三話 求めていた景色
「ここはどこなんだろうな?」
王都を出て、数時間。王都を背にして歩き続けた。ただ、街道を歩いて行くと捜索隊に見つかる危険性がある、だからこそ森の中を歩き続けることにした。ただ、今どこを歩いているかが全く分からない。日も暮れ始めたが、ここら辺で休憩しても良いのだろうか。
「はぁ…大変な事になったよなぁ…。」
生い茂った森の中で、ふと目に着いた大き目の石に腰かけて休憩する。空を見上げても、空は見えない。木の枝や葉に遮られているから。その代わり、鳥の囀りや木々のざわめく音が聞こえて心地よい。この世界に来て、一日目のはずなのに、元々この世界に住んでいたかのような感覚に襲われる。
人間にとってのスキルがどんな存在なのか分かってないし、そもそも他種族の事についても詳しい事を全く知らないんだ。とんでもなく不思議だ。実況をやるなら人間相手と思っていたんだけど…この考えは捨てていいかもしれないな。やりたい事を続けられる事が俺にとっては大事だが…果たしてどのような形になるかな?
休憩を終えて、腰かけていた大きな石から立ち上がり歩きながら考える。なんで俺は実況をやろうと思ったんだっけか。俺のやりたい事はいつから実況になったんだっけか。実況者になるための道のりは覚えている、苦しかったがそれ以上にやりたい事が出来ている喜びが大きかったから。
「英次のおかげだったか。」
昔から英次はサーブルで世界一位になる、そのために競技に力を注いでいた。小さいころから隣に居て、俺はそれをずっと見守っていた。いつしか、英次の行動を実況するようになった。英次が喜んで、それで……そうか。俺のやった事で喜んでくれたからやろうと思ったんだっけか。
「よいしょっと…これで最後だな」
一日歩いて、どっぷり日が暮れた頃。薪を集めて焚火をする。どこまで来たか分からないのは変わらないから、いっそのこと野宿してしまおう、という魂胆だ。焚火を見ながら腰かけていたらいつの間にかうとうとしだした。あぁ、相当疲れていたんだな。まぁ色々あったしな。
「……一。…健一……。健一!」
「んが?!なんだ?!その声はもしかして…?」
一度たりとも忘れた事は無かったし、こっちに来てからも考え続けていた相手…英次。今まさに目の前に居る、何故?死んだはずじゃないか?どういう事だ…?!見間違いなんてない、何回目を擦っても目の前に居る。トレードマークの銀色の髪を揺らしている。
「え?俺死んだ?」
「はは、そんな訳ないだろう?死んだのは僕だ、というか健一も…だよね。」
「お前…なんで死んだんだよ?」
「はは、色々あったんだ…いろいろね。」
英次は俺から視線を外して、遠い目をしている。どうして、そんなに悲しそうな眼をしているんだ?叶ったじゃないか、夢が。世界一位に座り続けたじゃないか。
「そうだね、僕は自殺をしてないんだ」
「……は?!」
「殺されてしまったよ、きっと恨まれて…いや、疎まれていたんだね」
「そんな事……。」
ある、居る、心当たりが。俺が英次の実況をしている時にも粘着してきていた人が居た。中身はサーブルで英次にずっと勝つ事が出来なかった選手、という噂が流れていた。そんな眉唾な話は信じていなかったんだけど…まさか。
「はは、その通り。彼は八百長も請け負う事が出来る選手だったから。」
「本当にどこまでもどうしようもない……っ!!」
ここまで言って涙が出て来た。正直疑いもあった。英次が俺の実況を楽しんでいなかったんじゃないかとか、英次の行動を俺は理解出来ていなかったんじゃないかとか。それでも、俺の目の前に…幻だったとしても……出てきてくれた事が嬉しい。真実が聞けて良かったとも思うし、何も出来なかった事に悔しさもこみ上げてくる。
「健一の所為じゃない、だから健一にはここで第二の人生を謳歌して欲しいんだ」
「あ?俺のために?でもそんな事出来る訳…」
「だから別れの挨拶に来たんだ、僕はこの魂を持って…健一を違う世界に連れて来たんだから」
「お前……なんで勝手な事をするんだよ!!」
優しい奴なのは分かってた。だから俺は電話でいつも”実況はどうだった?”と聞いてたんだ!何があっても、お前を面白おかしくしてやる自身があったから。八百長を疑われたって、私生活に何が起きたって。笑い話にすれば一時の噂なんてすぐにどうにでもなるから。狙われているかもしれない、と言ってくれれば、助けにだって行けたかもしれないのに!!
「これが僕から出来る最後のプレゼントだからね」
「そう……か、じゃあ、楽しむからな……。」
「人間と関わらないようにする世界をお願いしたらさ、この世界になっちゃったんだ」
英次がどんどん光を帯びて消えていく。最後の挨拶なんて、するなよ……。でも、ありがとうな。お前のおかげでなんか吹っ切れた気がするよ。
「それとさ、僕からのお願いなんだけど…その青年の悩みを解消してくれないかな?」
「な、それはどういう?」
「世の中を平和に導いてあげてよ、健一の…僕の愛した”君の実況”で!」
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