第6話
フェイロンはどうやら、親切心から彼女に考え直せと言いたいようだ。
残念ながら、その無愛想な表情のおかげでかなり誤解を生んでいるようだが。
少なくとも俺は誤解した。
「あの、でも、ご忠告ありがとうございます。私はセレン・ハーシュです。クラスはウィッチです」
女の子が深々と頭を下げたので、俺もフェイロンもつられて同じ動作をする。
「改めて、ボクはフェイロン。ファイターだ」
「アスマだ、二人ともよろしく。クラスはトーカー」
「トーカー? 初めて聞くクラス名だ」
「だよねー。俺もまだよくわかってないんだよ」
セレンがウィッチということは、簡単な火球や氷柱の生成はできるのだろう。ファイターのフェイロンは自分の肉体を武器にした格闘技だな。どちらもモンスターとの戦闘に向いている王道のクラスだ。
うーん、比較すると、自分のクラスに改めて不安がよぎる。
そうこうしているうちに馬車はだんだんと登りの山道を進み、森の中でぽっかりと開いた広場にとまった。
俺、フェイロン、セレン、そして白いローブの魔導士が降り、馬車は次の目的地に向かって再び移動を始めた。
どうやら安全なのはここまでみたいだな。
さて、じゃあさっさと水脈のを確認してきますかねー。
「ではボクはここで」
フェイロンが小さく手を振り、そのまま振り返ることなく茂みを進んでいった。
「あ、じゃ、あの、私もこれで…! お話ししてくれてありがとうございました」
続いてセレンも動き始めた。
ギルドへの依頼と、その達成は早いもの勝ちというわけではない。
水脈の確認なんて4、5人が達成すればそれで良い気もするが…そこはゲームの世界だ、深く考えるのはやめにしよう。
まあ、こういう探索系にしろ、モンスターの討伐にしろ、実際にその依頼を行ったと証明することは案外難しいのかもしれない。
あれこれ余計な思考を展開しつつ、俺も茂みをかきわけ山肌を目指す。
水脈の洞窟はこの森を抜ければすぐだ。
このあたりでもモンスターは出現するはずだが、あたりはとても静かだ。
というか同じダンジョンを目指して歩いているはずなのに、さっそくフェイロンもセレンも姿が見えない。
2人も無事についてくれるといいな。
ふと気づくと、水の流れる音がかすかに聞こえた。
音のする方はどっちだ…?
探り探りで歩いていくと、やがて渓流にたどりついた。川の上流だ。
ザアアア…と流れるせせらぎが聞いていて心地良い。
「オーケー、川は問題なく流れてるな」
この時点で水の流れはまったく問題ない気がするが…まあ依頼はきっちりこなそう。そうしないとクリア扱いにならないし。
念のため、空の水筒に川の水を汲んでおいた。
そこから10分ほど歩いただろうか、森が開け、岩山の一角にたどりついた。
そこには、高さ3メートルほどのぽっかりとした穴が空いていた。ここがキリ水脈の洞窟の入り口だ。
「よし、さっそく行きますか」
スマホを持っていれば到着の記念撮影でもするところだが。
軽く肩を回してから、躊躇することなく歩みを進めた。
洞窟といっても、あちこちから日の光が差し込んでいるので、何も見えないわけではない。進みながら、ダンジョンのマップを記憶から引っ張り出した。
基本的には1本道だが、途中広場のようなところに出ると分かれ道が3つある。
向かっていちばん右の道に入っていけば最短だ。
「キイイイッ」
「うおおっ!?」
考えがまとまった矢先、甲高い鳴き声とともに小さな黒い影がこちらの顔面に向かって突進してきた!
咄嗟に避けることに成功したが、その黒い影は素早く移動し、天井の方に消えた。
あれはクロコウモリだな。
「キイイイッ」
再び鳴き声とともに黒い影が突進してきた。今度はしっかりとその姿を認識する。
同時に、腰に下げておいた短剣を抜き、先ほどと同じくその動きをかわしてから本体めがけて短剣を振った。
その勢いでスパッとコウモリを斬ると、コウモリはボテッと地面に落ちサラサラと砂のような、灰のようなものになっていった。どうやら無事倒したようだ。
「あーびっくりした」
当たり前だが、ゲーム内の戦闘もリアルに体感すると恐ろしいものがあるな。ずいぶんと冷静に動けた気もするが。
そして、短剣を振り回す分には問題なく動けることもわかった。少なくとも、トーカーというクラスは。短剣を使いこなせる能力があるらしい。
モンスターの身体から砂に変わったところをみると、いくつかのゴールドが落ちていた。早速拾い上げ、再び奥へと進むことにした。
しばらく進むと、洞窟の裂け目がなくなってきたのか、入口付近にくらべるとずいぶんと暗くなった。そろそろ松明をつけるか…と考えていると、どこかから音がした。
音というよりは声だ。
複数のコウモリの鳴き声とともに、女の子の叫び声が聞こえた。
「これは…とりあえず嫌な予感!」
大股で声が聞こえる方に進むと、女の子の声とともに花火のような光がパッと生まれては消えていく。
「この声、さっきの!」
通路を曲がると、そこは洞窟内のホールのような場所だった。
見ると、予想通り、セレンが懸命に杖を振り、魔法を放っている。
「ファイヤーボール! ファイヤー、ボール!!」
セレンが火球を放つが、コウモリたちは機敏な動きでそれを避けていた。
彼女のレベルが低いせいなのか、火球のスピードはたいして速くない。
この程度ではコウモリも余裕なのだろう。
「仕方ないかっ」
俺は探検を取り出し、背後の隙をつくようにして1匹のコウモリを斬り、そのまま倒すことに成功した。
「あ、アスマさん!」
「セレン、手伝うよ!」
散々やりこんだスマホゲーム世界に転生したのでサ終を覆したい! 朝雨 @asaame
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