第3話 疑いと望み

 これは、どうしたことだろうか。

 彼女はマーキュリーに促されるままに歩みを進め、荘厳なる石門を潜った。

 どことなく、心臓が薄い膜のような物で覆われ、他人のものになってしまったかのような違和感を感じる——ここは、ただの書斎ではないのか?

 だが、同時に、彼女は安心感を覚えていた。

 敵地とも言うべき、見知らぬ御殿の中心で、私が、安心感を?


「……アンタが、アルカヘストか?」


 ヴィオラは、声を絞り出した。

 ハハ、とかれは笑う。同時に、左耳から垂れ下がった黒ずんだ水晶のピアスがふらふらと揺れた。

 かれの灼けるように優しい視線が、ヴィオラの視界を貫いている。

 ただ、数秒もしない内に、彼女を襲っていたえも言われぬ嘔吐感は元より存在しなかったかのように消え去ってしまった。

 つーっとこめかみを伝う汗を顎に溜めながら、閉じかけた眼を開く。


「いかにも、その通りです。ほら、私は特徴的な外見をしているでしょう?こと、他人に覚えられることに関しては自信があるんです。思うに、君もすぐに覚えられるでしょう」

「特徴的、か」


 そう、眼前に立つ黒髪の巨人は、確かに特徴的な見た目をしていた。

 砂漠で着用するには不適切としか言いようがない、厚手のジャケットを羽織っていることなどこの際どうでも良い。

 それよりも、黒白の反転した右眼と瞳が真紅に染まった左眼で構成されるオッドアイであったり、一種の違和感を感じさせる両性の特徴を兼ね備えた骨格であったり、明らかに超人的な背丈であったりの方が、目に付いてしまう。


「チッ……なるほどな」

「ヴィオラさん、何か?」

「この世界は知らないことだらけだ、と改めて思い知らされただけさ。大したことじゃない」


 それから、彼女はゆっくりと銃の柄から手を離した。


「もうそろそろ良いですか?」

「何がだ」

「入室してからというもの、絶えず私のことを見つめているでしょう?そのように見つめられるのも悪くはありませんが、より大事なお話がいくらかありますからね」

「見つめられていようと、話はできるだろうが」

「フフ。確かにそうかもしれません。しかし長話となると、どうにも悦に入ってしまっていけません」

「なぁ、マーキュリー。お前んとこの“旦那様”はどうなってんだ?」


 顔を顰めながらヴィオラは、涼しい顔で控えているマーキュリーに視線を送る。

 確かに彼は、アルカヘストのことを癖がある人物だと言っていた。

 しかし、何というか。

 想像していた癖の方向性とは、大分違う。


「私はこんな奴に雇われたのかよ?」

「直に慣れますよ」

「いや、そういう問題じゃなくてな……」


 まるで腫れ物扱いしているかのような目つきで、再びアルカヘストを見遣るヴィオラ。

 それが理由なのか、はたまた別の何かがかれのセンサーに反応したのか、兎も角アルカヘストは愉快そうに声を上擦らせた。


「もしかすると、君は私を嫌厭するかもしれませんね。しかし私は、そのように思ったことを口にできる性格の人間が大好きです。君を雇えて、光栄に思いますよ」

「……。そういうのはいい。気にせず、話すべきことを話し始めてくれ」

「そうですか?このような雑談を、君は然程好まないのですね」


 どうして。そう、少し寂しそうにするんだ。

 それに、雑談が嫌いなのではない。今は雑談どころじゃない、というだけだ。


「では、僕はここで失礼します」

「そうですね、これ以上君をここに縛り付けておくわけにもいきません。良くここまで安全に彼女を連れてきてくれましたね。今日中に報酬を運ばせておきますから、マーキュリー君の方でも確認しておいてください」

「分かりました。それでは」


 それから、マーキュリーはヴィオラの背中を軽く叩いた。

 ふと、二者の視線が交差する。

 彼の表情は起伏に乏しく、感情は読み取り難いが、その様子からしてヴィオラにエールを送っているようだった。

 どうしてそのようなことをするのだろう?

 アルカヘストと会話すると、体力を大幅に削られるから?

 それとも、これから話されるであろう真実の一端を飲み込むこと自体、あまりに大変だから?

 いや、もしかするとその両方かもしれない。

 彼は何を語る訳でもなく、澄ました様子のままその場を後にする。

 いつにも増して、仕事後に呑むアルコールが恋しかった。


「……マーキュリーはいつも、こういう仕事をやってるのか?」

「いや、今日は特別ですよ。彼は私の部下であると同時に、メイドでもありますからね。いつもは、身の回りの管理を任せています」

「メイドだぁ?」

「あのように見目麗しく儚げな青年をメイドとして雇うことに、疑問を抱く余地がありますか?」

「……」


 なんてやつだ。


「さて、このような無駄話は重要なことを話し終えた後にしましょう。まずは、改めて。長旅お疲れ様でした、ヴィオラ=プロフリゴ君」

「さっきも言ったろ?社交辞令は要らねぇ。正直、私はまだアンタを疑ってるんだ」

「その理由を聞いても?」

「理由はたった二つだ。アンタらが、クラリアの名前を使っていること。そして、今まで依頼の詳細を殆ど私に開示しなかったこと」


 アルカヘストは、顎に手を当てながら物憂げに眼を伏せる。


「それらは、君が私を疑うのに足るものなのですか?」

「あぁ。正直、それ以外にも細かい理由はある。でも、ここが解消するなら、アンタに従うのもやぶさかじゃない」

「あなたのような、慎重で腰の重い優秀な傭兵でさえ、曖昧模糊な渓谷に飛び込もうとすることがあるのですね。何が君の背中を、そこまで強く押しているのか……」


 どんよりとした言の葉が、獲物に絡み付く蛇のようにヴィオラの身体を締め付ける。


「何が言いたい?」

「それは、再びクラリア=スカーレットに会えるかもしれない、という一筋の光明なのでしょうか?」


 刹那、彼女は沸騰する感情に任せて銃を取り出し、引き金を引いた。

 迷いは無く、そこにさしたる理由も無い。

 両手では数え切れない程の骸の山を築いてきた彼女にとって、殺してしまうかもしれない、という懸念は枷になり得なかったのだ。

 的確に脳天を撃ち抜くよう標準が合わせられた弾は、螺旋状に巡る風を纏いながら空中を直進する——


「……」

「相変わらず、その鉄の筒は耳に響く音を出しますね?実は私は、大きな音が苦手なんです」


 彼女はゆっくりと、腕を、銃を、怒りの体現を、下ろした。

 仮に幸運の女神が微笑んでいたとすれば、それは眼前の人物が鉛玉など意に介さない存在であったことだろう。

 血飛沫で大窓を塗装して然るべき、効率を突き詰めた美しい流線形の凶弾は、その実、アルカヘストの巨大な掌の内に収まっていた。


「ご、ご主人様!何の音ですか!?」

「あぁ、問題ありませんよ。物を落としただけですから」

 

 慌てた様子で呼び掛ける、通りすがりなのであろう使用人を扉越しに退かせながら。かれは鉛色の飴玉を指先で弄び、ガムのように潰したり、伸ばしたり、曲げたりしてみせている。

 まるで、それが至極当然の行為だと言わんばかりだ。


「意地の悪い言い方をしたと、自覚はしていますよ。ただ、その反射的な行動で君の実力と覚悟を推し量ることができました。これは、相当なものですね」

「それはどうも。ただアンタ、こんなことして私が従うと思ってるのか?」

「勿論です。君は、極めて強力な動機を持っていますからね。加えて、私はこれから、ヴィオラ君が納得できるだけの情報を提供するつもりでいます。厳密に言えば、これはあくまで協力であって、私に従わせよう、などという意図は元より無いのですが」

「アンタにどんな意図があるかなんて関係ねぇだろ。私がどう感じるか、だ」

「違いありませんね。人間を動かすのは結局の所、論理ではないのですから」


 それから、かれは幾重にも折り畳まれて原型を失った弾丸を灰皿の上に置き、机の天板から立ち上がった。

 元より威圧感の漂っていた巨体が二本の長い脚ですっくと聳え立っており、その衝撃たるや、初めて月牙泉の雄大な建築を眼にした時のものと何ら変わりない。いや、寧ろ、それが自ら近づいてくるだけに、アルカヘストを眼にした衝撃の方が大きいように思われる。


「ハッ、アンタ、一体何センチあんだよ」

「さて、どれくらいでしょう。このスーツをオーダーした時は、凡そ2.5mだったと記憶していますが」

「本当に人間か?」

「人間でも、これくらいの背丈になることはあるでしょう?」

「アンタが男だろうと、女だろうと、戦場じゃあそんな奴は見かけないが」


 一瞬抑え切れないところまで膨れ上がった敵意を押さえつけながら、ヴィオラは溜息を吐く。


「話を戻しましょう。先程は、嫌味な言い方をして申し訳ありませんでした。お詫びに、まずは君の疑念を解消するところから始めましょう。単刀直入に言うと、私も、クラリア=スカーレットという存在に関して殆ど知らないのです」

「……嘘はつくなよ。それと、煙に巻くような言い方もやめてくれ」

「誓いますよ。というのも、私とアレイスター=クロウリーの間にはそこまで強い繋がりが無いのです」

「ならどうして、アイツはアンタのことを私に紹介した?」

「私たち月牙泉は、彼らにとって業務委託先のような存在なのでしょう。もしかすると、複数存在する派遣先の中で、最も君と相性が良いと彼らの判断する場所が、ここだったのかもしれません」

「仮にそうだとすれば、アイツらの眼は腐っているらしいな」

「フフ。そうでもないと、私は思いますよ」


 口元を三日月のように歪めて声を漏らすアルカヘスト。

 いつまで経っても、その笑みが絶やされることはないらしい。


「じゃあ、なんだ?“旦那様”は、あくまでアレイスター=クロウリーから下された仕事を受け持っているだけでその詳細は聞かされていないってことか?」

「概ね、その認識で間違いありませんよ。だから、何故彼らがクラリア=スカーレット——即ち、君のかつての愛人が、まるで生きているかのように振る舞い、その名前を用いているのかは、私の知るところではありません。……ただし」

「ただし?」

「彼らは君と、クラリアのことを良く知っています。まるで、本人に尋ねたのか、と思う程に。だから、これに関しては神に誓って、真実であると保証しましょう。クラリア=スカーレットは生きています。君が望むなら、旅路の果てに再会することも可能でしょう」

「……」


 普通ならばここで、物的証拠が無ければ信じるに値しない、と言うところだが。

 彼女は既にあのカジノで、物的証拠を得ている。

 クラリアのロケット……あれは、紛れもない真作だ。それを送り、また埋めた張本人であるヴィオラの眼は誤魔化せない。


「これで、一つ目の疑念を解消できたでしょうか?彼らがクラリアの名前を用いているのは、彼女が生きており、また彼女の存在がクロウリーを始めとするメンバーの計画の中枢にあるからです。ただ、これ以上のことは私には分かりません」

「分かった、十分だ。私は無数の嘘吐きと相対してきた。だから、多少なりとも信じて良い奴と信じちゃダメな奴の違いくらい分かる。クロウリーはまず間違いなく後者

だったが、アンタはどちらかといえば前者らしい」

「おっと。これは嬉しいことを言ってくれますね?」

「とっつきにくい野郎だってことを抜きにすれば、の話だがな」

「残念です。君を抱くことができる日は、まだまだ遠そうですね」

「はぁ?」

「冗談です。さぁ、次の弁明に移りましょう。確かそれは、ここに至るまで一切の説明を行わなかったことに関する疑義でしたね?」


 かれはそのように問うや否や、ゆっくりと歩き出しヴィオラの隣で立ち止まった。

 そして、徐に腰を軽く折ると、視線の高さを彼女に合わせる。


「これに関しては簡単ですよ。その方が、効率的だからです」

「効率だぁ?それで、私がここまで来なかったらどうする?」

「過去の仮定を議論しても仕方がないでしょう?君は疑念を抱きながら、それでもここへやって来た。それ以上でも、それ以下でもありません。尤も、全ては私の掌の上だった、などと言うつもりは毛頭ありませんよ?特に、あの一言で銃を向けられることになろうとは、予想だにしていませんでした。私は君の思いの強さを図り違えていたと言って良いでしょう」

「じゃあ、帰って良いか?」

「フフ。確かに、クラリア=スカーレットの生存が確実になった以上、そのような手段を取ることも誤りではないのかもしれませんね」

「……」

「私は、君の選択を尊重しましょう」

「チッ。分かった、続けてくれ」


 そう来なくては、と微笑むアルカヘスト。

 世界連合とハダーシュ砂漠を隔てる三重防壁のように揺るぎないその姿は、斜に構えがちなヴィオラの神経を逆撫でする。

 ただ、全てを見透かしているかのようなかれの振る舞いを見ていると、傭兵たちを纏め上げるボスとしては信頼に足る人物なのではないだろうか、とも思えた。

 認めたくないが。


「恐らく、これだけは伝えられているでしょう?曰く、充てがわれたタロットカードを忘れずに持っていくように、と」


 緻密なミニアチュールの描かれたカードを、かれは見せつけるようにくるくると回してみせる。

 表と思しき場所には、何も描かれていない。


「……これか」


 胸ポケットに入れておいた、あのカード。

 彼女のものには、絵が描かれている。

 キューピッドと、卵にとぐろを巻く蛇の間に、幾つもの雌雄の象徴が散りばめられた抽象画が。


「そう、それです。絵柄の意味は分かりますか?」

「さてね。私の専門は少しでも多くの物を壊すことであって、物を創ることじゃねぇんだ。生まれつき、そういうものを見分ける眼は鈍く作られてある」

「君がそれで納得しているのなら、私から言うべきことは何もありませんね。まぁ実際、大したものは描かれていません。ただ一点、重要なのは、そのカードが君に強大な力を与える、ということです」

「力だぁ?」


 彼女は知っている。力というものは、一朝一夕で簡単に手に入るものじゃない。

 武器を扱うにしても、その技術が使い物になるまでは、途方もない訓練を必要とするのだ。

 それにも関わらず、このすぐにでも燃やしてしまえそうなカードが、彼女に力を与えるなどと。


「冗談を言うならもう少し現実味があって笑えるものにしてくれないか?でないと、次はナイフで殴り掛かっちまいそうだ」


 馬鹿げている。


「衝動的に人を黙らせるのは君の癖ですか?それに、ヴィオラ君の言う通りです。ウィットというものに疎い私ですが、このような悪い冗談など言いません」

「……メカニズムは?」

「それは重要ですか?」

「当然だろうが。そんな甘い話は、この大陸じゃあり得ねぇ。仮に存在するとすれば、甘さに釣り合うだけの苦味があるに違いない。そうだろ?」

「成る程、確かにそうかもしれません。何の代償もなく加護を得られるなど、俄には信じ難い話ですから」

「回りくどい言い方だな、さっさと要点を話してくれ」


 かれは歩きながらヴィオラの周辺を一周すると、元々座っていた、黒漆の机の上に再び腰を下ろした。

 銀製のネクタイピンが揺らめく蝋燭の炎を反射して煌めいている。

 それは実に、アルカヘストの光なき瞳と対照的だ。


「君は、私の元で長きに渡る戦いに臨むことになるのです。これこそ、力を得る対価。この世の理に沿った代償。君は納得できますか?」

「戦い、か。聞き慣れた言葉だが、アンタらは何と戦うつもりなんだ?」

「そうですね。強いて言えばそれは、あらゆる災厄との戦いと言えるでしょう。例えば戦乱、虐殺、災害、海嘯、或いは四獣という名の古き病巣……」

「四獣……?まさか、アンタが言ってるのは、あの四獣のことじゃないだろうな?」


 四獣。

 その言葉は、この大陸に住む人間ならば誰もが知っている。

 かつて、大陸は大いなる災禍に悩まされていた。

 それこそ四獣。四柱の神にも匹敵する力を持った獣たち、古来より大陸を侵犯し続けて来た大いなる古の病魔。


「『境界の大蛇』アイダウェド。『存続の七冠』マスターテリオン。『蒼海の大賢』タンガロア。『三界の聖王』アルフヘイム。彼、彼女らは、500年前に次々と現れた英雄たちによって討伐、封印され、姿を消しました。君もご存知でしょう?」

「どうして、姿を消した化け物共と戦う必要がある?」

「理由を明言する必要がありますか?初歩的なことですよ」

「……」


 彼女は、一種の煽りにも聞こえるアルカヘストの言葉を聞いて、不快そうに顔を顰める。

 そんなわけない、と思いながらも、想定していた可能性。

 初歩的と言うからには、答えは単純明快であるはず。


「この500年は偶々悪影響が出なかっただけで、消え去ったわけじゃないのか?」

「80点を差し上げましょう。誤っているのは、偶々、という部分です。500年前、其らは確かに抑圧されました。しかし、それは永遠ではない。いつかは再び、その姿を現すでしょう。ともすれば、500年前の英雄に代わり、今の誰かがこの責務を担わなくてはなりません」

「そんなことが——」

「では君は、クラリア=スカーレットが今なお生きている理由を説明できますか?」

「……私の言葉とその質問に、何の関連がある」

「君のその困惑は、これまで培われてきた人類の絶対性によって裏付けされたものです。私は今、それが誤りである、もしくは疑うに値する価値観だ、と教えて差し上げているだけですよ」


 なれば、彼女もまた正面からこの問いに挑まねばなるまい。

 それに、この問いかけには、簡潔かつ効果的な答えが一つ存在していた。

 ただ一言、否定すれば良いのだ。


「かっ……」


 喉が詰まり、声が押し込められる。

 しかし。彼女にできるだろうか?

 否、できるわけがない。


「フゥ……。もう一押ししてくれ。そうでないと、頷けない」


 数年の時を越えて溜まりに溜まった思いは如何ともし難い。

 それに、ただの現実逃避にしかならない可能性だってある。

 その場の勢いで、一縷の希望を捨て去るわけにはいかなかったのだ。

 追い詰められていようと、調子を崩さず。疑うべきところを疑い。聞き返すべきところを当然、聞き返したとしても。彼女が藁にも縋る思いで、再会という名の悲願をこの出会いに託していたことは、揺るがしようのない事実だった。


「フフ。本当に、慎重なお方ですね。良いでしょう。それでは、私が密かに考えていることをひとつだけ。特別ですよ?」

「分かった、教えてくれ」

「アレイスター=クロウリー、そして彼のバックに潜む見えざる集団の正体が何なのか、私もここのところずっと、気になっていました。もしも君が望むなら、協力することもやぶさかではありません」

「それは、クラリアについても、なのか?」

「彼女がクロウリーと深い繋がりを持っているとすれば、自ずと調査範囲に入ることになるでしょう」

「……」


 一瞬の沈黙、逸らしていた視線。

 ここ数年考え続けていたことに加えて、この数分間に齎された情報が、彼女に決断を促す。


「さぁ、決断の時ですよ。ヴィオラ=プロフリゴ君」


 そう、かれの言う通り。今この瞬間こそ、ターニングポイントだ。

 こうと決めた時には、既に前を向いていた。

 そもそも、退路などないと初めから分かっていたのだから。


「決めた」

「君の導き出した答えを聞きましょう」

「協力する」


 彼女は、熟考の後に導き出された曇りなき答えをはっきり、口にした。

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