三話 求めていた景色

 村人は俺の姿を見るなら、駆け寄ってくる。なんだ?!何か悪い事でもしただろうか、トラウマがフラッシュバックする。記者が駆け寄ってきて、寄ってたかって揚げ足を取ってくる、釈明しようとすればドツボにはまる。もう、意味が分からない。

「どうされました?」

「あ…どうもしてないです」

「旅人ですか?休んでいきませんか?」

「ああ、ありがとうございます、ですが急がなければ」

「え?どうかしたんですか?」

 心配してもらえるのはいつ以来だろうか。村人の温かい言葉に心が救われる。全員が全員、悪意を持っているわけではない、分かっているはずだったのに。どうしても悪意の方を優先的に受け取ってしまう傾向がある。目立ってしまうんだ、悪意の方が。

「はは、国王に追われてまして」

「えぇ?!何をしたんですか?」

「戦争に出ろと言われたので」

「ああ…あれは嫌なら逃げるしかないですね」

「ここは平和で幸せそうですね?」

「ええ、ここは戦争反対派が多いですから」

 なるほど…待てよ?戦争反対派なんて言ったら、国王に何されるか分かったもんじゃないぞ?戦争に出ろ、って言われたのを断っただけで殺すぞ?って言われたんだぞ?どういう事なんだ?ここだけは少しばかり事情が違うのか?

「話せば長くなりますけど、聞きますか?」

「じゃあ、明朝までに」

 その日はここに居させてもらう事にした。ここの村は周辺に柵が敷かれていて、家が並んでいる感じだ。これで魔物の侵入なんかを防げるのだろうか?魔族も居るから、もしかしたら何か特殊な仕掛けなんかを設置していたりするのかな?

 地図を見せてもらうと、本当に綺麗に六角形だった。この村は境界線の上に位置していて、丁度真上の所らしい。まっすぐ歩いてきたつもりだったけど、大幅に逸れているのか。後、そもそも、大陸がそこまで大きくないのか?数時間歩いただけで、魔王領に入れるぐらいなのだから、あんまり大きくないのだろうな。

「ここの村は特別なんですよ」

「…?何がです?」

「実験的に許されているというか…」

「あのク…国王が何をしでかしているのです?」

「はは、人間とその他の種族が子を成すとどうなると思いますか?」

 その他の種族とか分からないんだが…でも、何となくわかるか。特徴を受け継いで生まれてくるって事なのだろう。ん…?でもそれだけで保護の対象になるのか?

「実は、人間以外の種族はスキルを持たないんです」

「はぁ…なるほど」

「他の種族と子を成す事によって、スキルと他の種族の特徴を持った子が生まれる場合があります」

「それは強いんですかね?」

「強いはずです、戦争に出せば無敵なのではないでしょうか」

「人間以外の種族にはそれぞれ特徴が現れる、その特徴+スキルが欲しい、と?」

「だと思いますね、望まれているのでしょう」

 戦争の事しか頭にない、と。でも、うまく行った例があまり無さそうだな。コルトランド領で生まれた場合は人間側の戦争に駆り出されるのか?本当に可哀想だ。

「可哀想ですね、兵器みたいな扱いを受けるのだろうな…」

「ええ、なので、抵抗していますよ?」

「はは、ここの村人は強いみたいだ」

「そうかもしれないですね、心が強いだけかもしれないですけど」

「魔王領では特徴の事を特技と言います」

「へぇ…特技、呼び方が違うんですね」

「ええ、そして人間と他種族の間の子を亜人と呼びます」

 亜人…人間と似て非なる者。嫌な呼び方だな、当人たちが何も思ってないならいいけど。戦争に駆り出す癖に、人間と似て非なる者とか呼んでるのか?人間至上主義で言えば、人間ではないという事だろ?本当に救えない奴らだ、人間。まぁ、俺も人間なんだけど。ここの人達はきっと、国王から離れてこういう生活をしているから心が綺麗なんだろうな。

「魔王領ってどういう感じです?分かりますか?」

「何をお聞きになりたいですか?」

「先代国王との話を聞きたくて」

「コルトランド一世様ですかね?あの方は偉大な方でしたよ」

 尊敬される程の国王から何故あんな絵にかいたようなバカ息子が生まれてしまったんだ?まぁ…ありがちな話だと思うんだけど。偉大な親父の背中を追っているかどうかなのかな。先代国王が優しすぎたのかもしれないな。

「魔王様は逆に今でも人間を拒むおつもりはないようです」

「え?!こんなにされているのに?!」

「ええ、凄いですよね」

 凄いというか、こっちもこっちで馬鹿なのでは?!流石にこんなに自国を馬鹿にされているのに…いや、器が大きいのか?う~ん…感覚が狂ってきた。なんなんだ、この世界。

「きっと平和を望んでいるのでしょうね、対話を望んでいらっしゃるはずです」

「もし、仮に、対話が成立しなかったら?」

「私は魔王様ではないので、答えられないですけど…」

「それはそうですね」

「先代国王様はきっと暗殺されたのでしょう、元気でしたから」

 重いパンチを後半に…嘘じゃん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る