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 バカ息子が先代国王を暗殺して、自分の政治をしようとした。ただ、あの中身が無い国王がそんなことを出来るはずがない。きっと、周りに賛同している貴族共が居るな。そいつらもまとめて腐っているのか。あの国ってなんで忠誠心が高いのか分からんな。周りに人間至上主義を植え付けているのか?

「魔王領は対応しなければならないので忙しいでしょう」

「何に対応するんです?」

「人間側が言いがかりをつけてきて、大変なんです」

「そんなに言いがかりつけられます?」

「何かと、翼がどうのとか獣人は臭いとかですね」

 う~ん…言いがかりの付け方が子供じゃないか?魔王は大変だな…こんなのに付き合わされて戦争してるのか?滅ぼしてしまえばいいのに。あ~…俺の器の小ささが見えた。魔王とは全然違うんだな、俺は。

「ところで、何か手伝う事はありますか?」

「魔物の数を減らしていただきたいですかね?」

「じゃあ、やっておきましょうか?」

「え、いいんですか?お客人なのに…」

「一宿一飯の恩義ですから」

「そうですか…ありがとうございます」

「そういえば、自分たちでやろうとは思わないのですか?」

「あ~…私達は武器を携帯する事を禁じられていますので」

 刀狩りされてるんかい。牙を剥く可能性をちゃっかり理解しているのが…またなんとも言えない。なんだか無性に腹が立つな。こんなしがらみ、本来なら放置したい所ではあるけど、平和な世界目指してもいいかもしれない。実況さえできればそれでいいし。では行きますか。

 村の外に出て、あたりを散策する…までもなくなんでか目の前に大きな魔物が居た。なんだ…あれ?あたりはすっかり暗くて、見えない。なんか、黒くて…大きくて…熊か?慣れるまで動かないようにしておこう。じっと目を凝らしていると、姿が見えてくる。熊だった。ワイルドボア、ボア、ベア。なんかなぁ…似てるなぁ?

 行きますよ、全力応援、自分を振り立たせて!これまでの魔物の名前が似てても、姿は別物、攻撃手段も別物!魔物を相手に意気揚々と切りかかります!奇襲攻撃、魔物は何故こんなところに立っているか、自分でも分からないかもしれません!バックアタックしてみて驚きました、毛皮が分厚い!刃が全く立ちません!弾かれて相手はこちらを認識した様子!魔物の攻撃は爪を横に振り回す、俗にいうひっかき攻撃!オーキチ選手はひらりと躱す、まるでダンスをしているかのような華麗さです!

「来いよ!」

 オーキチ選手の挑発!もはやお家芸になっております!魔物はまんまと乗ってきてこっちに向かって、猛突進!イノシシの必殺技かと思われる程に突進をしてくる!気づけば目の前に居ます、さぁどうする!オーキチ選手、飛んだ!上空から攻撃を仕掛ける!しかし、先ほど剣が弾かれたことは身をもって体験済み、どうする…あっと?!今度は剣を下に向けて落ちていく!上空からの刺突攻撃!魔物は飛んだことに気づいていない、どうなる、どうなる?!決まった!!魔物の頭を貫くことに成功しました!魔物は苦しむ間もなくダウン!なんという事でしょう、ここ最近の連戦で体が慣れている様子のオーキチ選手です!

 「ふぅ…」

 余裕をもって戦うことが出来るようになってきたな…。うん…?何かがさがさ音がする…?後ろを振り返ると、よだれを垂らした魔物がこっちを見ていた。怖すぎ!!これだから、周りが暗いのは嫌なんだ…ホラーゲームみたいで。

 「今度は誰?」

 大きな角、細長い顔、華奢な体…?鹿?肉食なの?こっちでは?ここまでくると狙ってるでしょ?だってこれ、ディアだよ。次は何だろうね…アで終わるんだよ、きっと。

 余計な事を考えながらの開戦!幕開けでございます!魔物は鹿型という事から分かりますが、立派な角が武器でございます!いかようにして戦うでしょうか?角は何故か刃のように鋭い!これはきっと幾人もの命を葬ってきた歴戦の証なのでしょう!鹿の角は生え変わると言われています、同時に食材にもなります!煮るなり焼くなり、なんでもござれと言う事です!

 食べる事ばかりに気を取られていますが、大変危険です、もう勝ったつもりでいるなんて!自分に甘すぎます!この世界に来てから運が良かっただけに過ぎないというのに!さぁさぁ、ゆっくり見あって、先に動いたのは魔物だ、突進をしてくる…が途中で止まる!オーキチ選手は堪らずバックステップです、これはいったいどういう事なのか!まさかの突き上げを喰らわされそうになりました、危機一髪でしたね!

「まさか…お前の角、横からの攻撃に弱いのか?」

 あっと、分析している!余裕綽綽です!横からの攻撃に弱いとすれば、鹿が止まって突き上げをしてくる瞬間を狙うか、こちらから攻めるか、二択しかないでしょうね。オーキチ選手はどうするというのか!ここで、オーキチ選手が攻めに転ずる!魔物の角を直接狙いに行く…が!弾かれてしまう!角の先っぽは異様に硬いようです!

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