3月12日(火)_メンバー選抜会議《1巻1章開始前》

「黒幕さん」

「完全犯罪組織のことですが……具体的なメンバーはどうするんですか?」


 未来を変えるために〝完全犯罪組織〟を作ると決めてからしばし。

 ベッドの縁に座った協力者の少女が、水色のショートヘアをさらりと揺らす。


「まあ、大方おおかたの想像はできていますけど……」


「……そうだな」


 小さく頷く。

 きっと、その辺りの共通認識はもうできているから。


「多分、お前が考えてる通りの面子メンツだよ」

「怪盗と、暗殺者と、詐欺師と、マッドサイエンティスト……」

「今後の〝夢〟次第で変わる可能性はあるけど、今のところその4人で確定だ」


「……む……」


 俺の言葉を受け、何やら不満げに口を噤む少女。

 ……って、不満げ?


「えっと、どうした?」


「いえ」


 ぷい、とそっぽを向かれる。

 分かりやすく膨らんだ頬、流し目に近い紺色のジト目。

 ……そして、


「黒幕さん、目の前に誰がいるか分かっていますか?」

「それと、今の時間は?」


「誰って、そりゃお前しかいないけど……」

「時間はまあ、深夜1時ってところかな」


「どちらも正解です」


 こくん、と頷く少女。


「つまり、もうすぐ高校生になろうという男女が、深夜に同じ部屋にいるわけです」

「何なら手の届く距離に」

「それなのに、黒幕さんの悪巧みにわたしは誘ってもらえない……と」


「え」


 嫉妬したような声音に思わず声が裏返る。


「いや、だって……それは、立場的にっていうか何ていうか」

「どっちにしろ協力者なんだから、悪事には誘われない方が良くないか?」


「分かっています」

「分かってますけど、何となく腹立たしくなってしまっただけです」

「つーん」


 珍しく擬音を口にしてまで拗ねる協力者の少女。


 ……まあ、気持ちは分からないでもない。内容の良し悪しはともかく、何かに〝誘われない〟というのはそれだけでちょっと物寂しいものだ。

 だからこそ。


「なあ」

「甘いチョコとしょっぱいスナックなら、どっちが――……」


「――甘い方で」

「黒幕さんも気がくじゃないですか、意外と」


 満足げな即答――。

 彼女が好む甘いお菓子でどうにか機嫌を取る俺だった。

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