五話 醜い火種
連携を確認してから、翌日。金を稼ごうと近くの森に入ると、不自然な光景を目にした。何故、不自然なのかって?それは、獣人領土のはずなのに人間が狩をしているから。そりゃ、ありえない話ではないんだけど…小型の魔物ばかりを集中して狙っている。しかもかなりの数で。
「はぁ…どうしたものかね?」
「あれは…いつも通りです…」
「え?あれいつも通りなの?」
「はい…戦争が始まってから…ずっと」
なんでギルドに居た時に教えてくれなかったのよ?ここ最近かな、とは思ってたけど戦争が始まってからって事は…結構前なんじゃない?道理で小型の魔物しかいないわけだ。だってこうやって狩尽くされてるんだもん。
「これは”荒らし”と判断してもいいのかな?」
「どう…ですかね…?」
「う~ん…。」
正直頭を悩ませる問題だ。人間に迂闊に手を出すと、それはそれで面倒くさい事になりそうだし。そもそも、領主の意向じゃないのに俺が手を出す事も出来ない。ただ狩をしているだけだ、と言われればそれまでだしなぁ…。
「そもそもこれは何をしているんだろうね?」
「さぁ…私にも…分かりません…」
ギルドの獣人も困っている感じではなかったし。一応話を通してみるか…受付嬢に。
「今日はとりあえず、いっか」
「はい…戻りますか…?」
「うん、一度ギルドに寄ろう」
二人でギルドまで帰る。ギルドはやっぱり賑わっているし、人間はやっぱり狩をしているだけなのだろうか?
「あの、人間がここいらで狩りをしていたんですけど?」
「ああ、いつも通りですね」
「うん、この領地的にはどうなの?本当に問題はないの?小型の魔物ばかり狩られていたけど?」
「はい、我々はコルトランドとは狩人の体制が違うのでそこまで問題は出ませんよ!」
聞けば、イトベリア方面では狩人の集団を個として認識するみたいで、多いと数十人で狩りを行って、安全を確保しつつ戦う戦法が採用されているらしい。なるほど、寧ろ小型の魔物が多く消えてくれた方が有難いのかな?邪魔してくる魔物も居なくなるわけだし。
「じゃあ、本当にいいんですね?」
「ええ、下手に突いて問題になる方が面倒ですので…」
「確かに、それはそうですよね」
「それに狩の効率は上がる一方ですよ?」
「え…なんでです?」
「大型の方が討伐されると、資金、装備、経済状況の改善が見込めますので」
受付嬢はニコニコしながら答えた。え、もしかしてあの人間たちって…イトベリアに骨を埋める覚悟をした人たち?そんなわけ無いよな…?
「とりあえず…何もしないでおきますね」
「はい!是非そうしてください!」
「ところで狩が出来ないんですけど?」
「何故です?」
「かなりの数が居るんですよ、人間」
「それは流石に…困りましたね?」
受付嬢が考え込んでいると、外から鐘の音が聞こえる。大きいし、うるさい。なんだ?こんな時に?すると、受付嬢は素早くギルドの人を避難誘導している。なんだ?!隕石でも降ってくるのか?!
「なんですか?隕石でも降ってくるんですか?」
「違います!戦争がまた始まろうとしていますよ!」
「…?休戦だったの?」
「いえ、人間は準備が整うと勝手に攻め込んでくるんです!」
「えぇ…」
なんか…戦法としては正しいんだけど…それで勝ててないのも問題じゃない?獣人の領土が攻め落とせない理由は何だろう?獣人の団結力も関係しているかもしれない。人間は能力至上主義だから。
「メェル、どうする?」
「人間…倒します…?」
「う~ん…戦力にどれぐらいの差があるかは見て見たいし、人間倒したら領主に会えるかな?」
「ふふ…イトベリアの兵士みたいな事言ってます…。」
メェルはクスクス笑っている。まぁ、人間って嫌いじゃないし俺も人間なんだけど…この世界の人は色々やりすぎだから。それと、魔王に話を聞くためにしなければいけない事なんだよ。でも…何か出ていくにしても人間ってバレないようにしないといけないよな?
「何かないかな?バレないように出来るいい装備」
「フェイスマスク…被りますか…?」
「なんでそんなの売ってるの?」
「分からないですけど…なんでですかね…?」
メェルが持っていた獣人のフェイスマスクを貸してくれる。視界が悪くなるけど、元々そんなに視界が広い方じゃないし、いいよね。
「よし、じゃあ行ってみようか?」
「はい…頑張ります…!」
メェルと獣人の領土を守るべく、城門の方へ急ぐ。城門の目の前では、何やら後ろに人間を大多数連れた指揮官らしき人物が、獣人を怒鳴りつけている。
「なんだこの領地は!大型の魔物ばかりで進軍するのに兵士がやられてしまったではないか!」
「といいますと?」
「お前は頭が悪いのか!これは立派な罪だぞ!」
頭が悪いのはお前だろう。進軍って言っておきながら怪我したからなんだと言うんだ?もっとマシな言いがかりをつけたらどうだ…。
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