3月22日(金)_ターゲットは大怪盗《1巻1章開始前》
「完全犯罪組織のメンバー集め……」
「まずは〝怪盗〟さんのスカウト方法についてです」
ベッドに腰掛けた協力者の少女がピンと人差し指を立てる。
「通称【怪盗レイン】――本名も出自も外見も、何もかも不明の
「被害額は数百億とも数千億とも言われていますが、正確には分かっていません」
「分かってない?」
「はい」
「というのも、盗みの対象がほとんど
「計算しようがないんです」
ぷく、と頬を膨らませて肩を竦める少女。
青空の色に似たショートヘアがさらりと左右に揺れる。
「ええと……」
好物の小粒チョコを1つ口に運んでから、少女は改めて説明を続けた。
「持っている《
「武器を自在に操る
「武器っていうと……ナイフとか、銃とか?」
「もちろん、それも」
「ただ〝本人が武器と認識できるモノ〟なら何でもいいみたいで」
「たとえば折り畳み傘で空を滑空したり、ノートの切れ端で車を解体したり……」
「嘘みたいなエピソードが大量に転がっていますけど」
「…………」
少女が語る強烈で意味不明な伝説譚。
ごくり、と唾を呑み込んで、どうにか素直な感想を口にする。
「……強すぎないか?」
「はい、
「ただ……〝だからこそ〟の人選ですから」
「黒幕さんの計画はそこそこ途方もないので、簡単に捕まるような人では意味がありません」
「そ、そうかもしれないけど……」
「どうすんだよ、これ」
思わず頭を抱えてしまう。
……世紀の大悪党【怪盗レイン】。
俺が〝世界を救うための完全犯罪組織〟に誘おうとしている最初の相手は、世界中の誰もが知っているレベルの
全てのエピソードが規格外すぎて、たちまち自信がなくなってしまう。
「……もう」
そんな俺を、ベッドの上の少女がジト目で覗き込んできた。
「いきなり弱気にならないでください、黒幕さん」
「一応、秘密結社の〝リーダー〟なんですから」
「リーダーって言っても、まだ完成すらしてない組織なんだって」
「今は大目に見てくれよ」
「はぁ」
「先が思いやられますけど……」
これ見よがしな溜め息が一つ。
次いで、ふるふると水色のショートヘアが揺らされて。
「とりあえず、色々と案を出していきましょうか」
「遅くとも4月の中旬までにはスカウトを終えないと間に合わないので」
「だな」
思考を巡らせるため、身体の前でそっと腕を組む。
「じゃあ……えっと」
「たとえば、全力で土下座とか?」
「……あの、黒幕さん」
呆れの色を増したジト目がもう一度俺を真っ直ぐ見つめる。
「プライドとかないんですか?」
「だ、だってさぁ!」
破れかぶれの声を上げて対抗する俺。
言いたいことは分かるけど……とはいえ、こんな大物を相手にする方法なんてそう簡単に思い付くはずがない。
――けれど、
「単純な話です」
そんな俺の前でパタパタと素足を揺らしながら。
協力者の少女は不敵に笑みを浮かべると、挑むような声音でこう囁いた。
「せっかくの秘密結社なんですから――〝完全犯罪〟で挑みましょう」
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