能クラウン》――《森羅天職アームズ》のことだけど」

「〝どんな武器でも操れる〟んだよな?」


「はい、その通りです団長ボス


 くすっ、と笑いながら上品に頷く少女――もとい、天下の大怪盗。

 陽光の下で透き通るような銀糸がキラキラときらめく。


「刃物や銃器はもちろん、ワイヤーも縄も毒薬も戦闘機も……」

「実際の使用経験に関わらず、どれも軽々と操れちゃいます」


「へぇ……」


 物腰も口調もお姫様みたいに柔らかだけど、話の内容は物騒なことこの上ない。


 ただまあ、それはともかく。


「確か【怪盗レイン】の異名もその辺から来てるんだよな?」

「軍隊を傘一本で蹴散らした、とかなんとか」

「それはさすがに誇張だろうけど……」


「ふふっ、そんなこともありましたね」


 ふわりと口元を緩める怪盗少女。


「ドキドキを増量するために〝縛りプレイ〟をしてみたのですが……」

「おかげでギリギリまで追い詰められて、とっても素敵な経験ができました」


「……実話なのかよ」


「もちろん」

「これが嘘だったら、現実の私が嫉妬してしまいますから」


 冗談めかした声音と共に、彼女はくるくると人差し指を回す。

 すぐ隣で上品な銀糸が揺れると同時、フローラルな甘い香りがふわりと鼻孔をくすぐって。


「それに……きっと、団長ボスが知らない事件も色々ありますよ?」

「たとえば、ビー玉をたくさん持って某才能犯罪組織クリミナルギルドのアジトに忍び込んでみたり」


「ビー玉……」

「それって、最終的にどうなったんだ?」


「敵組織の方々を片っ端から転ばせて、制圧してから脱出しました」

「実写版ホー○アローンとは私のことです」


「…………」


 一応、想像はできるけど。


 才能犯罪組織クリミナルギルドのアジトを派手に荒らしているんだから殺されたって何の文句も言えないし、下手に痕跡を残したら正義の捕獲者ハンターたちに追われてしまう。


 それなのに身体が火照ほてるくらい悦べるのは、ちょっとレベルが違い過ぎる。


「ふふっ」


 嬉しそうに笑うお伽噺のお姫様。

 そうして彼女はとんっと俺の隣に片手を突いて、上半身を軽く捻って。

 あやしげな上目遣いでこちらを覗き込む。


「ですが――」

団長ボスの作る完全犯罪組織では、それよりももっと素敵なスリルが味わえると聞いていますから」

「いっぱい、期待していますね?」


「……ああ、そうしてくれ」


 好奇心とワクワクに満ちたサファイアの瞳――。

 そんなものを真正面から見つめ返して、俺は覚悟と共に頷いた。

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