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 メェル選手の絶体絶命的状況にオーキチ選手は焦らず動揺せず、冷静です。狙うは眉間の一点、そこに全神経を集中させます!勢いよく、魔物がメェル選手に飛び掛かる!今がチャンスと言わんばかりに、剣を投げつける!投げた剣は寸分たがわず魔物の眉間にクリーンヒットした!

「危なかった…」

 ドスンという音と共に、魔物が崩れ落ちる。剣を投げる時も実況をすれば当たるのか?すべてにおいて優遇されているんじゃないか、この実況スキルって。ていうか、でかいな…この魔物。良くあの枝が支えられたものだな。

「ごめん…なさい…」

「何が?強いていうなら俺の方がじゃない?」

 なんで謝られたのかな…?盾を弾かれた事?でも、あれがあったから倒すことが出来たしな?そもそも、俺より二回りも三回りも大きい魔物相手に良く大楯構えてられたと思うんだけど。誇ってもいいんだよ?

「とりあえず…これ運ばない?後、これどこが討伐の証?」

「嘴と…目です…」

 メェルがすごい落ち込んでる。どうすれば励ませるかな…なんかこう…小動物をいじめたみたいで嫌だな。そんな事を考えながら、嘴と目をはぎ取ってバッグにしまう。まぁ、ご飯食べれば元気出るか!タコ焼きを作れるかどうかはこの街に材料が売ってるかどうかにかかってるけど。

「行こう、ていうかこれを調理したいんだけど…?」

「ギルドに…ありますよ…」

「そっか、一緒に運んでくれる?」

「はい…」

 ギルドまで魔物を引きずる。街の獣人はすっごい怪訝な顔をしていたけど、関係ない。これは、最高の料理になるのだから!

「これ、換金してください」

「はい、分かりました」

 ギルドの受付に提出する。受付の人は俺の顔とメェルの顔と魔物の顔を見てかなり驚いている。なんだろう、もしかしてなんか悪い事したかな?この魔物…守り神だったとか?!そんなわけ無いよな。だって、問答無用で声上げたら襲ってきたし。

「これを…二人で?」

「ええ、そうですけど?」

「事も無げに?!」

 どうも様子がおかしい。もしかして、コルトランドと同じ感じになってしまうか?この魔物って強いのか?魔物の元になっている物が大体わかるから、弱点とか狙えば倒せるんじゃないか?違うのか…?

「この魔物はタコパスと言いまして、上位の魔物になりますランクで言うと…シルバーからゴールドですね」

「はぁ…え?高いか…?」

「高いですよ?!出会ったら逃げないと命はないんですから!」

 ウルウルした目でカウンターから乗り出してくる。そうだったんだ…美味しいかどうかでしか見てないから何も考えてなかった。メェル…ごめんね、凄い怖い思いしたんじゃないの?

「メェル、ごめん!」

「いえ…私は何も…」

「怖かったでしょ?」

「はい…怖いですけど…」

「そうですよね、メェルさんもランクはカッパーですから」

「えっと…ごめんなさい、調理場は…?」

「恩人を死なせたくないのに…調理場は裏手にありますよ」

 受付の獣人と別れて、調理場に向かう。ごめん、心配してくれているところ悪いんだけど…本当にお腹が空いてて。タコ焼きって考えた瞬間に脳みそを支配されてしまったんだ。まずは…タコを茹でよう。お湯の中に魔物の足を入れて見る。みるみる内に赤くなっていく。

「おぉ、タコだ!」

 茹で上がった物を冷まして、ゆでる前に買っておいたものを全て合わせて液を作る。それを熱したフライパン…じゃない。タコ焼き機って無いのかな?無いよな…どうしようか。丸…丸…。あ、これを借りよう、この鉄板を叩けばいいか。

「ごめんなさい、借ります」

 鉄板を丸く…丸く…よし出来た。不格好だけど丸く焼ければ今の所は良いだろう!油を塗りこんで…火にかけて…液を流してタコを入れて…丸くして、完成!おぉ…タコ焼きだ!

「…え?何でこんなにギャラリーが居るの?」

 気づけば周りを囲まれていた。ギルド職員も狩人も皆こっちに注目していた。なんでよ?もしかして…タコ焼きが狙われている?!ダメだ、これはやらないぞ?!このまま、熱々をふぅふぅして…冷まして!

「うまい!」

こりこりの触感と中のトロトロ具合が最高にいい。隣に居るメェルに差し出すと、俺とタコ焼きを交互に見てから一口食べる。あ、それめっちゃ熱いよ?!メェルは目を見開いてハフハフしながら食べている。小さい声で”美味しい”と呟いて喜んでいた。

「皆さんも…食べますか?」

 声を掛けた瞬間、流れるように人が入ってくる。青空の下、仲良く皆で調理してタコ焼きを食べる。中には出来立てを食べるがためにそのまま口に放り込んで”ぽんっ”という音と共に口から噴出させる芸人みたいなのも居た。

「オーキチさん…私を仲間に入れてください…!」

「うん?色々な所に旅に行くけど…いいの?」

「はい…迷惑じゃ無ければ…。」

「今日の戦いは見事だったよ、居てくれてありがとう」

 お礼を言ったらメェルは笑顔で俺を見つめていた。笑顔になったんだったら良かったね。

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