(2)

 オーキチ選手、魔物が一瞬の油断をしたその瞬間に、首元に刃を立てます!魔物はそのまま血を流してダウン!これは…このまま試合終了です!メェル選手の事が気がかりな様子のオーキチ選手はすぐさま駆け寄ります!

「体が…勝手に動きました…?」

「どういう事?」

「いつもよりも…動けた気がします…!」

 落ち込んでいるのかな、と思って駆け寄ってみればかすかな手ごたえを感じているみたいだ。俺の方も、二人を動かしながらの戦闘は初めてだったけど、かなりうまく行けたような気がする。この目の前に転がっている魔物はかなり手ごわかったと思うし。うん、初めてにしては上出来なんじゃないかな。

 それにしても…この森は気がかりだな。周りを見渡してみて、感じる事がある。小さくて弱い魔物が居ない。この領地に入ってきてから大きい魔物としか戦闘していないような気がする。何故だろう、妙な胸騒ぎがしてくる。魔物をバッグに入れて、ギルドへと向かった。

「これもお願いします」

 どさっと大きな魔物をバッグの中から出す。受付嬢は目を丸くして驚いていた、この展開は見慣れてしまったけど。良く生きて帰ってこれたな、とかひそひそ聞こえてくる。周りからも注目を集めてしまっているようだ。よし、いい調子かもしれない。領主の耳に入ればそれでいい。

「どうして大型の魔物ばかりを狩るんですか…?」

「どうして…?この周りにこれぐらいの魔物しか居ないからですかね?」

「それはおかしいですね…何か問題が発生しているかもしれないです」

 本来であれば居るのか?小型の魔物。俺がこの世界に来てから、大き目の魔物ばかり見てきたけど。小型だけ狩りつくされている…とか?でも、ギルドが把握していないのはおかしいな。陰謀があるのだろうか?でも、ここまでバックアップ体制が整っている領地に対してこれをしても仕事が減るだけでは?

「う~む…?」

「どうかされましたか?」

「何か仕掛けられているのかな?って思って」

「ここまで大掛かりな仕掛けをしてまでこの領地を襲いたいわけないじゃないですか!」

 受付嬢は”あはは”と大きな声を上げて笑っている。すごい、平和ボケしている!戦争の最中なのに!まぁ…領民が良いと思っているなら…いっか。

「この後は…どうします…?」

「そうだね~、連携が取れる事は確認できたし…どうしようね?」

 メェルは俺の顔を覗き込んでくる。どうしたものか、連携って一朝一夕でなんとかなるものじゃないし、正直大型の魔物ばかりを狩るのも確かに怖い。死んでしまっては元も子もない。本当なら弱い魔物から強い魔物へどんどん難易度を上げていきたいんだけど。

「見た感じは大型しか居なかったし、ここは特性を理解しようのコーナーする?」

「特性…ですか…?」

「メェルには何が出来るかかな?」

 ギルドを出て歩きながら話す。メェルの特徴を知ることができれば、今後どのように連携を取れるか、が分かる。それだけでも違ってくるだろう。

「分かりました…分かっている事を話します…!」

 メェルの特徴は、羊毛を自在に出せる事、頭が良い、らせん型の角で攻撃出来る事、視野が広い事が良い特徴らしい。逆にいえば、奥行きが認識できない、ストレスを感じるとパニックになる、群れが居ないとあまり強くないという事らしい。臆病なのは良い事かな。

「なるほどね、本当にそのまんまだ」

「そのまんま…ですか…?」

「ああ、こっちの話だから気にしないでね」

「はい…」

 群れは別にこれから組むパーティを群れとして認識することでパニックになるのは防げるだろう。ていうか、それさえクリアできれば後は超強くないか?あの羊毛は…多分敵からの攻撃をガードすることが出来るはず。とんでもない性能しているよな…。

「パーティ組めなかったのは…パニックの所為だけ?」

「いえ…いろいろ…あります」

「奥行が認識できないとかもやばいのかな?」

「はい…群れとして認識できないし…すぐにパニックになってしまいました…」

 肩を落とすメェルを慰める。そりゃ、そうだよな。群れとして認識するって事は、パーティに命を預けられるかどうかだ。そう考えたら…俺も出来るかどうか不安になってきた。

「でも…大丈夫です…!今日で…認識できました…!」

「え?早くない?」

「信頼してます…から…!」

 メェルの強い瞳に飲み込まれそうになる。俺はそんなに立派な人間じゃないんだぞ…?そもそも…信頼とか信用とか重たいんだよな…。でも確かに、殺すつもりは一切ないし、大丈夫だろう!

「分かった、任せてくれ」

「はい…!」

 メェルは顔を上げていい笑顔を見せてくれた。この笑顔、なんとしても守らなくてはならない。いや…待てよ?守られるの俺じゃないか?

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